更新日/2022年4月30日

父の財産を母がすべて引き継ぐための方法とは?の記事入りイメージ画像母を真ん中に寄り添う娘と息子

ある日突然大切なご家族がご逝去されたら―

大切なご家族が亡くなられたら、悲しみの中で何から手を付けて良いのかわからなくて当然です。

特に突然の病や事故などで家族を失った場合は、葬儀や仕事関係の整理など、残された家族にのしかかる負担はとても大きなものです。

そして、残された財産をどう「相続」するのか、という問題にもしっかりと向き合う必要があります。

今回は「父の財産を母が引き継ぐためにはどうするべきか」というケースを通して、相続手続きの方法や注意点を解説します。

相続には民法で定められた順位がある

日本は超高齢化社会を迎えており、どなたでも相続問題を経験する可能性があります。

近年では相続問題にさまざまな士業や銀行などが参入しており、昔よりも相続に関する情報は広くネットを介して流布されるようになりました。

しかし、相続の一般的な知識があってもいざご自身が直面されるとどのように手続きをすれば良いかわからないものです。

また、相続には民法で「順位」が決められており、たとえ同居家族であっても順位に該当しなければ相続人にはなれません。例として、内縁の方は相続人の範囲に入っていません。

また、疎遠となり別居をしており没交流が続いていた場合でも、離婚していなければ配偶者は常に相続人になります。

では具体的に相続人の順位とはどのようなものでしょうか。

法定相続人と順位の関係とは

父の財産を母がすべて引き継ぐための方法とは?の記事入り法定相続人と法定相続分のイラスト

1.配偶者は常に法定相続人

先に触れたように、配偶者はたとえ別居をしていたとしても常に法定相続人です。法律上の婚姻関係が大前提としてあり、内縁関係の方は相続人ではありません。

2.第1順位は直系卑属

相続は「直系卑属」と呼ばれる方々が第1順位です。直系卑属とは子、孫が該当します。

3.第2順位は直系尊属

相続の第2順位は「直系尊属」と呼ばれる方々が該当します。直系尊属とは親、祖父母です。

例として、未婚でお子様もいない方が亡くなった場合は親が存命なら相続人になります。第1順位が存在しない、あるいは相続放棄をした場合には第2順位が相続人になります。

4.第3順位は兄妹や姉妹

相続の第3順位は兄妹や姉妹です。未婚でお子様もおらず、親も亡くなられているケースでは、ご兄弟が相続人として該当します。また、第1順位や第2順位が相続放棄を進めたケースも第3順位の方が相続人に該当します。

参考記事 国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」の記事は→コチラ

父の財産を母がすべて引き継ぐための方法とは?の記事入り親子関係のイラスト

父の財産を母に相続してほしい!こんな時、子は何をすべき?

では本題に入りましょう。近年相続が発生した際に、こんなご相談をいただくことがあります。

「父が急死し、母にすべての財産を相続させたい」というお子様からのご相談です。ご紹介するこのケースでは、亡くなられた父(被相続人)の法定相続人は、母と子2名でした。この場合、まず法定相続人である配偶者が2分の1を相続し、残りの2分の1を子2人で相続することになります。つまりお子様は4分の1ずつ、財産を相続します。

しかし、高齢などを理由に子ども2名が母にすべての財産を集約させたいと考える方も多くなっています。

不動産や預貯金なども全て母に譲りたい、という優しさからの発想でしょう。しかしここで注意点があります。母にすべての財産を集約させたい場合、お子様が取るべき方法は「相続放棄」ではないのです。

相続放棄とはどんな手続き?

ご自身が相続人に該当した場合でも、相続をせず放棄をすることが可能です。

この方法は「相続放棄」と言い、家庭裁判所に対して相続が開始した日、もしくは相続を知った日から3か月以内に手続きを行うことで放棄が認められています。

よくある相続放棄のケースは、相続する財産の中に高額の借金がある、すでに家族関係が疎遠となっており一切の財産を放棄したい場合です。相続放棄をするとすべての財産も借金も放棄をすることになります。

(※相続人全員の同意を得て限定承認を行うことも可能です。)

相続放棄を行うと相続人が変動する

相続放棄の仕組みをもう少し具体的に説明しましょう。

相続放棄を行うと、「該当する相続人はいなかった」という扱いになります。

今回ご説明のケースでは、母に財産を集約させたいために子2名が相続放棄を行うとします。

すると、直系卑属である第1順位がいなかったことになるため、相続人としての権利は「第2順位に移ってしまう」のです。第2順位は直系尊属のため、亡くなられた父の両親もしくは祖父母ですが、もしもすでに亡くなられている場合は次に「第3順位に移ってしまう」ことになります。

このように相続放棄は放棄を行うことで相続の権利が移動してしまうので、母に財産を集約させたい場合には相続放棄は適正な手段ではないのです。

下記のような相続関係図が完成してしまい、亡くなられた父の兄と妹が相続人となるため新たなトラブルを生む可能性があります。

円満な相続にはどんな手続きが必要?

円満に母に相続の財産を集約させたい場合には、まず相続放棄はベストな選択肢ではありません。

母と子2人の間で遺産分割協議を行うことが大切です。遺産分割協議は決して難しいものではなく、相続人同士で円満に話し合えればすぐに手続きが終了します。

今回のケースでは、遺産分割協議書に「被相続人の有する一切の財産は妻●●〇〇が相続する」と記し、全員が同意すれば完了します。この遺産分割協議書や必要書類を揃えれば、亡くなった父の預貯金などの金融資産や不動産なども母にすべて集約可能です。

もしも相続放棄をしてしまっていたら、父の兄と、父の妹に相続放棄を依頼するか、 母と父の兄・父の妹の3名で遺産分割協議を行う必要があります。

疎遠になっている方の場合は協議が難航する可能性も高いので、相続放棄による手続きは回避すべき事案と言えるでしょう。

備えあれば憂いなし、遺言書も有効な手段

今回は父が突然亡くなったことを踏まえたご相談でしたが、円満な相続のためには生前から「遺言書」を作成しておくこともおすすめです。

遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つの方法が挙げられますが、家庭裁判所での検認が要らず効力も高い「公正証書遺言」が最も安全です。

遺言書は民法上の相続人の範囲に縛られることなく思いを残すこともできます。但し、相続人以外に財産を残す場合は相続ではなく遺贈の手続きとなりますので、残したい方には税金対策の意味も込めて生前から伝えておくことがおすすめです。

まとめ

今回は父の財産を母がすべて引き継ぐための方法とはという視点から相続人の範囲や順位、相続放棄のしくみや遺産分割協議についても触れていきました。

一見難解に感じる相続ですが、相続人の範囲や手続きを知っておくことで、万が一の際にも慌てずに手続き可能です。また、生前から遺言書を作っていくことでご自身の思いや家族のトラブルを回避することもできます。

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この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。