作成日/2022年10月20日

木が植えられた土地の前に男性が立っているイラスト

2023年4月27日に施行される「相続土地国庫帰属法」はご存じでしょうか。この法律は、2022年4月に作られた新しい法律です。

この法律は相続時に土地を相続した場合に、一定の条件を満たせば国に帰属させることができる、というものです。本来土地とは重要な財産であり自己所有にしたいはずですが、どうして帰属させる法律が生まれたのでしょうか。

この記事では間もなくスタートする「相続土地国庫帰属法」の概要について触れながら、制度活用におけるメリット・デメリットについても併せて解説します。

相続土地国庫帰属法はどうして生まれたのか?管理不全土地の問題点とは

2023年4月27日にスタートする「相続土地国庫帰属法」は相続時などに取得した土地を、自己所有にせず国に帰属させる制度です。相続では、現金や預貯金、有価証券をはじめとする被相続人が遺した財産を承継します。土地ももちろん財産であり受け継ぐことになります。しかし、土地に関しては相続時に多くの問題が発生していることをご存じでしょうか。主な問題は以下のとおりです。

1.被相続人が遺した土地が遠方であり管理できない

被相続人が所有していた土地が、必ずしも相続人に近い場所に位置しているわけではありません。よくある問題としては、実家からすでに離れて暮らしている子が、相続の際に親の所有していた土地の扱いに困ってしまうケースです。地方に親を残し、都市部で独立した生活を送っている子の場合、土地の管理のために地方に戻ることはできず、定期的な草刈りなどの管理に困っていることがあります。

2.相続人の高齢化や健康不安

高齢化社会を迎えた日本では、相続人がすでに高齢化している場合があります。土地を相続した時点で管理がすでに難しい状態の方も少なくありません。また、高齢ではなくても土地を相続した時点で健康不安がある方は、土地が管理できない可能性があります。

以上の2つのような背景から、「管理できない土地」は放置されてしまう現状がありました。では、管理できないまま土地が放置されていると、どんな問題が引き起こされるのでしょうか。

土地が放置されているとどんなトラブルが起きる?

不要な土地であったり、管理ができない土地を放置したりしていると、一体どんなトラブルが起きてしまうのでしょうか。主なトラブルを簡単に解説します。

■管理不全土地化し、大量の雑草や害虫が発生してしまう

管理が行き届いていない土地を「管理不全土地」と言います。管理不全土地には大量の雑草や害虫が発生してしまい、近隣の住民に大きな影響を与えてしまいます。災害リスクが高まる可能性もあり、自治体への苦情も発生しています。

参考記事はコチラ→ 国土交通省 令和3年2月4日 管理不全土地に関する調査について 

■更なる相続の発生で相続登記が難航に

相続土地国庫帰属法と同時に「相続登記の義務化」も公布されていることをご存じでしょうか。相続が発生しても土地に相続登記がなされていないために、亡き所有者名のまま放置されている土地が社会問題となっているのです。(所有者不明土地問題)

固定資産税の未納問題や土地管理者の不明問題につながっているため、登記義務の法整備が進みましたが、登記手続きは相続手続きから3年以内と定められています。つまり、3年以内にさらに相続が発生してしまうと土地の所有権が細分化してしまい、手続きが難航するおそれも残されているのです。

相続土地国庫帰属法が目指す未来とは

相続で土地の扱いに困ってしまった方は、これまで管理を放置してしまっていました。相続には「相続放棄」という方法がありますが、相続放棄は土地だけを選択して放棄をすることができません。放棄をしようとすると、大切な現金や預貯金、住まいに至るまで放棄する必要があるのです。相続放棄ができない以上、やむを得ず管理が放棄された結果管理不全土地が発生していました。そこで、相続土地国庫帰属法の施行により管理不全土地の発生を防ぎ、「国が管理をする」未来を目指しています。しかし、法律名にもあるように制度はあくまでも相続に管理できなくなった土地なら何でも国が管理してくれる制度ではありません。

相続土地国庫帰属法はどう使う?制度のメリット・デメリットとは

相続土地国庫帰属法を実際に使う場合には、一体どのように使うのでしょうか。ここからは制度を利用する際の要件や、メリット・デメリットに焦点を当てます。

相続土地国庫帰属法を利用したい!制度利用の要件とは

相続土地国庫帰属法を利用する際には、以下の要件を満たす必要があります。

■対象者

本制度は誰でも利用できるわけではありません、対象者は以下です。

・相続もしくは相続人に対する遺贈で土地を取得した方

土地を単独で相続(もしくは遺贈)した方なら単独で申請できます。複数人で1つの土地を共有している場合は全員で申請します。

つまり、そもそも相続ができない「法人格」の方、相続はしていないけど管理を頼まれているご親族の方、自分で買った土地が管理できなくなった方などは相続や遺贈とは全く関係しないため、制度の利用はできません。

■対象にできる土地

法律の定めでは、「通常の管轄又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地は不可」としています。そこで、わかりやすく対象にできない土地をピックアップしましょう。

・相続土地国庫帰属法を活用できない土地(相続土地国庫帰属法 第2条第3項より要約)
1.建物がある土地
2.担保権や使用収益権が設定されている土地
3.他人の利用が予定されている土地
4. 土壌汚染されている土地
5.境界が明らかでない土地や所有権などについて争いがある土地 

上記5つを総括すると、「国が管理するには時間もお金もかかり過ぎる」ものは一律NGです。建物がある時点でNGのため、空き家問題は本法律では解決できません。

■承認しない土地(申請されても認めない土地)

相続土地国庫帰属法では第5条第1項に、申請があっても不承認とする事案も以下のように定めています。

・不承認自由(相続土地国庫帰属法 第5条第1項より要約)
1.勾配や掛けがあって管理にお金がかかるもの
2.土地の管理が困難になるような物が置かれている土地
3.廃棄物のように除去しなければ管理が難しいものが地下に埋められている土地
4.隣接する土地にトラブルがあり、紛争を解決しないと管理できない土地
5.その他の理由でも管理に労力やお金がかかる土地

建物が無くても残存物があるような土地、廃棄物類が埋められている土地や、トラブルが予想される土地は、一律不承認と定めています。

制度利用のメリット・デメリットとは

相続土地国庫帰属法を利用する場合のメリット・デメリットとはどのようなものでしょうか。

■メリットとは
・山林など、管理が難しいと感じる相続した土地を国に託すことができる
・固定資産税がなくなる
・買ってくれる不動産会社を探さなくて良い
・後日土地に問題があると発覚しても、意図していなければ損害賠償請求のリスクがとても低い
・いらない土地のために相続放棄をしなくて良い
・次世代の相続予定人に負担を残さない

■デメリットとは
・引き取ってもらえない土地が多い
・審査に時間もお金もかかる
・申請できる人が相続や遺贈を受けた方に限られる
・空き家問題は解消できない

相続土地国庫帰属法はデメリットも大きい

相続土地国庫帰属法では相続後の管理が難航しそうな土地を、一定の条件を満たせば国に引き渡せることが最大のメリットであり、管理や固定資産税から解放されます。次世代の方のために、現段階で土地を処分することも大きなメリットでしょう。

しかし、対象となる土地かどうか審査期間を要するため、すぐに土地を処分したい場合には本制度は不向きと言えます。また、制度の活用には「土地の性質を考慮して算出した10年分相当の土地管理費用」を国に納付する必要があります一般的な空き地で20万程度、市街地にあるような土地で80万程度と言われており、大きな負担です。上手に売却できればそもそもコストはかからないため、十分に検討してから本制度の活用を検討されることがおすすめです。また、建物があると対象外のため、空き家問題を解消して本制度を使いたい場合には、まずは家を解体する必要があります。解体にももちろん費用がかかってしまうので注意が必要です。

まとめ

今回の記事では今話題の「相続土地国庫帰属法」について、制度のメリット・デメリットなどを踏まえながら詳しく解説を行いました。

相続後に管理に悩んだら、この制度を活用して国に土地が帰属させられるようになりますが、費用負担があるため注意が必要です。相続開始前に、相続後に難航しそうな土地を売却できていれば、相続人に煩雑な手続きや費用負担は残さない、とも言えます。

現在すでに土地の行く末や管理に悩んでいる場合には、ご家族で話し合い今後どうするべきか、話し合っておくことか。事例豊富な「ソレイユ相続相談室」へのご相談がおすすめです。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。