公開日/2022年3月7日
血縁関係のない人の間に法律上の親子関係を結ぶ「養子縁組」。
養子縁組をすることによって、養親が亡くなったときに養子が財産を相続することができるようになります。
養子縁組には、大きく分けて「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つがあり、それぞれ親子関係を結ぶ際の要件などが異なります。
今回は、普通養子縁組に焦点を当て、制度の概要や要件について詳しくご説明していきます。養子縁組を利用して相続税対策を行う方法もありますので、ぜひご参考にしてください。
目次
❏「普通養子縁組」とは
普通養子縁組は、実親との親子関係はそのままに、新たに養親との親子関係を結ぶ養子縁組です。養子は血縁関係のある実親と血縁関係のない養親との二重の親子関係を持つことになります。そのため、実親が亡くなった場合にも養親が亡くなった場合にも、どちらでも法定相続人となることができます。
また、養子が先に亡くなった場合にも、実親と養親のどちらも養子の法定相続人になることができます。
例えば、Aさんには実親であるBさんがいます。Aさんの結婚により、Aさんは配偶者の親であるCさん夫婦と普通養子縁組を結ぶことにしました。この場合、Aさんは実親Bさんが亡くなった場合と養親Cさん夫婦が亡くなった場合のどちらも法定相続人になることができます。
また、Aさんが先に亡くなった場合には、BさんもCさん夫婦もAさんの法定相続人になることができるのです。
そのため、普通養子縁組は相続税対策として利用されるケースもあります。普通養子縁組が相続税対策になる仕組みは、後ほどご説明します。
❏普通養子縁組を結ぶための要件
普通養子縁組は、養子が未成年の場合は家庭裁判所に養子縁組の許可をもらう必要があります(成人の場合は戸籍の届出のみ)が、申請をすれば誰にでも普通養子縁組が認められるわけではありません。
普通養子縁組を結ぶためには、以下の要件を満たしている必要があります。
【普通養子縁組の要件】
❏全てのケースで共通の要件
・養親が成人している(20歳以上、または結婚歴がある)こと
・養子が養親よりも年下であること
・養子が養親の叔父や叔母などの尊属ではないこと
・養親・養子それぞれに、養親・養子となる意思があること
❏未成年を養子にする場合の要件
・家庭裁判所の許可があること
・結婚している人が養親となる場合は、夫婦がともに養親となること
❏その他のケースの要件
・後見人が被後見人を養子とする場合は、家庭裁判所の許可があること
・結婚している人が単独で養親や養子になる場合は、配偶者の同意を得ること
普通養子縁組は養親と養子の同意があれば成立するため、実親の同意が必要ありません。ただし、未成年を養子にする場合で養親が結婚している場合には、原則として夫婦ともに養親となる必要があります。普通養子縁組を検討している場合は、あらかじめ夫婦間でよく話し合っておきましょう。
❏普通養子縁組を結ぶ手続き
普通養子縁組では、法律上の親子関係が生じるため、養親と養子の戸籍を変更する必要があります。ここでは、養子縁組を結ぶ際の戸籍変更までの手続きをご説明します。
成年を養子にする場合の手続き
成年を養子にする場合には、「戸籍の届出」をするだけで手続き完了です。
戸籍の届出は養親または養子が、本籍地の市町村役場に必要書類を提出して行います。提出する必要書類は以下のとおりです。
【戸籍の届出に必要な書類】
・養子縁組届
・養親と養子それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)
・届出書を提出する人の本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
※養子が未成年の場合は家庭裁判所の縁組許可審判書の謄本も必要になります。
届出をする市町村によっては、追加で必要となる書類が出てくる可能性があります。あらかじめ届出先の市町村にお問い合わせください。
未成年を養子にする場合の手続き
未成年を養子にする場合には、戸籍の届出を行う前に家庭裁判所へ申立てをして、「養子縁組をしても良い」という許可をもらう必要があります。申立てをする家庭裁判所は養子となる人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
川崎市中原区に住所のある方は「横浜地方裁判所 川崎支部」が申立先となります。
家庭裁判所を調べたい場合は、→こちらをご覧ください。
家庭裁判所に提出する書類は以下のとおりです。
【申立てに必要な書類】
・申立書
・申立人(養親となる人)の戸籍謄本(全部事項証明書)
・養子となる人の戸籍謄本(全部事項証明書)
・養子が15歳未満の場合は法定代理人の戸籍謄本(全部事項証明書)
家庭裁判所は、これらの書類から養親の経済状況や養子縁組をする目的などを判断して許可を下します。跡継ぎのための養子縁組などは、不当な目的として却下されたケースもありますので注意しましょう。
家庭裁判所の許可が下りたら、本籍地の市町村役場で戸籍の届出をして手続き完了です。戸籍の届出方法については、上記の「成年を養子にする場合の手続き」をご覧ください。
❏普通養子縁組が相続税対策になる仕組み
相続が発生すると、亡くなった人の相続財産や受け取った生命保険金に相続税が課税されます。しかし、亡くなった人の全ての財産が課税対象になっては、相続税の負担が大きくなってしまうため、一定額の控除が認められています。
例えば、相続税の計算をする際には、以下の算式で求められる基礎控除額を相続財産額から差し引くことができます。
相続税の基礎控除=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
仮に、法定相続人が3人いる場合では、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円の基礎控除額となります。もし、相続財産が1億円あるとすると、1億円−4,800万円=5,200万円に対して相続税が課税される仕組みです。
上記の基礎控除の算式を見ると、法定相続人が多ければ多いほど基礎控除額も多くなることがわかります。つまり、普通養子縁組により法定相続人を増やしておくと、相続税の節税対策につながるということです。
ただし、基礎控除の計算をする際に法定相続人として含めることができる養子の数には限りがあります。法定相続人としてカウントできる養子の数は、以下のとおりです。
①被相続人(亡くなった人)に実子がいる場合(法定相続人としてカウントできる養子は1人まで。)
②被相続人(亡くなった人)に実子がいない場合(法定相続人としてカウントできる養子は2人まで。)
無限に相続税を減らすことができるわけではありませんので、ご注意ください。
❏まとめ
今回は、普通養子縁組の制度や要件についてご説明しました。普通養子縁組はそれほど難しい制度ではありませんが、要件をあらかじめ確認しておくことが大切です。ただし、相続を絡めた養子縁組を検討している方は、相続に強い専門家に相談することをお勧めします。
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