ここでは、遺言に関してよくいただく質問とその回答についてまとめています。

認知症になった後でも遺言を書くことはできますか?
作成した遺言が有効となるためには、遺言者に「意思能力」があることが要件となっています。ですから、認知症になったからといって、直ちに意思能力がないと判断されるわけではありません。
しかし、認知症の程度が重く意思能力が不足している場合には、遺言を作成しても無効となってしまうため注意が必要です。
特に、自筆証書遺言(保管制度含む)を書く場合には、遺言作成時の遺言者の状態が後々トラブルになる可能性がありますので、遺言者の意思能力に不安がある場合は、公正証書遺言で作成することをお勧めします。
前に作成した遺言を書き直すことはできますか?
遺言者に意思能力があれば、遺言を何度でも書き直すことができます。書き直す場合は、遺言の方法に従って行うことになります。遺言の方法が異なっていても問題ありませんので、「以前は自筆証書遺言で作成したが、公正証書遺言で書き直す」ということも可能です。
また、遺言が複数ある場合は最も日付の新しいものが優先されます。
例えば、2013年10月1日に作成した遺言と2018年10月1日に作成された遺言があれば、2018年10月1日に作成された遺言が有効となります。
遺言の書き直し(撤回)について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
→相続の知恵「遺言を書き直したいとき(遺言の撤回)
遺言を紛失してしまいました。どうすればよいでしょうか?
作成した遺言が「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」かによって、紛失した時の対処法が異なります。
公正証書遺言で作成した場合、遺言の原本は公証役場に保管されていますので、作成時に渡された正本や謄本を紛失したとしても、問題はありません。相続発生後は、相続人が公証役場で謄本の交付を請求し、遺言の内容通りに相続手続きを進めることができます。
一方で、自筆証書遺言は原本を遺言者の判断で保管することになりますので、紛失すると「遺言がない状態」になってしまいます。
また、コピーを取っておいても、コピーには遺言の効力がありませんので、もし遺言者が生前に自筆証書遺言を紛失してしまった場合は、新たに遺言を作成する必要があるのです。もちろん、遺言者に意思能力がある場合に限ります。
遺言の紛失トラブルを防ぐためには、自筆証書遺言の保管制度を利用するか、公正証書遺言で作成することをお勧めいたします。
遺言は書いたとおりに必ず実行されますか?
有効な遺言がある場合、原則として遺言に書いたとおりに実行されます。
ただし、作成した遺言に不備がある場合や相続人全員の合意がある場合には、遺言の通りに相続が実行されないことがあります。特に、自筆証書遺言は要件不備により遺言が無効となることが多いです。
例えば、自筆証書遺言に日付が書いていなかったり、財産情報の記載に誤りがある場合には、要件不備となり遺言が無効になってしまう恐れがあります。
せっかく書いた遺言が無効とならないために、「公正証書遺言」で作成することをお勧めします。公正証書遺言は作成に公証人が関与するため、要件不備により無効となることが少ない遺言方法です。また、遺言を作成する際は必ず「遺言執行者」を指定しておきましょう。遺言執行者とは、遺言の内容を正確に実現するために相続人を代表して相続手続きを行う人のことです。遺言執行者を指定しておくことで、各種名義変更などの手続きをスムーズに行うことができ、遺言の内容をより確実に実現することができます。

また、遺言の内容が相続人の「遺留分」を侵害している場合に、侵害された相続人から他の相続人や受遺者に対して遺留分が請求されると遺言通りの遺産分割ではなくなってしまいます。そのため、遺留分に配慮した遺言内容を心がけましょう。
遺言内容に不安がある場合は、相続に詳しい専門家への相談をご検討ください。
遺留分についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
→相続の知恵「遺言と遺留分の関係
遺言の効力はいつから発生しますか?
遺言は遺言者が亡くなった時から効力が発生します。
そのため、遺言に「預金1000万円を長男に相続させる」と書いたとしても、遺言者が生きているうちは長男が預金1000万円を手にすることはできません。
生きているうちに財産の管理や処分を任せたいという場合には、「家族信託」を活用する方法があります。
家族信託に関して詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
→相続の知恵「すぐわかる家族信託
海外に子どもがいるのですが、日本にいる私が書いた遺言は海外の子どもにも有効でしょうか?
近年、海外に住む日本人の数は増えてきています。それに伴い、海外に住む日本人が相続人となるケースも多くなっているのです。
原則として、日本にいる人が書いた遺言は日本の法律に従って処理されるため、海外に住む子どもにも有効となります。
むしろ、遠方にいる相続人同士で遺産分割協議をすることなく、相続手続きを進めることができるため、相続人の負担を減らすことができます。
また、遺産分割協議書を作成する場合、海外に住んでいる相続人は印鑑証明書の代わりに「署名証明」「在留証明書」の発行が必要になりますが、遺言執行者を決めておくことで相続人全員の印鑑証明なしに相続手続きをすることができるので、相続人の負担も減らせます。
海外に住む相続人に財産がいる場合は、遺言を残しておくことをお勧めします。遺言は、公正証書で作成しておくと一番スムーズです。
遺言を書くときにどんな書類や情報を準備しておけばよいですか?
漏れのない正確な遺言を作成するためには、自分が持っている財産や相続人について把握しておく必要があります。
例えば、預貯金がどの口座にいくらあるのかを把握するために、キャッシュカードや通帳を用意します。また、不動産の場合は登記事項証明書や固定資産税評価額証明書などを用意し、住所や評価額を確認します。財産を隅々まで調べたら、後々のためにも財産のリストを作成しておきましょう。
自分の財産を把握しておくことは、生前の財産整理に役立つだけでなく、盗難や横領の対策にもなります。

また、誰が相続人になるのかを把握するために、相続関係説明図を作成しておくと遺言が書きやすくなります。
相続関係説明図は、遺言者が自分の出生から現在までの連続した戸籍謄本を取得し、そこから法定相続人となる人を調査して作成します。
相続人の調査については、こちらの記事をご覧ください。
→相続手続き専門相談室「相続人の調査・確認

取得する戸籍謄本が多い場合や、法定相続人が多い場合には、調査に時間がかかってしまうことがあります。遺言を作成する際は、専門家へ相談することをお勧めします。
遺言の作成手順についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
→相続の知恵「遺言作成の準備から実現まで
遺言を書くときに最も費用を安く済ませる方法はどんな方法ですか?あわせてメリットやデメリットについても知りたいです。
遺言は「自筆遺言証書」で作成すると最も安く済ませることができます。
自筆証書遺言は、遺言を書く人が紙とペンを用意するだけで作成することができるため、ほとんど費用がかかりません。そのため、何回か遺言を書き直したいと考えている方は自筆証書遺言で安く済ませる方もいらっしゃいます。
しかし、自筆証書遺言は保管の面でデメリットがあります。
自筆証書遺言は遺言者の判断で保管しなければならず、相続発生後に見つけてもらえなかったり、生前に家族に見つかった場合は「遺言の内容を書きなおしてほしい」と言われる可能性があるのです。
一方で、公正証書遺言は作成に費用がかかりますが、その分安全性の高い遺言方法で、公証役場で保管されるため紛失や変造の心配がありません。
また、2020年7月10日から自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度がスタートしましたが、法務局への保管申請に遺言書1通あたり3,900円の費用がかかります。

さらに、自筆証書遺言は1人で作成すると、要件不備により遺言が無効になったり、かえって多くの相続税が発生する遺産分割を指定してしまう可能性があります。公証人や法務局の人は遺言内容についてのアドバイスまでは行っていませんので、遺言を作成する場合は自分の目的に合った遺産分割となるよう、相続に詳しい専門家に相談することをお勧めします。
亡くなった方の遺言を見つけたらどうすればよいですか?
遺言の種類ごとにお答えします。

・自筆証書遺言を見つけた場合
自筆証書遺言を見つけても、勝手に開封してはいけません。まずは、家庭裁判所で「検認の申立て」を行う必要があります。
検認とは、相続人に対して遺言の存在や内容を知らせるとともに、遺言の形状や内容を明確にし、偽造・変造を防止するための手続きのことです。
検認が終わり「検認済証明書」の交付を受けて初めて遺言の内容に沿って相続手続きを進めることができます。
もしも、検認をする前に開封をしてしまうと、5万円以下の過料が科される場合がありますので、慎重な行動が必要です。
→知恵の記事

・自筆証書遺言の保管制度を利用していた場合
遺言者が法務局に保管した自筆証書遺言を見つけてもらうために、遺言者の死亡時に、法務局から推定相続人や遺言執行者などに通知がされるように申請している場合があります。
この通知等により亡くなった人の自筆証書遺言が法務局に保管されていることが分かったら、法務局で保管されている遺言の内容を閲覧し、遺言書情報証明書の交付を請求することができます。
遺言の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされると「関係遺言書保管通知」がなされ、遺言の存在や内容を知らない相続人等に遺言が保管されていることが知らされます。
遺言の内容を確認したら、その内容に沿って相続手続きを行うことになります。保管制度を利用して保管されていた自筆証書遺言は家庭裁判所で検認を行う必要がありませんので、すぐに相続手続きを進めることができます。
なお、自筆証書遺言が保管されているか分からない場合には、全国の法務局で亡くなった方の自筆証書遺言が保管されているかを調べることができます。
保管制度を利用した自筆証書遺言がある相続の手続きについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
→相続の知恵

・公正証書遺言があった場合
公正証書遺言には検認の手続きが必要ありませんので、遺言の内容に従ってすぐに相続手続きを進めることができます。
なお、「公正証書遺言を作成したことは知っているけど、写しが見つからない」という場合には、相続人や利害関係者であれば必要書類を揃えて、公証役場に遺言の有無と原本が保管されている公証役場を確認することができます。
この確認には、遺言検索システムを使うため原本が保管されている公証役場ではなくても、全国の公証役場で利用可能です。
原本が保管されている公証役場が判明したら、正本・謄本の交付を請求することで遺言の内容を確認することができます。

・秘密証書遺言を見つけた場合
秘密証書遺言を見つけたら、自筆証書遺言の場合と同様に検認手続きを行います。遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申立てをしましょう。
検認をせずに開封したとしても、遺言がただちに無効になることはありませんが、5万円以下の過料が課される可能性がありますのでご注意ください。
遺産分割協議後に遺言が見つかりました。どうすればよいでしょうか?
遺言は遺言者の意思を最大限に尊重するべきものですので、原則は遺言に書かれた内容の通りに遺産分割をし直すことになります。
しかし、例外として、遺言執行者がいない場合に、相続人(包括受遺者含む)全員が遺産分割協議で同意した場合は、遺言に従わないことが可能です。(遺言執行者がいる場合は、遺言執行者の同意が必要です。)
ですから、遺産分割協議が成立した後に遺言を発見した場合でも、相続人全員がすでに行った協議の内容を優先させたいと意見が一致した場合には、遺産分割をやり直す必要がありません。
まずは、相続人全員で遺言の内容を確認し、遺産分割をやり直すべきかを検討しましょう。