更新日2021年6月02日
(目次)
そもそも、生前贈与をすると贈与税がかかるはずなのに、何故相続税がかかる話になるの?と疑問に思う方もいるでしょう。
順を追って説明いたします。
まず、相続税の節税対策を考えたときに、贈与税がかからない範囲で暦年贈与を真っ先に思い浮かべるのではないでしょうか。
相続税は、被相続人(亡くなった方)の相続財産の総額から基礎控除額を差し引いた額に対して課税されます。したがって、相続財産の総額が大きければ大きいほど、相続税の金額も大きくなっていくので、相続財産を減らせば相続税の金額も小さくなるということは、すぐに分かりますね。
そして、生前贈与は、この相続財産の総額を小さくしてできるだけ相続税額を抑えるために行われる節税対策の1つです。例えば、1億円の現金を持っている人が、息子に3,000万円の生前贈与をしたとします。そうすると、相続税の対象となる財産が3,000万円も減り、大幅な節税を実現することができるのです。
さらに、平成27年1月1日から、相続税の基礎控除が引き下げられるとともに、祖父母や父母などから20歳以上の子どもや孫等へ贈与(暦年贈与)した場合の税率が低くなったこともあり、さかんに暦年贈与が行われるようになりました。
参考記事
平成27年以降に父母などから財産の贈与を受けた場合はご注意ください(暦年課税の場合)
しかし、中には相続税逃れをするために制度を悪用する人も出てくるものです。それを防止するために考えられたのが「生前贈与加算」です。
具体的には、「相続などにより財産を取得した人が、被相続人からその死亡前3年以内に贈与を受けた財産がある場合は、その人の相続税の課税価格に贈与財産の額を加えて相続税を計算する」ということです。相続税法第19条に規定されています。
それでは、次章から詳しく見ていきましょう。
被相続人の死亡前3年以内に贈与を受けたからといって、必ずしも生前贈与加算の対象者となるわけではありません。
法律上、生前贈与加算の対象者となるのは、以下の要件を満たす人のみとされています。
【生前贈与加算の対象者となる要件】
✔被相続人の死亡前3年以内に贈与を受けた人
✔相続または遺贈によって財産を取得した人
具体的に説明いたします。
死亡前3年以内というのは、死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日前の間のことをいいます。
例えば、被相続人が2021年4月1日に亡くなったとすると、この日からさかのぼって3年前の2018年4月1日が起算点となります。
したがって、2018年4月1日から2021年4月1日の間に贈与された財産は、生前贈与加算の対象となるのです。死亡した年の贈与も、当然対象となります。
では図のように、贈与を受けた分の贈与税を支払っていたような場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、相続税額から納めた分の贈与税額が控除され、二重に税金がかかるということはないのでご安心ください。
また、暦年贈与が年間110万円まで非課税になることを利用して、非課税の範囲で贈与をする方も多いでしょう。しかし、被相続人の死亡前3年以内の贈与については、110万円以下でも生前贈与加算の対象になります。ここは要注意です。
遺贈とは、被相続人の遺言によって財産を取得することです。例えば、遺言に「Aに甲不動産を遺贈する」と記載があった場合、Aは甲不動産を遺贈によって取得したことになります。
相続人であっても被相続人の財産を取得していない人は、原則として生前贈与加算の対象とはなりません。
なお、相続税は、兄弟姉妹や相続人以外が相続財産を取得した場合には税額が2割加算されます。
①に該当する人で、みなし相続財産を取得した人は、たとえ被相続人の財産を取得していなくても生前贈与加算の対象者となります。
みなし相続財産とは、本来は相続財産として扱われないものの、相続税を計算する上では相続財産とみなされる財産のことです。主なみなし相続財産には「生命保険金」と「死亡退職金」があります。
これらのみなし相続財産は、被相続人の死亡によって支払われるお金ですので、被相続人の財産を全く取得していないとしても、みなし相続財産を取得した人は、生前贈与加算の対象者となります。
また、孫や相続人の配偶者への贈与は、原則、生前贈与加算の対象外となりますが、みなし相続財産を取得した場合は対象者となります。孫が代襲相続人となり相続財産を取得したような場合も同様です。
孫への贈与については、「5. 孫への生前贈与で効果的に節税を」で詳しく説明します。
参考記事
👉みなし相続財産
なお、相続税の課税価格に加える贈与財産の額は、相続発生時の価額ではなく「贈与時」の価額とされています。仮に、贈与時に3,000万円だった土地が、相続発生時には5,000万円に値上がりしていたとしても、課税価格に加える額は3,000万円で良いのです。逆に、贈与時に3,000万円だった土地が、贈与時には1,000万円まで値下がりしていた場合でも、課税価格に加える額は贈与時の3,000万円となりますのでご注意ください。
前章のとおり、生前贈与加算の対象となる人・ならない人があるとすれば、「生前贈与加算の対象となる財産・ならない財産」も存在します。
被相続人の死亡前3年以内に贈与された財産であっても、以下の財産については生前贈与加算の対象となりません。
先ほどお伝えしたとおり、生前贈与加算の対象者の要件は、①被相続人の死亡前3年以内に贈与を受け、かつ②相続または遺贈によって財産を取得した人です。
したがって、相続放棄をした場合や、もともと相続人ではない場合等により相続財産を取得していない人は、上の2つの要件を満たしていないため、これらの人が被相続人の死亡前3年以内に贈与を受けた財産は、生前贈与加算の対象となりません。
「贈与税の配偶者控除」とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、自宅や自宅を取得するための金銭を贈与した場合に、2,000万円までであれば贈与税が非課税になる制度です。
この特例を適用したことにより非課税となった贈与額については、生前贈与加算の対象外となります。
例えば、被相続人は亡くなる2年前に、妻に対して3,000万円の住宅取得資金を贈与しました。この場合、贈与税の配偶者控除を適用して、その内の2,000万円を非課税で贈与したとすると、非課税枠の2,000万円は生前贈与加算の対象外ですが、残りの1,000万円は生前贈与加算の対象になるということです。
贈与税には、父母・祖父母から住宅の新築や増改築等の資金提供を受けた場合に、一定額までは非課税で贈与できる特例があります。
この特例を適用して贈与された住宅取得等資金のうち、非課税と認められた金額については、生前贈与加算の対象外です。
平成25年4月1日から令和5年3月31日までの間に、父母・祖父母から教育資金の贈与を受けた場合、最大1,500万円までは非課税で贈与できる特例があります。
この特例を適用して贈与された教育資金のうち、非課税と認められた金額については、生前贈与加算の対象外です。
ただし、贈与した被相続人が死亡した場合に、残額があれば一定の計算のもと算出した金額を相続財産として相続税の対象(2割加算)となります。
また、贈与を受けた人が一定の年齢になったこと等で贈与契約が終了するような場合は、契約終了時に残額があればその時点に贈与されたことになります。要件により、生前贈与加算の対象となる場合がありますので注意が必要です。
父母・祖父母から結婚や子育て資金の贈与を受けた場合、1,000万円までは贈与税が非課税となる特例があります。
この特例を適用して贈与された結婚・子育て資金のうち、非課税と認められた金額については、生前贈与加算の対象外です。
ただし、贈与した被相続人が死亡した場合に、残額があれば一定の計算のもと算出した金額を相続財産として相続税の対象(2割加算)となります。
また、贈与を受けた人が50歳になったこと等で贈与契約が終了するような場合は、契約終了時に残額があればその時点に贈与されたことになります。要件により、生前贈与加算の対象となる場合がありますので注意が必要です。
生前贈与を行う際、死亡前3年以内の生前贈与加算を気をつけるだけでは節税対策として十分ではありません。ここでは、生前贈与の注意点をいくつかご紹介していきます。
歴年課税であれば年間110万円までは非課税で贈与することができます。110万円を超える贈与には贈与税がかかってしまうため、非課税の枠をうまく利用して、子や孫に毎年コツコツと贈与を行う方法は、最も効果のある節税対策として広く活用されている方法です。
例えば、2人の子に毎年110万円ずつの贈与を行うとすると、10年間で2,200万円もの財産を無税で移転することができ、相続税を大幅に減額することができます。さらに、将来の納税資金を早い段階で準備することもできるのです。
しかし、毎年同じ時期に同じ額の生前贈与を行うと、税務署から節税目的の「定期贈与」であるとみなされ、あとから多額の贈与税が課税されてしまう可能性があります。長い年月をかけて行ってきた生前贈与が課税対象となってしまっては、せっかくの努力も水の泡です。
そのようなことを防ぐため、毎年贈与の時期や金額を変える、贈与をする度に贈与契約書を作成するなど、定期贈与とみなされないような工夫をしましょう。
名義預金とは、口座の名義人と真の預金者が異なる預金のことです。例えば、口座の名義人は孫だが、その口座の通帳やキャッシュカード、印鑑などは預金者が管理している場合なども名義預金に該当します。
この場合、名義預金の口座に生前贈与のつもりで入金していたとしても、そのお金は孫への贈与ではなく、自分自身の預金として扱われてしまい、相続税の課税対象となってしまうのです。
そのようなことを防ぐため、生前贈与のための口座を開設する場合は、口座名義人本人が通帳やキャッシュカード、印鑑などを管理するなどして、名義預金とみなされないようにしましょう。
「孫へ生前贈与をすると相続税を節税できる」と聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。これは、子の世代を飛ばして孫に財産を贈与することで、子が死亡した際に同じ財産に相続税が課税されるのを防ぐためという理由があります。
さらに、孫への生前贈与は生前贈与加算の対象とならないという理由も挙げられます。実は、孫への生前贈与は、被相続人の死亡前3年以内の贈与であっても、相続財産に加える必要がないのです。しかし、一概に「孫は生前贈与加算の対象外」と判断することは非常に危険です。たとえ孫への贈与であったとしても、以下のような場合は生前贈与加算の対象となりますので、注意が必要です。
・孫が被相続人の養子である場合
・被相続人の子が先に死亡しており、孫がその代襲相続人になる場合
・被相続人の遺言により財産を取得する場合
・被相続人の死亡により生命保険金を取得する場合
・相続時精算課税を適用して贈与を受けていた場合
例えば、被相続人が孫Aに対して100万円の贈与を行い、その2年後に死亡したとします。この時点では、孫は生前贈与加算の対象者ではありません。しかし、被相続人の遺言が見つかり、遺言に「孫Aに対して甲不動産を遺贈する」と書かれていました。この場合、孫Aは遺贈により財産を取得し、かつ被相続人の死亡前3年以内に贈与を受けた人として、生前贈与加算の対象者の要件を満たすため、贈与された100万円は相続財産に加算されてしまうのです。
また、孫が代襲相続、養子縁組によって相続人とならない場合は相続税の2割加算が適用されますので、この点も要注意です。
相続はいつ発生するか分かりません。孫への生前贈与で節税をする場合は、孫が上記のケースに当てはまらないように、工夫して対策を行いましょう。
回は、生前贈与加算についてご説明いたしました。生前贈与は生きているうちにできる効果的な節税対策ですが、死亡前3年以内に行われた贈与に関しては相続財産に加算され、相続税がかかってしまいます。慌てて節税対策のために生前贈与をしようとすると大きな落とし穴に落ちる可能性があります。大幅な節税を望むのであれば、なるべく早いうちから計画的に生前贈与を行っておきましょう。
相続についての不安や不明な点がある方は、お気軽にお問い合わせください。