作成日2021年10月26日

1、親の財産を知らないリスク

都会に子どもが暮らしていて、田舎に両親が暮らしている家族関係はめずらしくありません。そのままの家族関係で両親が亡くなっていくこともあるし、都会の子どもが田舎に帰って両親と暮らすこともあります。

いずれにせよ、都会に子どもがいて田舎に両親がいる現実で、両親の高齢化と共に次のような様々な問題が起きています。

①高齢の両親が特殊詐欺等にあって、老後の資金を奪われる

親の財産を子どもが具体的に(預金や株がどこにいくらあるか等)を知っていることは少ないです。

高齢になって親が老後の資金に貯めておいたお金が、未公開株の詐欺、害虫駆除の詐欺等で千万単位で失われた実例があります。

②高齢の両親が田畑あるいは遊休地の草刈り等の管理ができなくなって、近所から苦情が来る

田畑や駐車場で使っていた土地の手入れが、両親の高齢化と共にできなくなり、草が延び放題の状態になり、近所から苦情が出て新幹線で草刈りに来ていた都会の子どもが精神を病んでしまった実例があります。

③実家の古くなった家屋が痛んできて、雨漏り、漏水等に両親が対処できない

実家の住居が古くなってきて、雨漏りや床が抜けたり普通に住めない状況になってきても、高齢の親は建替えはもとより修理等の判断ができなくなってきます。

漏水で毎月数万円の水道料と少し濁った水を使い続けていた事例もあります。

④田舎の認知症になってしまった親の成年後見人が選任されることになり、毎月お金がかかってしまう。

親が認知症になってしまうと、預金は凍結されて使えなくなってしまいます。

成年後見人をつけなければ生活もできない状態になった時に遠隔地に住んでする子どもは成年後見人に選ばれにくく、司法書士等の専門家が付くと毎月2~3万円のお金がかかってしまいます。

⑤田舎の親が都会の子どもと住むことになったが、田舎の不動産の処分ができない

親が都会の子どもと一緒に暮らすことになったが、親が認知症で田舎の不動産の売却ができない場合や、価値の低い田舎の不動産が処分できずに困る事例はたくさんあります。

このような事例で、都会と田舎の遠隔地でも親の財産管理ができた事例を紹介します。

2、遠隔地でも財産を管理できる方法

① Aさんの事例

Aさん(60歳)は、横浜市に家族三人(夫婦と長男)で住んでいて、母親(80歳)が岡山の田舎に一人で暮らしています。Aさんの妹は北九州に嫁いでいます。

母親には預金2000万円、株式1000万円と自宅と有休宅地と田畑があります。

母親は元気ですが、年相応の物忘れも出てきていますし、畑にでるのもおっくうになってきたようで、田は近所の人に耕作してもらっています。

Aさんも、Aさんの妹も働いていて、週末に交代で実家に母の様子を見に来ています。

Aさんは母親にはできる限り実家で暮らさせてあげたいと思っています。

また、いずれ実家とその近所にあるお墓は自分が継ぐようになるので、横浜で暮らしていても、実家は親族が集まれる場として残したい考えです。

Aさんは母親の老後の財産管理のために相続専門家に相談に行きました。

② 家族信託との出会い

Aさんが相談に行った相談室は、相続税と相続を専門に扱っている相談室で、遺言と家族信託の活用を勧められました。

家族信託は、信託会社や銀行の商品ではなく、家族の間で財産を預けて管理してもらう方法で信託法によって契約書を作成します。

まず、Aさんは母親の財産目録を専門家と一緒に作りました。

その財産目録を元に、家族信託にする財産と遺言で残す財産を振り分けました。

家族信託を使うと、財産を預ける人(委託者)=母親 と 財産を預かる人(受託者))=Aさんで、信託する目的に沿った信託契約を結びます。

この場合の信託契約の目的は「母親の自宅の管理と生活費、医療費、介護費用の支払と有休不動産の管理処分」です。

Aさんが心配だったのは、母の老後資金が特殊詐欺等で失われてしまう事や、母が認知症になって預金が凍結されて使えなくなること、さらに遊休地の処分ができなくなることでした。

家族信託契約を結ぶと、委託者(母)の財産の内、信託する財産は、受託者(Aさん)の名義に変わります。

Aさんは自宅と有休地と預金を信託財産とすることにしました。

母の財産がAさん名義に変われば、母が認知症になってもAさんが母のために生活費や医療費や介護費用をおろすことができますし、自宅の修繕も遊休地の売却もAさんができます。

Aさんは信託で預かった預金口座を横浜の自宅近くの金融機関に作りました。

これで預金の出し入れや振込、自動振り替えの手続きも横浜でできるようになりました。

家族信託に組み込んだ預金は、母が亡くなるまでの資金としては十分な額を入れました。

なお、家族信託は信託が終了した時に、残余財産を分配する契約にすることができます。遺言と同じ理屈です。

Aさんと母親は、自宅はAさんに、預金はAさんとAさんの妹に半分づつ分ける契約にしました。

田畑は農地法の関係で信託財産とするのが難しいので、遺言でAさんが相続する形として、有価証券は今のうちに売却してそのお金は、信託に入れるお金とそのまま母の名義で遺して、Aさんと妹で半分づつ相続する形にしました。

③ 信託後のお話

家族信託の契約が完了して、運用が始まってから2年がすぎました。

母は弱ってきていますがまだ元気です。

Aさんは信託財産の遊休地を売却しそのお金は信託財産に入りました。

田畑は母の人脈の助けもあり、近隣の農家に売却することができました。

心配していたことは、幸いまだ起きていませんが、財産の処分問題も片付いて、母の老後の生活資金も安全に管理できるようになったことで、Aさんは安心して横浜と岡山を往復しています。

3、いつから始めたらよいのか

実家の相続対策は、親が元気なうちに進めることが必要です。

ひとたび認知症や脳梗塞等判断に支障が出る病気になってしまうと、家族信託契約はできなくなってしまいます。

そうなると、成年後見制度以外に道は無くなってしまいます。

Aさんが成年後見制度を使っていたら、毎月3万円はかかっていたはずです。そのお金があればAさんや妹さんが母親の介護に来る旅費が出てくる・・・とAさんは話していました。

親が元気なうちに、家族信託契約は作成しておいても、預金をすべて信託財産として預ける必要はなく、追加で預けていくこともできます。

ただし、親が病気で突然判断に支障がでると預金は動かせなくなりますから、最低限のお金は信託財産として預けておくことはお勧めしています。

親が田舎の財産を都会の子供の銀行に預けてしまうのも心配であれば、田舎の銀行に信託口座を作ってその通帳の管理方法に工夫をすれば問題を解決することもできます。

やはり、家族信託も遺言も親が元気なうちに作っておくことが大切です。

4、まとめ

実家の相続対策、特に子供が遠隔地の都会にいて、親が田舎で暮らしているような場合には、実家の相続対策の経験がある専門家に相談することが必要です。

田舎の特有の事情、特に田畑山林遊休地の不動産に詳しい、相続税がわかる専門家にご相談ください。

ソレイユ相続相談室は、神奈川県と長野県と新潟県に拠点があり全国の実家の相続対策のご相談を承っております。

この記事の監修者

糸山 優子

糸山 優子(税理士)

埼玉県出身。家庭と仕事を両立させながら日々資産税業務に携わる中で、持っていた税理士資格をお客様のために活かそうと、令和2年に税理士登録しました。
一般企業での勤務経験、家族を大切にする家庭人としての経験を、相続で悩むお客様に寄り添った、丁寧で安心できる対応に活かして相続専門の税理士として活躍中です。