「相続で争いになるなんて、うちには関係ない!」と思ってはいませんか?実は、相続争いは意外と身近に存在しています。今回は、相続争いの起こりやすい家族と争いの内容について、事例を紹介しながらご説明していきます。
あなたやあなたの家族が相続争いに巻き込まれないように、早めに対策をとっておきましょう。
作成日:2021年12月21日
目次
1.相続争いはこんな家族で起こります!
相続と聞くと、ドラマなどでよく見る資産家の相続争いを思い浮かべる方も多いと思います。そのため、「相続なんてお金持ちにしか関係ないんでしょ?」と思っている方も少なくありません。
しかし、それは大きな誤解です。実は相続争いの多くは財産の少ない家族で起こっているのです。
下の表は令和元年に遺産分割で裁判となった件数を、財産額ごとに示したものです。
この表を見ると、遺産分割事件は約3割が財産額1,000万円以下、約4割が財産額5,000万円以下の家庭で起こっていることがわかります。実に7割以上の争いは財産額が5000万円以下なのです。
つまり、財産が少ないほど家族が争いになりやすい傾向にあるということになります。
そのため、相続争いのきっかけは相続税がかかるくらい財産があるかどうかではなく、亡くなった人がどんな財産の残し方をしているのか、誰が相続するのかかが重要な鍵となるのです。
残された家族が円満に相続を終えるためには、節税対策だけでなく、争族対策を行うことが大切です。争族対策の第一歩として、まずは相続争いが起こりやすい家族を知っておきましょう。
2.よくある争族相談8選
- 「家族が争族にならないように対策したい」
- 「現在争族が起きていてどうしたら良いかわからない」
このような悩みを抱えて相談に来る方は多いですが、争族の原因は家族によって様々です。ここでは、その中でもよくある相談内容を9つご紹介します。
1つでも当てはまる方は、相続に詳しい専門家に相談し、早めに対処することをお勧めします。
よくある争族相談①主な財産が不動産しかない
主な相続財産が自宅のみで、子供のうちの1人がその自宅で一緒に暮らしている場合には、自宅の相続を巡って争いになる可能性があります。
例えば、自分名義の自宅に住むAさんは、5年前に妻を亡くし、今は長男と2人で暮らしています。次男は結婚して遠方に住んでおり、なかなか会うことができません。そんな中、Aさんは持病が悪化し、亡くなってしまいました。長男と次男がAさんの財産を調査すると、Aさんには相続税評価額2,000万円の自宅と預金500万円しかないことがわかりました。
相続人が長男と次男のみの場合、2人の法定相続分は2分の1ずつです。しかし、長男は「これまでもAさん名義の自宅に住んでいたから、これからも住み続けたい」と主張すると、次男は500万円の預金しか相続することができず、不公平な遺産分割となってしまいます。このまま、長男と次男の意見が対立し続けると、いつまでも遺産分割が成立せず、やがて争いに発展してしまうのです。
遺言や家族信託を使った対策を生前に行っておくことが大切です。また、代償金の支払も争いを回避できる手段になるので生命保険等の手当ても有効です。
よくある争族相談②生前贈与をしていた
- ・弟は大学進学の資金を親から援助してもらっていたが、自分は援助をしてもらえず、奨学金やバイトでなんとか大学に進学した。
- ・姉には子供がいるからと、結婚資金や住宅購入の資金などを、ことあるごとに贈与を受けていた。
このように、一部の兄弟だけが多額の資金援助や生前贈与を受けていると、兄弟間の格差が生まれてしまいます。援助や贈与を受けた人はあまり気づかないのですが、それを受けていない人は覚えており、「他の兄弟はたくさん援助を受けていたのだから、相続財産は自分が多く受け取るべきだ」と主張する可能性があります。
以前は仲の良い兄弟でも、お金のことになると争いになってしまうケースも珍しくありません。
特別な援助や生前贈与がある場合には、これらを考えた遺言や家族信託の作成をしておくことが争族対策になります。
よくある争族相談③親の財産の使い込みがある
高齢の親と同居している子供が、意図して必要以上に親のお金を自分や自分の子供のために使っていると、他の子供から見て「使い込み」を疑われてしまい、相続争いが激化する可能性がありますので注意が必要です。
姉に親の介護を任せてから親の財産が急激に減っているとなると、他の兄弟は姉の使い込みを疑います。財産の使い込みがあったことがわかると、親の相続が発生したときに「使い込みをしていたから相続財産を受け取るべきではない」と初めから争いになる可能性があります。
実際に使い込みをしていなくても疑われると疑心暗鬼になって争いに発展してしまうこともあります。使い込みと思われることはしないことが一番ですが、もし親のお金を同居の子供が預かっている場合には、使ったお金の領収書やレシートを取っておくなど、何に使ったかを明確にしておくと良いでしょう。
また、子供や他の兄弟が使い込みをする恐れがある場合には、「家族信託」を活用して財産管理をする方法があります。家族信託では、財産の管理がオープンになりますので、使い込みや不正を未然に防ぐことができます。
よくある争族相談④子供のいない夫婦
子供がおらず、夫名義の自宅に2人で暮らしている夫婦。この状況で夫が亡くなると、思わぬ争いが起こる可能性があります。
遺言のない相続の場合、亡くなった人の財産は法定相続人で話し合いをして分けることになります。子供がいる場合には子供と妻が法定相続人となるのですが、子供がいない場合には、妻と夫の兄弟が法定相続人となるのです。したがって、妻は夫の兄弟と話し合いをして遺産分割をすることになります。
遺産分割の話し合いは、法定相続人全員が納得してハンコを押さないと成立しません。もし、夫の兄弟が夫の自宅を妻が相続することに反対していると、この話し合いが成立せず、いつまでも自宅を妻の名義にすることができないのです。
特に、夫と兄弟の仲が悪い場合や、夫の兄弟が遠方にいる場合にはコミュニケーションが取りにくく、争いに発展してしまう可能性があります。
このような争いにならないように遺言や家族信託で手当てしておく必要があります。
よくある争族相談⑤夫名義の自宅に姑と一緒に暮らしている
夫名義の自宅に妻と夫の母(姑)と3人で暮らしており、夫が先に亡くなってしまったようなケースがあれば、遺産分割に注意が必要です。
夫が亡くなると、子がいない場合には夫の財産を妻と姑で分け合うことになります。夫の持っている主な財産が自宅のみの場合、妻と姑のどちらが自宅を相続するかで、今後の生活に大きな影響が出る可能性があるのです。
例えば、妻と姑の仲が良く、姑が「夫がお世話になったから自宅はあなたが相続してください」と言ってくれる場合もあるでしょう。しかし、姑は他に住むところがなく、その後も妻名義の自宅で一緒に暮らすことになり、妻としてはすでに亡くなってしまった夫の母の面倒を見ながら生活しなければなりません。
このように、夫名義の自宅に妻と姑と住んでいるケースでは、遺産分割の時から、その後の生活の中で争いが発生する可能性が高いのです。
よくある争族相談⑥管理していない不動産がある
相続財産の中に管理の行き届いていない不動産があると、相続した子供が管理に困ってしまい、争いに発展する可能性があります。
使っていない不動産を管理せずそのままにしていると、草木が生い茂り、建物自体の耐久性が低くなってきます。もし、その不動産が崩れて近隣の人に損害を与えてしまうと、不動産を所有している人に損害賠償責任が生じることになるのです。
この損害賠償責任は相続放棄をしたとしても発生し簡単に消滅させることはできません。このようなケースでは、相続人同士で誰が不動産の管理をするかを巡って争いになってしまう可能性が高いです。
地方都市の実家が空き家になる場合にこのようなケースが多くなります。父母の生前から誰も住まなくなる不動産の処分は対策しておく必要があります。
よくある争族相談⑦兄弟の1人が親の介護をしている
兄弟のうち誰か1人が親の介護行っていた場合、相続分をめぐって争いになる可能性があります。争族相談で最も多いのがこのケースです。
親の介護を懸命に行ってきた兄弟からすると、「自分は親の介護に苦労したのだから、相続財産を多くもらって当然だ。」と主張します。しかし、他の兄弟としては「兄弟の法定相続分はみんな平等なんだから、1人だけ多くもらうのはおかしい」という気持ちになるでしょう。
さらに、最も厄介なのが、相続人の妻が亡くなった親の介護をしていたケースです。
妻は、自分が夫の親の介護をしてきた分も含めて、相続人である夫の取り分を多くしてもらいたいと主張します。法定相続分のない妻が親の相続に口を出すことになりますので、他の相続人からすると、「相続に関係ない部外者が口を挟むな」と主張する可能性があります。
このように兄弟間で相続分を巡った争いになると、なかなか解決することが難しくなってしまいます。
生前の介護に関して寄与分として遺産を分けてもらうことが認められています。遺言の作成や遺産分割協議で寄与分が認められるように対策をしておきましょう。
よくある争族相談⑧再婚をした
再婚は相続関係を複雑にして、遺産相続で揉めてしまう原因の一つになります。
例えば、先妻との間に子供がいるBさんが再婚したケースです。
Bさんが亡くなると、Bさんの後妻の他に先妻との子供と後妻との子供が法定相続人となります。このケースでは、子供同士で相続分をめぐった争いになる可能性があります。
また、再婚した後妻にも先夫との間に子供がいる場合には、Bさんと後妻のどちらが先に亡くなっても夫婦の財産をめぐって子供たちが争いに巻き込まれる可能性があります。
いずれの場合にも、生前に遺言や家族信託を活用して対策をしておく必要があります。
まとめ
今回はよく相談のある相続争いの原因をいくつかご紹介しました。相続税対策だけでなく、残された家族が円満に相続を終えられるよう、「争族対策」も行っておくことが大切です。
ソレイユ相続相談室では、実務経験の豊富な税理士や行政書士が、お客様に合った相続のアドバイスを行っております。相続に関してのお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。