公開日/2022年6月21日

限定承認と相続放棄の違いの記事入りイメージ画像 金色の天秤を持つ手元

相続は預貯金や有価証券などのプラスの財産を引き継ぐイメージが強いですが、実はマイナスの財産に関しても引き継ぐ必要があります。亡くなった被相続人の権利を引き継ぐ以上、返済中のローンや相続人にとって不要な山や畑なども相続せざるを得ないのです。

相続の対象となる「遺産」には現金や預貯金などの財産以外の債務に関しても含まれています。相続人がこれらの全てを引き継がざるを得ないとなると、ある日突然借金の返済を背負ってしまう可能性もあり生活を揺るがしかねません。

そこで、相続には財産を手放す方法が2つ残されています。1つは「相続放棄」、もう1つは「限定承認」です。この記事ではこの2つの方法に関して詳しく解説しますので、是非ご一読ください。

相続対象となる財産とはどんなもの?

相続人となった方々は、被相続人(亡くなられた方)が残した財産を引き継ぐことになります。生前からどんな財産を引き継ぐことになるのかわかっている場合にはスムーズな相続が可能ですが、ある日突然ご逝去されてしまった場合には一体どんな財産を被相続人が残したのかわからず、混乱するケースも多いのです。また、被相続人によっては生前に高額の借入を行っていることもあり、ご逝去後に初めて家族が負の財産の存在を知ることも少なくありません。では、相続対象となる財産とは一体どんなものなのでしょうか。

相続財産の対象

相続財産の対象となる財産は、プラスの財産である「積極財産」とマイナスの財産である「消極財産」に分けることができます。

1.積極財産とは

プラスの財産である預貯金や有価証券、不動産や自動車、家財や骨とう品などが含まれます。会員権なども継承できるため、ゴルフ会員権やリゾート会員権などの権利も継承できます。著作権や特許権などの無体財産権も継承します。

2.消極財産とは

マイナスの財産は消極財産と呼ばれます。相続で多いケースで上げていくと、消費者金融からの借入やクレジットカードの未払金、住宅ローン、未払いのままとなっている家賃や買掛金などが挙げられます。なお、税金に関しても消極財産として扱われ、滞納税がある場合には相続する必要があります。

相続財産にならないものもある

相続財産の対象は大変広いものですが、その一方で対象とならないものもあります。例として挙げていくと、士業などの国家資格や生活保護や年金の受給権、養育費などの支払い義務に関するものも対象外です。また、税金は相続対象ですが罰金は対象にはなりません。また、代表的なものとしては生命保険金が挙げられます。生命保険金は被保険者の死去によって受け取る権利が発生しますが、受取人固有の財産であるため受取人指定がある場合には相続対象になりません。(※1)

(※1)生命保険金の受取人指定

生命保険金は受取人を指定することができます。受取人が指定されている場合には相続財産の対象外となりますが、受取人指定をしていない場合には通常被相続人が受取人になっています。この場合には相続対象となります。受取人には相続人以外を指定することも可能なので、内縁の方などに財産を継承させたい場合には受取人指定が有効です。

相続時にマイナスの財産(消極財産)が判明したら

相続をするにあたって被相続人の財産を調査したところ、マイナスの財産が発覚することがあります。プラスの財産の方が多い場合にはそこから債務を清算し、残りの財産を引き継ぐことができますが、明らかに債務超過の場合には相続人にとって被相続人の死と債務を背負うことになり、二重のショックとなってしまいます。また、相続人と被相続人が長年疎遠だった場合には、相続をしようにも債務の実態の調査に時間がかかるために、迂闊に相続を決断することが難しい場合もあります。そこで、相続に関しては相続放棄と限定承認の2つの対処法について知っておきましょう。両者の違いを交えながら解説します。

相続放棄:明らかに債務超過の場合に選択する方法

相続放棄は明らかにプラスの財産よりもマイナスの財産が多く、債務超過が確定している場合には相続放棄を視野に入れることが一般的です。相続放棄には以下のような特徴があります。

限定承認と相続放棄の違いの記事入りイメージ画像 相続放棄の特徴イラスト図

相続放棄を選択する場合には、相続人の財産をすべて放棄することになるため、慎重に検討する必要があります。多くのケースでは明らかに債務超過のために取られている手続きであり、

相続人全員が相続放棄を行うケースが大半です。相続放棄は相続人の順位が移転し、第3順位にあたる兄弟姉妹やその代襲相続人にまで及びます。相続放棄は各々が家庭裁判所に手続きできるものの、相続権の移転に関しては連絡をすることが望ましいでしょう。

相続放棄の流れとは 

相続放棄はいつでもできる手続きではありません。相続放棄には以下のようにルールがあります。下記にて基本的な相続放棄の流れに沿ってルールも併せて解説します。

①被相続人の財産調査

相続人の財産を調査し、明らかに債務超過であることを確認する。すべての財産を放棄するため、慎重に判断する。

②相続放棄の準備

相続放棄は相続の開始を知った時から3か月以内に申し立てる必要がある。なお、葬儀に出ておらず疎遠となっていた場合は相続人であると知った日から3か月である。

③被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ相続放棄を申立て

管轄地の裁判所へ必要書類を確認し、印紙や郵券などを揃えて申立てする。

④家庭裁判所による照会

相続人に対して相続放棄に関する照会が家庭裁判所によって行われる。相続放棄は本当にご自身の意志で行ったのか、その理由はなぜかなどを回答する。(書面形式が基本です)

⑤相続放棄の受理

照会が終わるとほとんどの場合には相続放棄の受理が確定する。債務がある金融機関などに対して相続放棄申述受理証明書を提出することで、債務放棄も完了する。

限定承認:債務額がつかめないため、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を継承

相続人の財産の調査を進めても債務の実態がつかめないケースがあります。調査期間に関しては相続期間の伸長を申立てることで対応することも可能ですが、不動産を何とかして死守したい場合になどは限定承認を選択することもできます。限定承認は相続放棄と比べると複雑な手続きです。限定承認には以下のような特徴があります。

限定承認と相続放棄の違いの記事入り限定承認の特徴イラスト図

全ての相続財産を放棄する相続放棄とは異なり、限定承認はプラスの財産の範囲内でマイナス財産の清算も行う必要があります。しかし、高額の借金の全てを単純承認する必要はなくなります。限定承認は借金などの債務が多いものの、家族が住むための不動産は何とか守りたい場合などに使われる手法です。

限定承認の流れとは 

限定承認の流れは以下のとおりです。

①相続人全員で意思確認を終える

相続放棄とは異なり、相続人全員が共同で申述を行う必要があります。意思疎通が難航する場合には相続期間の伸長を行いながら相続人間の連携を行います。

②相続人の最後の住所地へ限定承認の申立て

必要書類等に関しては家庭裁判所でアドバイスをもらう。

③請求申出の公告・催告

相続人1名の場合には限定承認の申述受理から5日後、2名以上なら財産管理人選任後から10日以内に公告・催告が必要。

④財産管理口座の作成(相続人1名なら不要です)

今後の清算に向けて相続財産管理人用の口座を開設。

⑤換価開始

住宅を残したいという強い意志がある場合には、不動産競売手続きを止める必要がある。換価が開始されると預貯金口座なども解約できる。

⑥配当弁済

最後に配当弁済。届け出期間中に名乗りを上げた債権者に対しては割合に応じた配当を実施し、弁済を完了させる。

まとめ  相続放棄と限定承認は決める前に、まずは相談を

相続放棄は単純承認の真逆で、すべての財産を放棄することによって債務を継承せずに済みます。一方の限定承認は複雑な手続きを経て継承する財産の中で債務を引き継ぎします。特に限定承認は相続の減免制度が使えなくなり、譲渡所得税に関しても把握しておく必要があります。

相続において債務が発覚したら取るべき選択はどちらなのか、まずは「ソレイユ相続相談室」へ相談をされることがおすすめです。

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この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。