更新日/2022年9月30日

フィギュアの家族がリボンをかけたプレゼントのまえにいるイメージ画像

大切なご家族(以下:被相続人)がご逝去された場合には、相続手続きを開始することになります。亡くなられた被相続人の相続人に該当する方は、被相続人の財産を調査し、場合によっては相続税の納付を行う必要があります。また、債務も相続する必要があるため、亡くなられた方に代わって清算していく必要があります。

しかし、ここで1つの疑問があります。そもそも相続は、「する・しない」を選択することはできるのでしょうか。結論から言うと、相続はするかしないかを相続人自身が決めることができます。

今回の記事では相続手続きに迷われている方のために、相続をする「相続の承認」、相続をしない「相続放棄」について詳しく解説を行います。

相続は選べる!相続手続きの概要をおさらい

相続は相続開始されてから手続きがスタートします。被相続人が亡くなったら、その方が所有していた財産についてはプラスもマイナスも相続人が包括的に承継します。(民法第896条)

相続人とは、民法上で定められた法定相続人に該当する方を指します。事実婚である内縁関係の方や、養子縁組をしていない再婚相手の連れ子の方等には相続権は発生しないため、相続人には該当しません。遺言書が無い場合には、原則として法定相続人が相続します。ここで、相続の概要を簡潔におさらいしましょう。

1.相続は相続開始日からスタートする

相続には「相続開始日」があります。相続開始日とは民法第882条に定められている通り、被相続人の死去から始まります。相続は相続開始日を起点に色んな期限が定められているためしっかり把握しておく必要があります。但し、相続人によっては被相続人と疎遠になっており、死去の知らせが遅れるケースもあります。この場合、「被相続人の死去を知った日」が相続開始日となります。

2.相続はする・しないを選べる

相続はマイナスの財産が多かったり、法定相続人であっても相続人との関係性が乏しかったりなどの理由で、相続をしたくない場合には放棄をすることができます。事業承継を行う際にも使われる手法です。

ただし、相続をする・しないの決断には期限が設けられています。先に触れた相続開始日を起点に、相続の有無を決断する必要があるのです。相続に関する主な日程は以下のとおりです。

■相続放棄の期限
相続放棄は「相続の開始を知った時から3か月以内」です。被相続人の死去に立ち会ったならその日から、後日親族などから死去を知らされたなら、その日から3か月です。ちなみに、この3か月の期間は「熟慮期間」と言います。自動的に放棄されることはないため、放棄をするなら手続きが必須です。
■相続放棄の期間の伸長
相続放棄は非常にタイトなスケジュールの中で判断する必要がありますが、債務調査が途中の場合などには裁判所に申し出を行えば期限を延ばしてもらえることがあります。3か月の期限を超える前に伸長の申立を行います。
■相続税の申告
相続する場合、相続税の申告は「相続の開始を知った日から10か月」です。たとえ遺産分割協議に難航していても、この10か月の期限は原則変更ができません。但し、相続人の異動があるなど、特殊な事情がある場合は認められることがあります。

この他に、限定承認や遺留分侵害額の請求期限もあります。
限定承認は後に解説しますが、相続放棄と同様に相続開始を知った日から3か月以内の手続きが必要です。遺留分侵害額の請求については「相続開始と遺留分侵害の発覚」から1年以内とされています。このように相続に関する手続きには、するにしても、しないにしても色んな期限があることを知っておきましょう。

相続をすると決めたら 2つの承認方法とは

相続をすると決めたら、早速手続きに移行しましょう。相続をすることを「承認する」と言います。この項では、相続における「単純承認」と「限定承認」の2つの承認方法を紹介します。

①単純承認とは

相続手続きの中で最もポピュラーな手続きが、「単純承認」です。単純承認はひと言でまとめると「全ての財産を無条件に承認すること」です。相続は放棄をしなければ原則として単純承認を行うことになります。単純承認のメリット・デメリットは以下のとおりです。

単純承認のメリット 

1.単純承認は裁判所に手続きを申立てする必要がありません。何もしなければ単純承認をした、とみなされます。最もスムーズな相続手続きです。

2.手続きが不要のため、遺産分割協議も進めやすいでしょう。

単純承認のデメリット

1.相続知識がなく手続きを放置していても単純承認としてみなされます。知らない間に思わぬ債務を背負う可能性があります。

2.包括的に相続するため、プラス・マイナスの財産を分けて相続することができません。

3.相続放棄を検討する場合でも、財産の処分などの行為を行うと単純承認をしたとみなされます。その他の手続きはできなくなります。

単純承認は何もしなくて良いからこそ、危険性も知っておく必要がある手続きです。財産を包括的に相続するつもりでも、相続財産の調査を行っておかないと、相続人が生前に家族に内緒で抱えていた債務が発覚する可能性があります。何もしなくて良いからこそ、相続財産の調査が必須です。

②限定承認とは

包括的に相続する単純承認とは異なり、限定承認とは「相続人の遺したプラスの財産の範囲内に限って、債務の相続もするという手続きです。この方法は債務の総額が相続開始日から3か月以内に終えられていない場合や、債務があっても家など失いたくない財産がある場合に選ばれています。限定承認のメリット・デメリットは以下のとおりです。

・限定承認のメリット

1.プラスの財産を超える債務は背負う必要がなくなります。

2.先買権が行使できます。家庭裁判所が選んだ鑑定人に相当額を支払うことで不動産を取得できるため、相続放棄ではできない家の買戻しなどが可能です。

3.限定承認後に新たな債務が追加されても相続財産の範囲内でしか弁済義務は発生しません。

・限定承認のデメリット

1.限定承認は相続人が全員同意する必要があります。限定承認を反対する相続人がいる場合にはこの手続きは選択できません。(反対者が相続放棄をした場合は相続人ではなくなるため手続きが可能)

2.事務手続きが非常に複雑です。原則として相続開始日から3か月以内に裁判所に申立てを行う必要があります。短期間で難解な処理を行う必要があるため、あまり実施されていません。

3.譲渡所得が発生する可能性があります。限定承認は被相続人の財産を時価額で売却してもらった、とみなすのです。被相続人が昔取得した時の財産よりも、時価額が上がってしまっている場合には所得税を払う必要があります。

限定承認はしくみが大変複雑であり、相続人全員が足並みを揃えて手続きに臨む必要があります。所得税に関しても備える必要があるため注意が必要です。

相続をしないと決めたら 相続放棄とは

相続をしないと決めたら、相続放棄の手続きを行う必要があります。相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も全て放棄します。単純承認の真逆の手続きであり、包括的に相続を放棄する方法です。自動的に相続放棄はできないため、相続開始日から3か月以内に裁判所に申立てを行う必要があります。遺産の放棄とは異なり、債務を明確に放棄したい場合は相続放棄が必須です。相続放棄のメリット・デメリットは以下のとおりです。

相続放棄のメリット

1.相続人が連携する必要はなく、ご自身が単独で放棄手続きを行うことができます。遺言状よりも効力があり、いらないと決めたら放棄できます。

2.高額の債務も返済義務がなくなります。

3・事業承継にも使える方法です。事業を継ぐ方のみに相続財産を集中させ、残りの方は放棄をすることでその後の事業トラブルを防ぐことも可能です。

4.遺産分割協議のトラブルや、被相続人との確執など、色んな個別事情から離れるためにも相続放棄は有効な方法です。

相続放棄のデメリット

1.プラスの財産も放棄するため、被相続人が所有していた預貯金や不動産なども全て放棄することになります。

2.相続放棄の手続きより前に、預貯金口座を解約してしまったりなど、被相続人の借金を慌てて返済してしまったり、など被相続人の財産を「動かす」行為をすると相続放棄が出来ません。単純承認とみなされる行為があると放棄ができないため注意が必要です。

3.相続する財産が無くても、相続放棄の手続きは自動で行われません。債務が負担な場合には確実に放棄の手続きを行わなければ、単純承認とみなされ返済義務を負います。

4.相続放棄をした方は相続人として存在していなかったことになり、相続権が次の相続人に移ります。代襲相続(※1)が発生するおそれもあります。相続権の移動を知らせる、等の配慮が必要です。

(※1)代襲相続とは
代襲相続とは相続権が移動していくと、場合によっては第3順位に該当する兄弟姉妹にまで至ります。兄弟姉妹が亡くなっていると、その子(甥・姪)にも相続が発生します。これを代襲相続と言います。甥や姪も死去している、あるいは相続放棄を行った場合は相続権の移動はそれ以上発生しません。

まとめ 相続に迷ったらまずすべきこととは?

相続には承認と放棄の2つの方法がありますが、相続に迷ったらまずはどうするべきでしょうか。最後に相続について以下2点の視点から再度おさらいをしましょう。

・相続のさまざまな手続きには期限がある

・相続は承認も放棄も選べるが、手続きをしないと単純承認とみなされる

承認も放棄も選べる相続ですが、手続きをしないと包括的に財産を相続する「単純承認」が行われた、とみなされます。相続に迷う場合には、まず的確に「相続財産の調査」を行うことが必須です。被相続人が遺した財産は総額いくらなのか、プラス・マイナスも含めてまずは把握することから始めましょう。マイナスの財産には滞納税などの税金も含みます。取りこぼしのないように調査を行いましょう。

限定承認や相続放棄は相続開始日から3か月以内に裁判所に申立てする必要がありますが、相続財産の調査に時間を要する場合には期間の伸長が認められています。まずは慌てず、1つずつ整理することから始めましょう。

相続手続きのお悩みは、事例豊富な「ソレイユ相続相談室」までご相談ください。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。