更新日/2022年7月26日
みなさんは「祭祀(さいし)財産」という言葉をご存じでしょうか。祭祀財産とは、簡潔に言うと仏壇やお墓など祖先にまつわる大切な財産のことです。
家系図などの系譜を保管している場合や、大切な仏壇や神具などを引き継いでいる場合も祭祀財産として扱われています。祭祀財産は民法上、通常の相続時に発生する相続財産とは別に取り扱いがなされており、「非課税の財産」として取り扱われています。
では、この祭祀財産にまつわる相続に関しては一体どんなトラブルが起きているのでしょうか。
この記事では祭祀財産の概要や、祭祀財産の管理などに関するトラブルについて詳しく解説します。
目次
祭祀財産にはどんな財産が含まれる?
祭祀財産は民法第897条第1項で規定されています。民法第897条は「祭祀に関する権利の承継」が規定されている部分です。祭祀財産とは以下の3つに分類をすることができます。
系譜
日本において現在の戸籍の形態にたどり着いたことは、長い歴史の中で見れば近年のことです。古い戸籍を辿ってみると明治初期から過去についてはわからないケースも多いですが、家系図や家系譜がある場合にはもっと古い祖先まで辿ることができます。こうした情報は「系譜」と呼ばれており、祭祀財産の対象です。
祭具
祭具は仏壇や仏具、仏像などはもちろんのこと、その他の宗教の場合には十字架や経典なども含みます。ご先祖を祀るための道具全般が祭具に含まれます。
墳墓(ふんぼ)
墳墓とは墓地や墓石などを指します。先祖ご遺体などを葬るために作られたものやそのために用意されたスペースは墳墓に該当します。墓地は地域事情や宗教などによってもスペースが異なりますが、社会通念上墳墓の範囲として認められるもののみが該当します。つまり、あまりにも大きな墓地は認められないため注意が必要です。
このように祭祀財産は家族にとって大切な財産であり、預貯金や有価証券とは本質が異なっていることがわかりますね。
他人からすると一見無価値に思えるような仏具や家系図も、ご家族にとっては先祖から受け継いできた唯一無二の財産です。そのため、民法上では一般的な相続財産とは分けて考えています。
では、祭祀財産は相続時にはどのように扱うのでしょうか。
祭祀財産の特徴は2つ!「無課税」と「祭祀主催者」とは?
祭祀財産は預貯金などの財産と本質が異なっているため、相続時にもその他の財産とは取り扱いが異なっています。以下2つのポイントをご一読ください。
祭祀財産は無課税である
本来相続の対象となる相続財産は、相続税の対象となります。また、不動産の取得の際に生じるような取得税もかかりません。ご先祖からの大切な財産を相続放棄(※1)せざるを得なくなる、相続人間の遺留分に配慮をして継承ができない、などのトラブルを避けるためです。祭祀財産は大切な過去からのバトンとして、まとめて継承できるように無課税扱いとなっています。
(※1)祭祀財産と相続放棄
相続放棄は被相続人の財産を一切放棄するものです。被相続人に高額の負債が見つかった場合や被相続人との間に長年関わりが無かった方などが家庭裁判所に相続放棄の申立てを行うことがあります。本来相続財産は相続放棄を選択すると受け取れなくなりますが、祭祀財産は相続財産ではありません。つまり、放棄する必要はないのです。
原則として祭祀主催者が単独で継承する
祭祀財産は預貯金などの財産とは異なり、1つ1つの財産が分散してしまうと法事などの祭祀の執り行いが難しくなってしまいます。仏壇の中を想像するとわかりやすいですが、仏具や仏像などがバラバラに相続されてしまい、一部が売却されてしまったらどうでしょうか。大切な仏具が失われてしまいます。そこで、祭祀財産は原則として、単独で継承をします。この際に継承をする人は「祭祀主催者」と呼ばれており、被相続人に関する祭祀財産の相続や今後の管理について責任者として執り行います。
誰が祭祀主催者になれるの?
祭祀財産は祭祀主催者が単独で財産を受け取り、大切に管理をしていくことになります。では、相続人が複数人いる場合には誰が祭祀主催者になるのでしょうか。昔は家督相続という制度があり、こうした家の大切な財産は長男が受け継ぐことが一般的でした。しかし、現在は以下の3つの方法があります。
伝統や慣習に従って祭祀主催者をきめる
大切な祭祀財産を受け継ぐ必要がある場合、地域性や慣わしによって祭祀主催者を決めることがあります。民法上でもこの方法は規定されています。
相続人が生前から指定する、遺言書で指定する
先祖代々から受け継いでいる祭祀財産は、次世代に残すことも責務と考えている方も多いでしょう。そのため、生前から遺言書の中で祭祀主催者を指名する、口頭で「祭祀主催者になってほしい」と依頼をすることもできます。祭祀主催者は遺言書に書き残さなくても、口頭や手紙で依頼をすることもできます。相続財産に関係しないからこそ、こんな方法で伝えることもできるのですね。
家庭裁判所で決めることもできる
祭祀主催者が誰になるのか決まらないものの、誰にすべきなのか決定が必要なケースでは家庭裁判所に申立てを行い、祭祀主催者を決定することもできます。家庭裁判所では祭祀主催者の候補者に関して意思の有無が祭祀財産の管理能力の調査を行い、祭祀主催者にふさわしいかどうか検討します。決定すると相続放棄にようには放棄ができません。
相続財産ではないのに、どうして祭祀財産はトラブルに発展するの?
さてここまでは、祭祀財産の概要について細かく解説しました。では、祭祀財産の継承の際にはどんなトラブルが予想されるのでしょうか。ここからはトラブルの内容について考察してみましょう。
祭祀主催者を指定する場合のトラブル
遺言書の作成の際には色んな思いを込めることができます。その際に祭祀主催者を指定する場合は本当にその人が祭祀主催者にふさわしいのかじっくりと検討する必要があります。例としては以下のケースです。
・代々祭祀主催者は長男が引き継いできたが、長男は遠方で独立し家庭もある。
現在家の跡取りには次男が予定されている
・子どもが全員独立して別居しており、祭祀主催者にふさわしい人を決めかねる
・長男が祭祀主催者にふさわしく、長男自身も同意しているが親族との仲が良くない
このようなケースでは、祭祀主催者に決まった後に実際の祭祀財産の管理には遠方過ぎて難航する、親族間とのトラブルに発展するなどの可能性があります。特に墓や仏壇などの管理を遠方にいる子に託すと、子にとっても大きな負担となる可能性があります。昔とは時代が異なり、核家族も増加している今だからこそ、祭祀財産は単純に継承をするとトラブルになる可能性があります。墓じまいや祭祀財産の処分も視野に親族みんなで早くから検討してみましょう。
価値観の相違によるトラブル
祭祀財産は価値観の相違が生まれやすい財産です。代々受け継いできた家系図や仏壇などに思い入れが深いご親族もいれば、子どもの頃からこうした祭祀財産とは縁遠く、相続をきっかけに存在を知るケースもあります。現金や有価証券とは異なり、価値を評価しにくい財産であるため、思い入れの違いからトラブルになるケースもあるのです。祭祀管理者に指定されても祭祀財産を処分することは、はっきり言って「自由」です。相続税もかかりませんし、相続財産の対象ですらありません。欲しくないのに祭祀主催者になってしまったら、処分を検討する人もおられるでしょう。実際に大きな地方にある仏壇を都市部に引き上げて預かることになったら、処分の2文字が脳裏をよぎるでしょう。しかし、この場合には家族の歴史に対して思い入れのある方から強い反発を受ける可能性があります。処分を検討してもすぐに実行するのではなく、話し合うべきでしょう。
法事などの親族行事に関するトラブル
法事に関しても近年では、7回忌以降は実施しなくなるなど、回数を減らす方向で検討されるご家族が増えています。法事は親族を集めて執り行う必要があり、祭祀管理者からすると大きな負担になる行事です。しかし、親族の中にはこれまでどおりのペースでこうした親族行事を執り行うように求めてくる場合もありますが、親族側が祭祀主催者に行事などを強制することはできません。しかし、親族という近しい人間関係の中では強く求められると断れないというトラブルもあるでしょう。次世代の方と、親族間は今後の祭祀財産や管理の在り方について、歩み寄る必要があるのです。
まとめ
今回は相続財産とはならない祭祀財産について、だからこそ起きてしまうトラブルを焦点にご紹介しました。
祭祀財産や相続に関するお悩みや困りごとは、いつでもお気軽に「ソレイユ相続相談室」へお問い合わせください。