公開日/2022年5月17日
親や配偶者、親族からの相続財産の中には相続するとむしろ困ってしまう「負動産」と呼ばれる土地や建物が含まれることがあります。
負動産の取扱いを誤ると、使用もしないのに税金や管理費を支払い続けることになりかねません。
そこで本記事では負動産の意味や具体例、そして解決策について解説いたします。負動産をお持ちでお困りの方、将来負動産を相続する見込みの方はぜひ参考にしてください。
目次
❏相続すると大変な目に遭う「負動産」とは?
負動産とは所有することで、むしろ資産が減ってしまったり大きな労力がかかったりする不動産のことをいいます。具体例で詳しく解説します。
地方の老朽化したマンションや戸建て住宅、土地など
資産価値が低い上に、買い手、借り手が付きにくい立地の宅地や建物付きの土地、マンションは負動産になりやすい傾向です。
都市部の不動産であれば築年数や状態を問わず売却は可能でしょう。しかし地方の過疎化が進んでいるエリアでは状態が悪い戸建てやマンションの売却は困難です。更地の状態であっても買い手が付かずに放置されている土地は少なくありません。
また建物や住設の老朽化が進んでいれば借り手も現れず賃貸も困難です。こういった不動産の場合、以下の費用を毎年負担することになります。
・固定資産税……毎年
・建物の修繕・管理費……5年から10年に1度。近隣に迷惑をかけない程度に保守が必要。
・修繕積立金……マンションの場合は、所有者が負担する必要がある。
・共益費……マンションの共用部の光熱費や管理料。居住していなくても所有者が負担する必要がある。
また上記の費用とは別に、戸建てや土地であれば「敷地内の草刈り」や「定期的な庭木の伐採」等のメンテナンスのために時間と労力を割かなければなりません。
活用する予定がない山林
相続人が活用する意思がない山林は、所有しているだけで「固定資産税」がかかる負動産になり得ます。また山林は、自分で管理できない場合は森林組合等に管理を依頼することになり、管理コストを支払わなければなりません。森林組合への管理費は管理内容によって異なりますが、山林の保育事業を委託する場合は年間数万円から数十万円かかることも珍しくありません。 隣地との境界の管理を委託するだけでも年間に数千円から数十万円かかります(山林の面積による)。山林を活用する意思がなく、現状を維持するだけであっても、定期的に金銭を支払わなければならないのです。
耕作、管理する意思のない田畑
被相続人が稲作や畑作に従事していたが、相続人にその意思がない場合には田畑も負動産になり得ます。田畑にも固定資産税がかかります。また近隣の農地への影響を考慮すると、草刈り等のメンテナンスが必須です。所有者となった相続人がメンテナンスを行えない場合は、第三者に料金を支払ってメンテナンスを委託しなければなりません。
別荘・リゾートマンション
使用しない別荘やリゾートマンションは典型的な負動産です。別荘もリゾートマンションも固定資産税がかかります。居住用ではない土地には通常の土地よりも高額の固定資産税が課されるのが一般的です。また別荘地やリゾートマンションの管理組合で規定された管理料や合併浄化槽等の使用料金を支払わなければなりません。
一部の人気の避暑地や別荘地を除き、多くの別荘地やリゾートマンションは買い手が付きにくい状態です。
定期的な管理が必要な法面等
雑草や樹木を定期的に管理しなければ倒壊のおそれがある法面や、メンテナンスが必要な擁壁が含まれる土地も負動産といえます。私有地である法面や擁壁は、土地の所有者が管理しなければなりません。管理を怠って第三者の財物や身体に被害を与えた場合は、多額の賠償金の支払いを命じられるおそれがあります。これらの土地は、市街地や都市部にあったとしても、買い手がつかずメンテナンス費用と固定資産税の支払いを強いられる負動産といえるでしょう。
接道がなく再建築不可能な土地
都市部の土地であっても、再建築不可の土地は負動産といえます。再建築不可物件は、「前面道路が2メートル未満」といった、建築基準法上建物の建築が認められない物件です。前面道路が狭く自動車の出し入れができない上に、現状の建物のリノベーションしかできないような不動産は売却が難しく、借り手も現れにくいでしょう。
ただし首都圏であれば再建築不可物件でも流動性があり、通常の土地の数分の1以下の価格にはなりますが売却は可能です。
❏負動産を相続しない/させないためにできることとは?
では現在、負動産に該当するような土地や建物、マンション等を所有している方は相続に向けて、どのような準備をしておけばよいのでしょうか。相続発生前の対策について解説します。
生前に負動産を処分するよう手続きを進める
売却や賃貸などが難しい不動産は生前に処分しておくのが得策です。相続人に相続させると大変な目に遭いそうな財産については、売却できればベストでしょう。ただ諸事情によって売却ができないものも存在します。そういった不動産については、土地活用法を模索して有効活用し利益を生むようにしておくことや、あらかじめ管理料を支払って、管理を依頼しておくことを検討するとよいでしょう。 たとえば山林や資産価値が低く売却が難しい土地であってもトランクルーム等での収益が見込めるかもしれません。とはいえそう土地活用には詐欺的な商法もつきものですので、
信頼できる専門家に負動産の有効活用を相談しましょう。当事務所では負動産の活用方法のご相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。
相続放棄の手続きを行えるよう生前贈与を計画的に進めておく
負動産を相続したくない場合に役に立つ手続きが「相続放棄」です。しかし相続放棄は「この山林だけは相続したくないけれど、預貯金は相続したい」といった取捨選択はできません。負動産以外の財産も放棄する必要があるのです。したがって負動産以外にも複数の相続財産がある場合には相続放棄は不可能となります。
この場合、負動産以外の財産を生前に贈与しておくという手段が有効です。亡くなる前に、負動産以外の財産を、相続人やその子どもたちに贈与しておけば、死亡したときの被相続人の財産は負動産のみとなり、相続放棄が可能となります。ただし「死亡する3年以内に行われた生前贈与に関しては相続税が課税される」「1年間の贈与額によっては贈与税が課される」といった税制面に配慮しておく必要があります。
※生前贈与と相続放棄の注意点
もしこれが負動産ではなく、「債務」であった場合には相続放棄が認められない可能性もあります。
たとえば相続人が被相続人は債務超過の状態にあることを知りながら、生前贈与で預貯金等を受け取り、死後に相続放棄を行った場合です。こういったケースでは「詐害行為取消権」によって債権者が相続法機の取消しを請求する可能性があります。
しかし本記事では相続すると困る不動産のことを負動産と呼んでいますが、法的にみれば借金等の債務とは異なり財産です。負動産を相続させないために負動産以外の財産については生前贈与を行い、死後に負動産だけを相続放棄としても取り消される可能性はほとんどないといえるでしょう。
❏すでに負動産を相続してしまった!対処法は?
すでに負動産を相続してしまった方や、被相続人が死亡して他の相続財産があるために相続せざるを得ないといった方に向けて、対処法を解説します。
土地所有権を国庫に帰属させる
2023(令和4)年に「相続土地国庫帰属法」が施行されました。この法律は相続や相続人への遺贈によって土地を取得した場合に、承認を得ることで国に土地を引き取ってもらえることを定めた法律です。相続放棄以外に負動産を手放せる方法が誕生したことになります。とはいえすべての土地が対象となるわけではなく、汚染されていたり建物が残っていたりする土地は国が引き取りを拒否する可能性はあります。 また、国に土地を引き取ってもらうためには「負担金」を納付する必要があります。負担金の金額は土地の管理に要する10年分の標準的な管理費用です。国に土地を引き取ってもらうためには、まとまったお金が必要になることを留意しておきましょう。
隣地の所有者に売却する
田畑や山林などは隣地の所有者であれば買い取ってくれる可能性があります。古くから「隣の土地は借りてでも買え」といわれているように、隣地を買い取ることに魅力を感じる方は少なくありません。とはいえ田畑や山林の市場価格は低いため、路線価以下での売却となることがほとんどです。
格安or無償で第三者に贈与する
隣地の所有者による買い取りが難しい場合は格安、もしくは無償で第三者に引き取ってもらうことも検討しましょう。
路線価やそれの半値程度では引き取り手がない負動産でも「1円」や「無償」といった破格の価格設定であれば買い手が現れる可能性があります。また各地方自治体が行っている「空き家等バンク」に登録しておくことで、広告費をかけることなく都市部からの移住者に物件をアピールすることも可能です。
❏まとめ 負動産に関するお悩みならお気軽にご相談を!
負動産問題は日本の社会的な課題とも言える問題です。有効活用が難しく買い手も借り手も現れない土地は、相続人にとっては固定資産税や管理費の支出を強いられる負の遺産となります。
相続によって生じた負動産問題でお困りの方は「ソレイユ相続相談室」までご相談ください。
物件の有効活用法や売却、生前の対策についてお力になれるよう尽力いたします。