公開日/2022年5月24日
相続問題は他人事でも、資産家だけのものでもありません。
「うちは仲がいいから、相続問題なんて起こるわけがない」
「遺言書は資産家が書くものだから、自分には関係ない」と思っているかもしれませんが、どんなに仲が良くても相続問題が起きる可能性はありますし、実は財産が少ないほうが争族になりやすいともいわれています。
亡くなってゆく人にとっては、後のことは関係ないかもしれませんが、遺された家族はその後も他の相続人との関係が続いていくわけですので、円満に相続を終えたいと考えるのは当たり前のことでしょう。
そこで、親から子への相続が円満に終えられるように、子が「親に遺言書を書いてもらう」と願うとき、どのように進めたらよいでしょうか。
親に遺言書を書いてもらう方法、テクニックを考えてみましょう。
目次
❏遺言書を書いて欲しいと伝えるためのコミュニケーション術
ストレートに、「遺言書を書いて欲しい」と伝えることには戸惑いがある、かといって遠まわしでは伝わらない。というのが子側の気持ちではないでしょうか。
親子関係が良好で普段から密にコミュニケーションが取れている親子のほうが、相手の気持ちを推し量ってしまうことで、逆に相続に関することは言い出しにくいかもしれません。
子どもが、突然、親に遺言書を書いて欲しいと言ったら、
「仲良し親子だと思っていたけど、財産目当てだったの?」
「早く死んで欲しいと思ってる?」
「自分には知らされてないけど、何かの病気で余命宣告されているのでは?」
など様々な憶測と子どもに対する不信感が生まれ、親子関係にひびが入ってしまうかも。
遺言書に関する具体的な話をする前に、心のシャッターを閉められてしまっては元も子もありません。
親の性格にもよりますが、普段から自分と親の将来について話をしておくこと、また、一般論として日常会話の中で相続の話をしておくというような下準備があって初めて「遺言書を書いて欲しい」ということを口に出しやすくなります。
❏子が相続や遺言書について学ぶ
遺言書のお願いをするからには、子自身が、相続や遺言書について学び、その効力やメリットについて親にしっかり説明できるようにしておきましょう。
親の認知機能が下がってからでは、遺言書の作成は難しくなります。親自身の判断能力がしっかりあるうちに準備をしておくことが大切なのです。
「遺言書なんてまだ早い!」「遺言書なんて死ぬ間際でいい」という考えを持っている親世代がまだ多いかもしれませんが、しっかりしている今だからこそ必要な作業だということを伝えてみましょう。
そして、最も重要なのは、子が親に「一緒に遺言書を作成しよう」というスタンスで向かうことです。
ただし、財産目当てではないかとか思われてはいけませんので、遺言書の内容に口出しをすることは極力避ける方が無難です。
そして、共同相続人になる人に誤解を与えないためにも、可能であれば、遺言書を書いてもらうことを伝えておいたほうが良いかもしれせん。
❏遺言書がないことで起こり得るデメリットを伝える
親に遺言書の作成をなかなか承諾してもらえないときは、遺言書がないことで起こるかもしれない相続問題を説明してみましょう。
「うちの子ども達は仲がいいから相続で揉めることなんてあり得ない」と親が思っていたとしても、子どもが成人し、それぞれ独立し新しい家族ができて年月を経れば、金銭事情も異なり、考え方も変わります。相続発生時に良好な関係を保っている保障はどこにもありません。
特に、相続財産に占める不動産の割合が高く、預貯金がない、または少ない、つまり分割可能な財産が少ないケースは要注意です。自宅に住み続けたい長男、財産を平等に分割してもらいたい二男というように、いざ相続が始まると子同士で揉めるのはよくあるパターンです。
遺言書の作成は、将来起こり得る争族を回避し、相続人同士の良好な関係を維持するために必要なものであることを説明しましょう。
ただし、遺言書の存在で利益を得るのはあくまで相続人側であって、亡くなってゆく親ではありません。
子は、遺言書を書いて欲しいばかりに、親に対して感情的になってしまったり、必要以上に責めたりすることのないよう、あくまで冷静に理論的に遺言書の有効性を説明することが大切です。
❏子は遺言書の作成を見守るというスタンスで
説得の甲斐があって、遺言書の作成に同意してもらえたら、親の「思い」をヒアリングすることから始めます。
自分の死後、財産をどう分割して欲しいのか?
相続は遺言書がなければ、共同相続人が遺産分割協議を行って相続割合を決めるか、若しくは法定相続割合で相続することになります。
しかし、遺言書があれば遺言書で指定した相続割合が、法定相続分に優先して効力を持つことになりますので、親の意向を反映させることが可能です。
また、遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言と3パターンあり、それぞれは、要件と手続きの方法が異なります。
せっかく書いてもらった遺言書が、要件を満たしていないことで無効となってしまうことがないよう注意が必要です。
遺言書があるのに無効となってしまうと、新たな争族の火種になる可能性もあります。
子が遺言書の種類や要件について正しい知識を得た上で、親の遺言書作成のお手伝いをしてください。
ただし、あくまで遺言書の内容は親自身が決めるというスタンスが重要です。なぜなら無理やり書かせた遺言書は無効となるからです。
脅迫によって書かせたと認められた人は相続人から除外されます。遺産の取得ができなくなりますので注意してください。
子は、遺言書を書いてもらうためのお膳立てをするという姿勢で向かうといいでしょう。
❏遺言書は何度でも書き換えていい
遺言書の作成に気が進まないのは、「この先気が変わるかもしれない」と考えてのことかもしれません。
遺言書は完成した後でも、遺言者(親)が生存している限り、何度でも書き換えることが可能です。遺言書の一部または全部を撤回することができ、後から書いたものが有効となります。
親子関係が変わった、財産に変動があった、気が変わったなど、何度でも遺言書は変更ができることも親に伝えてください。
❏親子で一緒に専門家へ相談する
そうは言っても、財産整理から遺言書の作成までを、親子のみで行うことは簡単ではありません。いつか、いつかと先延ばしにしていて、遺言書を遺さないまま、亡くなってしまうというケースも珍しいことではないでしょう。
何から手を付けて良いかわからない、相続について誰かに相談にのって欲しいときは、専門家の手を借りるという方法も視野に入れてはいかがでしょう。
相続には遺留分というものがあり、遺留分を侵害していると、せっかくの遺言書が無効となる場合があります。
専門家に相談することで、そのような問題も回避することができます。
また、専門的見地からの客観的な説明により、親子だけでは気付けなかった問題点が見つかることもあるでしょう。
最近は、オンラインでの相談を行っているところも増えていて、身体的事情で外出が難しい場合や、遠方へお住まいの場合でも手軽に相談ができる仕組みが整いつつあります。
相続について勉強し、説明し納得してもらう、そして財産を洗い出し、遺言書を作成する、この一連の作業を親子だけで行うのは、大きな労力とそれなりの時間が必要です。
「遺言書を書いて欲しい」、「遺言書を作成したい」と思ったら、最初から専門家へ相談するのが、実は一番の近道かもしれません。
❏まとめ
遺言書は決して特別な人のためのものではありません。ごく一般的な家庭であっても円満な相続を行うための方法のひとつとなっています。しかし、子から親へ「遺言書を書いて欲しい」とはなかなか言い出しにくいという現状もあるでしょう。
まずは、子が相続や遺言書について正しい知識を得ることが大切です。相続を理解することは、将来の自分のためにもなります。そして、一緒に遺言書を作成するというスタンスで親へ伝えてみましょう。
何から手を付けていいのかわからない、誰かに相談してから遺言書を作成したいなどの場合は、専門家の手を借りてみてはいかがでしょうか。
オンライン相談であれば、窓口に出向くためにかかる移動時間の短縮にもなりますし、体力的な負担も少なくて済みます。
専門家への相談は敷居が高いと思われるかもしれませんが、オンラインであればそのハードルは少し下がりそうです。
親子一緒に専門家へ相談することを検討してみてはいかがでしょうか。
遺言書作成のご相談は、「ソレイユ相続相談室」までお問い合わせください。