何故相続人を確定する必要があるの?

遺言書があるかないかを確認したら、次は誰が相続人なのか確定する必要があります。
それは何故かというと、亡くなった方の相続財産は、相続が起こった時点で「相続人全員の共有」となります。
この「共有状態」から、自宅は長男、○○銀行の預金は長女・・・というように、遺言や遺産分割協議書に従って相続人等に財産を引き継ぐために相続手続きを進めていくことが必要です。
そのためには、遺言がある場合でもない場合でも、誰が相続人なのか調査して確定しなければなりません。

例えば、遺言がある場合、遺言書に「相続人の1人が全財産を取得する」と書いてあると、他の相続人も法律によって相続財産をもらえる権利保障されているため「遺留分」を請求できます。その割合も法律により決まっているため、相続人が分からないと割合も決まりません。
遺言がない場合は、相続財産を相続人全員による「遺産分割協議」で決めなければならないため、どちらにしても相続人に誰がいるのか確定しないと、誰がどれだけの財産を引き継ぐのかが決めることができないので、相続手続きが一向に進まない・・・となってしまいます。

相続人を確定するには?

亡くなった方(以下、被相続人)とその家族、親戚などの関係に特に問題がなく定期的に交流があれば、特に相続人が分からないということはないかもしれません。 しかし、被相続人が再婚であったり、誰かの養子だった・・・などの場合は、もしかすると思わぬ相続人の存在があるかもしれません。また、兄弟姉妹が相続人の場合にも、婚姻や養子縁組で知らない人が相続人になっている可能性もあります。 「被相続人の相続人は、もう分かっているので大丈夫」という場合でも、相続手続きをする場面では、それを証明する書類が必要になります。 もし、自分の親が亡くなり兄弟姉妹が相続人であれば、戸籍を調べて他に相続人の存在がないということを否定して相続人を確定することで、相続人の誰かが財産を相続することができます。 相続人を確定させるためには、被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等(写し)が必要となります。戸籍には、戸籍・除籍・(改製)原戸籍の謄抄本があります。この戸籍を調べながら相続人を辿っていくことになります。

戸籍の調べ方

①被相続人の本籍地の役所で死亡時の戸籍(除籍)謄本(写し)を取得する

被相続人の本籍地が分からない場合は、被相続人の最後の住所地の役所に本籍を記載した住民票を請求すれば載っています。
戸籍謄本や住民票の請求は、役所の窓口で直接する以外に郵送でも可能です。
請求する際は何度も役所に出向いたり郵送でやり取りしないために、予め請求に必要な書類について役所に確認することをお勧めします。

② ①で取得した戸籍を確認しながら出生から死亡までの戸籍を取得する

戸籍に記載されている内容をよく調べ、戸籍が繋がっているか(被相続人が生まれてから死亡するまで)確認します。更に戸籍を遡らないと繋がらない場合は、その戸籍(本籍地)がある役所へ郵送等で請求します。
戸籍が集まるまでこの作業を繰り返していきます。
この作業には、相続の専門知識が必要になるため、全ての戸籍を集めるのにかなりの労力がかかることが一般的です。

具体的に何が大変なの?

被相続人の戸籍を集める際、死亡時の戸籍だけ取得することで相続人が全て分かれば、こんなに楽なことはありません。
しかし、日本の戸籍制度は法改正により何度も変わってきました。

例えば、明治時代(明治初め除く)から戦後までの旧戸籍は、当時は「家制度」を基に戸籍が編成されていましたので、家長である「戸主」が家督相続によって決まっていました。
現在の戸籍の様式になるまで改製され閉鎖された戸籍は改製原戸籍と呼びます。
また、戸籍を構成する人については、戦後に家制度が廃止されて、三代以上の親族が同一の戸籍に記載されないこと(三代戸籍の禁止の原則)になっています。これが、現在の戸籍の様式(夫婦とその子が基準)です。
現在は、婚姻や死亡、転籍等で除籍(戸籍から削除)されます。婚姻の場合は、婚姻相手と別の戸籍を作りますので、ここで戸籍が一つ増えることになります。

上記を踏まえると、相続手続きにおいて戸籍を集めるのが楽なのは、被相続人の相続人が「子どものみ、または子どもと配偶者(夫か妻)」となる場合です。
しかし、そのようなケースは少なく、戸籍を遡っていくうちに、被相続人より先に相続人が亡くなる代襲相続が発生している場合もあります。また、被相続人の財産について遺産分割等で相続人に名義が移らないうちにその相続人が亡くなってしまう数次相続が発生する場合もあります。その場合は亡くなった方についても出生から死亡までの戸籍が必要となります。
例えば、被相続人に既に亡くなっている子どもがいた場合や、子どもがいない被相続人の両親や祖父母の誰かが亡くなっている場合があります。その人の戸籍を辿っていき、養子縁組の事実や異父・異母兄弟の存在が分かることも少なくありません。

このような場合は、集める戸籍の膨大になることが見込まれます。戸籍を辿っていく過程で、 戸籍に書かれている文字が達筆すぎて解読できない場合や転籍が繰り返しあった場合は、その本籍地に戸籍を請求して取得しなければ、出生から死亡まで繋がらないので非常に手間も時間もかかることになります。

③相続人を判断・確定する

被相続人の出生から死亡までの戸籍が揃ったら、戸籍の内容を見て誰が被相続人の相続人になるか判断します。
誰が相続人になるのか、取得する財産の割合は法律であらかじめ定められています。また、その相続人がいない場合も誰が相続人となるのか順位まで決められているため、その判断には②のような相続の専門知識が必要となる場面があります。

の過程で、相続人が誰になるのかを確認しながら戸籍を収集しますが、基本的に一つの戸籍から分かる本籍地は、その一つ前(従前戸籍)のみです。従前戸籍は、除籍謄本となっている場合が殆どです。被相続人の出生の戸籍まで辿り着くには、この除籍謄本にある記録事項を遡って確認していく必要があります。
更には、戸籍を辿っている途中、被相続人が転籍していた場合は、転籍先に新たな戸籍が編成されると元の戸籍にはそれ以降の記録がされなくなりますので、その過程で相続人となる人を見落とす可能性もあります。
万が一、調査の過程で相続人となるべき人を見落として遺産分割協議をして、相続手続きまで完了したとしても、それは無効となってしまうので相続人全員で遺産分割協議をやり直すことになります。相続人の確定には細心の注意を払わなければなりません。

④相続人全員の戸籍謄本と住所証明書等の必要書類を取得する

確定した相続人が生存していることを証明するために、それぞれの戸籍謄本を取得します。ただし、相続人が被相続人の最新の戸籍と同じ戸籍に入っていた場合のように不要なケースもあります。
また、被相続人の最後の住所、相続人の住所を証明するための書類として、戸籍の附票や住民票(写し)の取得を必要とするケースが多くあります。

⑤相続関係説明図を作成する

④までの書類の取得が終わったら、相続関係を整理して相続関係説明図を作成します。
遺産分割協議(遺言がある場合を除く)が終了すると、いよいよ取得した財産を相続人の名義に変更するために、各所に必要書類を提出して手続きをします。その際に相続関係説明図があれば戸籍等の提出書類の原本を還付してもらえる場合があります。この作成には、記載事項等、様式が決まっていますが、ぜひ作成しておきましょう。

●相続関係説明図見本(横書き)
●相続関係説明図見本(縦書き)

◆法定相続情報証明制度とは?
相続関係説明図+戸籍等の書類に変わる公的な証明書として、法務局から「法定相続情報証明制度」に基づき交付される法定相続情報一覧図(写し)があります。これは、平成29年5月29日から始まった制度で、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等書類を基に法定相続情報一覧図を作成して法務局に提出すると、登記官が内容を確認して認証文付きで交付してくれます。これがあれば、さまざまな相続手続きに利用することができるので、①~⑤までの書類を各窓口に何度も出し直す必要がなくなります。