公開日/2022年5月24日
生き方の多様性が認められるようになり、世の中の結婚に対する考え方も変わりつつあるようです。日本では男女ともに生涯未婚率が上がり、離婚という選択も一昔前より容易になりました。
この先、「おひとり様」で老後を迎える方が増えていくことが予想されます。
本記事では、独身の方や相続人がいない方が生前にできる相続対策について考えてみたいと思います。
目次
❏おひとり様の財産は誰が相続する?
人が亡くなると、故人の財産は基本的には法定相続人が相続します。
配偶者がいる方であれば、配偶者は常に相続人となり、それ以降法定相続人となる人の順位は、1.子ども 2.父母、祖父母 3.兄弟・姉妹 となります。
なお、内縁関係の人は法定相続人になれません。
そして、死亡した方に、法定相続人がいない場合には、故人の財産は本人の未払い金や債務の返済などに充てられた後、残余財産があれば、最終的に国庫へ入ることになります。
独身の方で、両親や兄弟・姉妹が既に他界していて、自分には相続人がいないと思っていても、異母兄弟も相続人になりますし、亡くなった兄弟・姉妹に子がいれば、甥や姪が相続人になります。一度も会ったことがない人が相続人だったというケースも珍しいことではありません。
独身者は、生前に自分の法定相続人の存在の有無を確認しておきましょう。
なお、法定相続人の有無にかかわらず、自分の財産を特定の誰かに相続させたい、又はどこかへ寄付をしたいなど何らかの意思がある場合には、生前に財産目録と遺言書を準備しておくことで相続がスムーズに進みます。
❏早めに始めよう!「おひとり様」の終活
財産目録・遺言書の作成
家族がいれば、故人の保有財産や、どんなお葬式にして欲しいと思っていたかなど把握できているかもしれませんが、独身者が何の準備もないまま亡くなってしまうと、当然、生前の意思は確認できませんし、保有財産についても不明であるため、相続に時間がかかります。
おひとり様に限ったことではありませんが、「終活」は思い立ったが吉日、早く始めるに越したことはありません。なお、終活といっても、断捨離をしてモノを減らせばいいということではなく、人生の棚卸という感覚で保有資産の洗い出し、身辺整理、自分の考えをまとめる、なども終活といえます。
そして、必要に応じて財産目録、遺言書を作成しましょう。
特に、おひとり様の場合は、財産の処分や死後の諸手続きに役に立ちます。
また、遺言書は要件を満たしていないと無効になる恐れがあります。自分で作成できる「自筆証書遺言」より、公証人の立ち合いの下で作成する「公正証書遺言」のほうが安心です。
身の回りのこと、財産管理を任せる人を決めておく
高齢になると、身体の不調や認知症の発症などにより自立した生活が困難となるケースがでてきます。財産管理や、意思疎通を円滑に行えなくなることも多くなるでしょう。
自分の健康寿命がいつまでかわかりませんので、特におひとり様は、元気なうちに将来の身の振り方を考えておくことが大切です。
1.信託会社や信託銀行の活用
信託会社や信託銀行とあらかじめ信託契約を結び、死後の事務手続きや財産の処分を委託します。信託内容は双方の合意により決定します。
一般的に事務手続として、葬儀やお墓の手配、知人・友人への連絡、家の片づけ、公共料金や携帯等の解約などが含まれています。
また、遺産の分割・承継や、不動産の処分についても信託契約に含めることができます。
契約内容に従い、事前に信託している資金で、契約時に決めた信託内容を履行してもらう仕組みです。
2.後見制度の利用
本人の判断能力が不十分になった際に、後見人に財産の管理をしてもらいながら本人の生活を維持していく制度が後見制度です。
後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の2種類があります。
任意後見制度は、本人の判断能力があるうちに、将来に備えて自分で後見人を選任しておくというものです。
日常生活で発生する契約や財産管理などの代理権を与えることができます。
法定後見制度は、本人の判断能力が不十分と判断されたときに、家庭裁判所によって後見人が選任されるというものです。
通常、配偶者や親類が後見人選任の申立てを家庭裁判所に行いますが、身寄りがいない人の場合は、市区町村長や検察官が申立人となります。
自分の老後の生活環境や、財産の処分方法をあらかじめ決めておきたい場合には、任意後見契約が適切です。
任意後見人になる人に、特別な資格は必要ありません。親族がいない方であれば、信頼できる友人、知人に依頼することも可能です。
しかし、後見人になる人は、本人より年下であるほうが望ましいため(自分より先に亡くなっては意味がない)、現実的には友人への依頼が難しい場合もあるでしょう。
その場合には、司法書士、弁護士などの専門家へ依頼することもできます。
3.死後事務委任契約
後見制度は原則、被後見人が死亡すると、後見契約が解除されます。そのため、親族がいない方では、死後の諸手続きをしてくれる人が不在の状況となってしまいます。
遺言書には、相続の承継先や分割割合など相続に関する権利関係について記載されていても、死後に発生する事務手続きについて記されていないことが多くあります。
そこで、死後事務委任契約を利用することでそれらの心配を解消することができます。
一般的な契約内容は、葬儀や墓の手配、役所関係の手続き、未払い金の清算、遺品整理などですが、契約内容は双方が合意すれば基本的には自由です。
こちらも資格は必要ありませんので、親類や知人に依頼することも可能ですが、いなければ専門家と契約することもできます。
ただし、後見人制度も死後事務委任契約のどちらも、専門家へ依頼する場合には、保有資産額や依頼期間に応じて費用が発生しますので確認が必要です。
❏養子縁組という方法
ここまでは、おひとり様の死後の財産の処分方法と事務手続きを、いかに円滑に行うかという視点でお伝えしてきました。
しかし、おひとり様であっても、代々受け継いできた土地や建物、資産や墓を承継してほしい場合があるでしょう。
そのような場合、養子縁組という方法も選択肢の一つになります。
先祖代々受け継いできた財産を後の世代に承継したい
養子縁組と聞くと、子のない夫婦のためのものをイメージするかもしれませんが、相続対策における養子縁組はそれとは趣旨が違います。
養子縁組をすることで、法律上の親子関係をつくり、養子を相続人とする相続対策です。この方法により、相続人がいない人でも、自分が死んだ後の財産管理や事務手続き一切を養子に任せることができます。
また、養子となる人に子どもがいれば、代々受け継いできた財産が次の世代に更に承継される可能性があります。
なお、養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組がありますが、相続対策で活用するのは普通養子縁組です。普通養子縁組で養子となった人は、そのことが実親との関係に影響を及ぼすことはありません。つまり、誰かの養子となっても、実親に相続が発生した際には、変わらず実親の相続人のままであるということです。
相続税の非課税枠の増額
財産を特定の誰かに譲りたいだけであれば、遺言書にその旨を記載すればすむことですが、財産を譲りたい人を養子にすることで、遺産の受取人となった養子は、相続税上のメリットを享受することができます。
相続税には基礎控除枠の設定があります。法定相続人がいない場合の基礎控除額は3,000万円ですが、法定相続人がいる場合には1人につき600万円非課税額が増えるのです。
例えば、法定相続人ではないAさんが、遺言により4,000万円の遺産を取得したとします。この場合、基礎控除額を差し引いた1,000万円(4,000万円ー3,000万円)が相続税の課税対象となります。
一方、Aさんが普通養子縁組により、おひとり様の養子となった場合、Aさんは法定相続人となりますので、非課税枠が600万円増えることになるのです。つまり、基礎控除額が3,600万円となるため、課税対象となる金額が400万円に減額されるのです。
養子縁組をすることで、Aさんが払わなければならない相続税額が軽くなります。
❏まとめ
今回は、おひとり様にフォーカスして生前に準備できる相続対策をお伝えしました。
置かれている状況や年齢によっても、相続対策として準備しておきたいことは異なるでしょう。
自分が死んだ後の財産の行方は?事務手続きはどうしたらいい?
その不安を軽減するために、財産目録を作成して遺言書を書く。認知機能の衰えに備えて、事務手続きを代行する人を決めておく。
親類がいない、友人知人に依頼できない場合は、専門家への依頼を検討する、など。
準備しておいたほうが良さそうなことがたくさんあることがお分かりいただけたと思います。
また、養子縁組による相続対策は、養子の他に法定相続人がいるようなケースでは、相続発生時の遺産分割割合でトラブルになる可能性がありますが、おひとり様で、養子の他に相続人のいない方であれば、後々のトラブル発生の心配は少ないと考えられます。
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