公開日/2022年5月27日

特別寄与料の記事入りイメージ画像、高齢の女性に寄り添う介護の人

2020年の民法の改正にともない「特別寄与料」と呼ばれる制度が導入されたことはご存じでしょうか。民法の改正よりも前から「寄与料」はありましたが、特別寄与料が設けられたことにより相続に大きな変化が起きているのです。

では、具体的に特別寄与料とは一体どんな仕組みなのでしょうか。ここでは寄与料と特別寄与料の違いや、制度のしくみを詳しく解説します。

特別寄与料とは一体どんなしくみ?

特別寄与料、という言葉はまだ新しい言葉のためご存じない方も多いかもしれません。

特別寄与料とは、2020年7月1日以降の相続から適用できることになった新たな仕組みです。まず簡潔に説明すると、「相続人以外の方が被相続人について無償で介護などに貢献していた際に、貢献度の考慮を受けて相続人にお金を請求できる」という制度です。

この請求できるお金のことを特別寄与料と呼びます。

これまでの寄与分とは

特別寄与料の誕生は、これまでの「寄与分」との差異について知るとわかりやすいでしょう。

令和元年7月1日以前にも、寄与分と呼ばれるしくみはありました。現在も寄与分は法律上残されています。

寄与分とは被相続人の財産を維持又は増加させたことに貢献した相続人への報酬のようなもので、通常の法定相続分より多い相続を主張できるという仕組みです。具体例を挙げると、寄与分は以下のような際に主張ができます。

・被相続人である親の事業を事実上引き継ぎ、大幅に収益を拡大させた長男と、事業には一切関わらず遠方で暮らす次男が相続人2名として相続する際、長男が寄与分を主張した。

・被相続人である親の介護に長年従事し続けた長女と、遠方で別の世帯を持つ次女が相続人2名として相続する際に、長女が寄与分を主張した。

以上のようなケースがよくある寄与分のケースです。

このケースをご覧いただくとわかるように、寄与分をこれまで主張してきたのは「相続人」であることが条件でした。

相続人、かつ無償で長年相続人に対して貢献してきた以上、相続の際に分配を平等にするのではなく、報酬のような形で上乗せする仕組みです。特に寄与分の主張が多いのは介護に従事して生活資金も援助していた子のケースが多く、介護に関わらなかった別の子と平等に相続することは不公平感が強いため、寄与分が算出され上乗せすることがあります。

特別寄与分は、これまでの寄与分とはどう違うのか

これまでも介護などで貢献してきた相続人は相続の際に寄与分として上乗せを求めることが可能でした。

しかし、介護や生活支援に実際に関わっている方は常に相続人とは限りません。実際には介護に従事していた方は相続人に該当しない親族であるケースは大変多いのです。

例として挙げると、親と同居していた長男の妻が、長男の死去後も亡夫の親を介護し続けることは決して珍しいことではありません。

しかし、長男の妻の立場は亡夫の親の相続人にはなれないのです。介護にノータッチだった実子が相続してしまうことも多く、不利な立場に置かれることが少なくありませんでした。

そこで、特別寄与において「被相続人の親族」に対象を広げることで、不公平な相続を是正しようという動きがあり民法改正に至ったのです。

特別寄与料を主張するための条件とは

上記で説明の通り、特別寄与はこれまでも寄与分から範囲が広まったことがわかります。では、特別寄与料を実際に主張する場合にはどのような条件をクリアする必要があるのでしょうか。条件は以下の2つを満たすことが求められています。

特別寄与料記事入り親族図イラスト

これまでの寄与分とは異なり、特別寄与に関しては相続人以外の親族が請求を求めることができます。親族とは、6親等以内の血族・3親等以内の姻族・そして被相続人の配偶者が該当します。

特別寄与は相続人や相続放棄をした方、相続人の欠格事由に該当する方及び廃除によってその相続権を失った方は主張ができません。

被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと

亡くなった方に無償で献身的に介護をしていた方、通院や入院の手伝いを長年行っていた方などが該当します。また、事業の手伝いなどにより被相続人の財産を増加させる、あるいは財産の管理を行っていた場合も該当します。無償であることが重要で介護や事業に関して謝礼を受け取っていた場合特別寄与料は主張できません。

内縁関係の方や献身的な友人などは請求できない

近年は婚姻関係のない内縁関係の方も増加しています。しかし、内縁関係は民法上配偶者とは認められていないため、特別寄与料を請求することはできません。また、最近は「おひとりさま」として暮らしている方も多く、高齢化した際に友人関係の方が献身的に介護に従事するケースもあります。しかし、友人は親族ではないため請求はできません。同様に、ヘルパーやお手伝いの方々なども対象になりません。

特別寄与料を請求するにはどうすればいい?

これまでの寄与分から対象者が広がった特別寄与分ですが、実際に請求を行う場合にはどのように行えば良いのでしょうか。請求方法は2つあります。

遺産分割協議に参加する

特別寄与料を主張するためには相続人間で行われる遺産分割協議に参加し話し合いを求めることが基本です。

自動的に特別寄与料が付与されることはないので、ご自身で主張を行う必要があります。相続人が納得の上で相続分から支払う形になるため、交渉が決裂することも相当されます。決裂した場合には次の方法を選択します。

家庭裁判所に調停を申立てする

相続人との交渉が決裂してしまった場合には家庭裁判所へ調停を申立てすることが可能です。(民法第1050条第2項)。調停は調停委員の下で話し合いによる解決を進めていきますが、調停委員に特別寄与分を主張できるだけの証拠を取り揃えておく必要があります。例として、介護費用を負担していた場合はその振込履歴や通帳の履歴、送迎を長年行っていた場合には陳述書における主張などが予想されます。調停が不成立の場合には審判決定を待つ流れです。特別寄与料の主張には申立ての期限が設定されており、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったときから6か月を経過する、もしくは相続の開始から1年未満です。遺産分割協議が不調の場合には早めに調停を視野に入れておきましょう。

参考記事はコチラ→「裁判所 特別の寄与に関する処分調停」

 特別寄与料において知っておくべき請求時や税務上の注意点とは

特別寄与料を主張し、長年の貢献を認めてもらう場合には知っておくべき請求時や税務上の注意点もあります。

特別寄与料の金額はご自身である程度算出する必要がある

先にも触れましたが、特別寄与料は自動的に付与されるものではないためご自身で主張することが大切です。そのため、下記の式を参考にある程度ご自身で金額を計算する必要があります。

  ・第三者の日当額×療養介護日数×裁量割合(0.5~0.8)

この式は家庭裁判所における特別寄与分の算出にも使われています。第三者とは親族以外の療養従事者のことです。一般的な日当額に療養に関わった日数と、裁量割合にて調整を行います。しかし、あくまでもこちらは参考式であるため実際の遺産分割協議ではもう少しざっくりとした金額を主張すること予想されます。特別寄与は何十年も介護に携わっていた場合には高額化する可能性もありますが、遺産の総額から遺贈の価額を除いた金額を超えることはできず、あくまでも遺産の範囲内での主張が可能です。また、相続人が複数いる場合は、公平に全員に対して請求を求めることになり、特定の相続人をターゲットに交渉するものではありません。まだ制度ができてから日が浅いため、相場が分かりにくいのが現状です。

特別寄与料は相続税の課税対象

特別寄与料を無事に受領できる場合、被相続人の遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えている場合は、相続税を申告しなければなりません。申告の期限もしっかりと決められており特別寄与料の金額が定まったことを知った日の翌日から10か月以内に行います。加えて、特別寄与者は多くの場合相続税の2割加算の対象になり、相続税に以下の金額が加算されることも踏まえて、受領を行う必要があります。

  ・相続税の2割加算が行われる場合の加算金額 = 各人の税額控除前の相続税額×0.2

まとめ

この記事ではまだまだ知られていない「特別寄与料」に関して詳しく解説しました。特別寄与料は特に相続税の申告が難解であり、ご自身ですべての手続きをすることは難しいことが予想されます。

ぜひ請求をご検討の場合には「ソレイユ相続相談室」へご相談ください。

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この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。