公開日/2022年3月1日

生命保険4 代償金のイメージ画像

相続財産が自宅などの不動産だけで預貯金などの現金化できる財産が少ない場合、遺産分割協議がまとまらず相続がすすまないケースがあります。相続人全員の合意があれば、自宅を売却し現金化して分けることもできますが、相続人の誰かが自宅に居住し続けたい場合もあるため、現実的に難しい場合も考えられます。

自宅を売却せずに遺産を分割する手段として代償金を払う方法がありますが、その資金源に生命保険を活用することができます。

ここでは、生命保険金を活用した代償分割について解説します。

❏代償分割とは?

代償分割とは、遺産を多く相続した人が、遺産を取得できない共同相続人に、自分の財産から代償することで遺産を均等に分けることをいいます。

相続財産が不動産のみの場合など、他に分割できる財産がない、または少ない場合にこの方法をとることにより相続が円滑にすすめられます。

例えば、父が亡くなり、相続財産は自宅の土地、建物だけだったとします。相続人は長男、二男の2人で、自宅は長男が相続することになりました。しかし相続財産の半分は二男に受け取る権利があります。そこで、不動産を相続した長男が、二男が受け取るべき相続分を自分の財産から代償します。

❏代償分割に生命保険を活用する

長男が二男へ代償金を支払うためには、長男は代償金として相応の資金を用意しなければなりません。そこで、代償金を確保する目的で生命保険を利用することができます。

死亡保険金は受取人の固有の財産とされているため、このケースでは代償金を払う長男を受取人に指定して生命保険に入ります。

つまり、保険契約のパターンは次の2通りです。

生命保険4 代償金関係イラスト図

最終的に、保険金が二男にわたるのであれば、最初から保険金受取人を二男にしておけばいいのでは、という考えが浮かぶかもしれませんが、それでは代償分割が成立しません。

なぜなら、受取人を二男としてしまうと、生命保険金は二男の固有の財産となってしまうからです。つまり、保険金を受け取ったにもかかわらず、さらに長男が相続した不動産に対して、遺留分を持つことができてしまいます。

❏代償分割で取得した財産は相続税または贈与税の対象

本来、相続により取得した財産は相続税の対象ですが、代償分割により取得した財産は、その金額によっては、贈与税の対象となることがあります。下表を比較して分かる通り、贈与税の税率は相続税の税率より高く設定されています。税の仕組みを知らずに代償金を受け取ってしまうと、のちに思いがけず高額な納税を強いられる場合があります。

次の事例で確認してみましょう。

相続税速算表

(平成27年1月1日以降)

生命保険代償金相続税早見表

出典:国税庁 贈与税の計算税率 贈与税の速算表

No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁 (nta.go.jp)

贈与税速算表 (兄弟間の贈与で使う速算表)

生命保険 贈与税速算表

出典:国税庁 贈与税の計算税率 贈与税の速算表

No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁 (nta.go.jp)

A.相続税の対象となるケース

生命保険 家族関係イラスト1

生命保険金は「みなし相続財産」として相続税法上、相続財産の総額に含めるため、相続財産総額は7,000万円。生命保険金も含めて兄弟2人が1/2ずつ相続すると、各3,500万円です。

二男は預貯金の1,000万円しか受け取っていないため、長男は二男に対し、受け取った生命保険金から2,500万円を代償することとします。

このケースでは、長男の相続財産である自宅(3,000万円)よりも代償金(2,500万円)が少ないため、相続における代償金とみなされて、相続税の対象です。

B.贈与税の対象となるケース

生命保険 家族関係イラスト2

相続財産はAと同じで3,000万円の自宅と1,000万円の預貯金です。

しかし、生命保険金が6,000万円であるとどうなるでしょう。

生命保険金を含めた相続財産総額は1億円。1/2づつ相続するので、各5,000万円です。

二男は預貯金1,000万円しか受け取っていないため、長男は二男に対し、受け取った生命保険金から4,000万円を代償することにします。

このケースでは、長男の相続財産(3,000万円)より代償金(4,000万円)の金額が多くなってしまうために、超過分は相続により代償した金銭と認められず、兄から弟への贈与とみなされます。よって、3,000万円は相続税の対象ですが、超過した1,000万円は贈与税の対象となります。

❏生命保険金で代償金を払うときに気を付けること

繰り返しになりますが、生命保険金は受取人の固有の財産です。

従って、生命保険の受取人は共同相続人に対し生命保険金の分割義務はありませんので、この場合でも、代償金を3,000万円にとどめておけば、贈与税の問題は発生しません。

しかし、代償金の確保を目的とした生命保険加入であると、死亡保険金も含めた財産を公平に分割すべきという考え方があるかもしれません。代償金を贈与税対象としたくない場合は、保険金の金額設定に注意したほうが良いでしょう。

なお、代償分割を行う際には、被相続人の遺言書、もしくは、遺産分割協議書にその旨の記載が必要です。これらがないと代償金と認められず、全額が贈与とされる可能性がありますので注意しましょう。

❏まとめ

財産を多く相続した人が、他の相続人に代償金を払うことを代償分割といいますが、ここでは、代償金の資金源としての生命保険の活用法をお伝えしました。

相続財産が不動産のみや、不動産の割合が高い場合は、他の相続人への代償金に加えて自分の相続税の支払いが必要なケースもあり、金銭的な負担が大きくなることが考えられます。

将来的にご自身の相続が、このようなケースに当てはまる場合には、生命保険の活用を視野に入れてもいいかもしれません。


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この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。