公開日/2022年7月1日
相続や遺言書について調べていると「遺言信託」という言葉を目にします。遺言信託とは、「遺言を誰かに託す」ことですが、具体的な信託方法を知っている方はそれほど多くないかもしれません。本記事では、「遺言信託って何?」「誰に信託するの?」「費用は?」など、疑問点をわかりやすくお伝えします。
目次
❏遺言書の記載内容
まず、一般的に、遺言書に記載される内容を確認していきましょう。
遺言書には基本的に何を書いても良いのですが、法的に効力が認められるのは次の項目です。
・相続に関すること
法定相続分とは異なる相続割合の指定 など。
・財産処分に関すること
第三者への遺贈や、特定の機関への寄付 など。
・遺言の執行に関すること
遺言内容を執行するための執行者の指定
・身分に関すること
子の認知、推定相続人の廃除や取り消し など。
・その他
生命保険の受取人の変更 など。
遺言書を書く主な目的は、相続開始後に起こるかもしれない相続人間の争いを回避することであるため、遺産相続に関する内容がメインとなります。
また、法的効力はありませんが、遺産相続以外の内容を記載することも可能です。例えば、家族へ伝えたい思いや、これまでの感謝の気持ちなどを残す方もいます。
❏遺言書の信託先2つとその費用
遺言書は遺言者本人が作成することも可能ですが、民法で定められている遺言書作成の形式的要件を一つでも満たしていないと無効となってしまいます。
遺言を残すからには、しっかり執行してもらいたい。その方法のひとつが遺言信託です。
1.信託銀行等の遺言信託
遺言信託を業として行っているのは、信託銀行、一部の銀行、信託会社などです。
遺言書の作成から執行までの一連の手続きや作業を有料にてサポートしてくれます。
●信託銀行等の遺言信託でできること
(1)事前相談
まずは、遺言の内容などを信託銀行へ相談し、遺言信託にかかる料金形態などの説明を受けます。相談の内容が信託銀行の専門外である場合は、弁護士、税理士などの専門家を紹介してくれる場合もあります。
(2)公正証書遺言の作成
そして、相談で内容がまとまったら、有効で執行可能な遺言書の作成を、信託銀行のアドバイスの下で行います。また、遺言書は、「公正証書遺言」で作成します。
(3)遺言書の保管
遺言書が完成したら、執行の日まで遺言書は信託銀行で保管します。
自筆証書遺言を自宅で保管していると、保管場所を忘れてしまったり、遺言書の発見が遅れてしまったりと問題が生じることがありますが、遺言信託という方法であれば安心です。
(4)遺言書の内容変更手続き
遺言書が完成し、信託銀行で保管中にも、信託銀行は顧客に定期的な照会を行いますので、遺言者が内容の変更をしたいときや、財産や推定相続人に変動があったときなどには、有効な形で内容変更手続きができます。
(5)遺言の執行
信託銀行は遺言者の死亡通知を受けた後、遺言執行者となり財産目録を作成して、遺言内容の実現に必要な手続きを開始します。
そして、相続人や受遺者に遺産の分配、預貯金などの名義変更などを行います。
●遺言信託契約にかかる費用
気になるのは費用面です。
料金は信託先の金融機関によって異なりますが、一般的に、資産額に比例して料金も高くなる仕組みとなっていますので、資産額が大きい人ほど高額になりがちです。
例えば、下記の相続財産をお持ちの方が遺言信託した場合の、料金の概算を出してみました。
・手数料総額(遺言書の保管期間10年、遺言書の内容変更1回の場合)
申込時/基本手数料 330,000円
遺言書保管料/年間 6,600円 (10年で66,000円)
遺言信託変更手数料(変更する時のみ必要)/1回につき 55,000円
遺言執行報酬/不動産 5,000万円x2.2%=110万円
預金 8,000万円x0.33%=26.4万円
生命保険 4,000万円x2.2%=88万円
1億7千万円の遺産に対する、信託費用は269.5万円です。
また、次の費用が別途かかります。
・公正証書遺言の作成費用
・不動産登記の登録免許税と司法書士手数料
・戸籍謄本、固定資産税評価証明書の費用
・預貯金残高証明書発行手数料 (他の金融機関から取り寄せる場合)
・鑑定評価手数料
・不動産売却手数料
など。
(参考 三井住友信託銀行 遺言信託 手数料 手数料 | 遺言信託 | 三井住友信託銀行 (smtb.jp)
●気を付けたいこと
信託銀行等への遺言信託で気を付けたいことは、信託銀行の遺言執行範囲は、財産の処分と相続に関する事項のみと法律で定められていることです。
つまり、それ以外の事柄、例えば、子の認知などの身分に関することや、法的な事柄について遺言書に記載があったとしても、信託銀行では処理できませんので、弁護士などへ別途相談が必要になります。
そのほかにも、相続税の計算や申告についても、信託銀行では行えません。
相続税の納付手続きが自分でできないケースでは、税理士へ依頼することになります。
これら専門家へ依頼すると、別途費用が発生します。
●信託銀行へ遺言信託をすることのメリット、デメリット
メリット
遺言書を残したいと思っていても、何から始めていいかわからない、一人ではなかなか重い腰が上がらない方にとっては、専門的知識を持った第三者の介入は、資産の棚卸しだけでなく、気持ちの整理もできくるという意味で価値のあるものといえます。
また、相続手続きには必要書類が多く、相続人が複数いる場合には、時間的、距離的な要因でスムーズに手続きが進まないこともあります。しかし、遺言信託では、信託銀行等が遺言執行者となり、相続手続きを進めてくれるため安心です。
デメリット
費用がかかることです。
遺産額が多いほど、費用も高くなります。
また、遺言信託にかかる費用の大部分は、遺言者が死亡した後に発生する遺言執行報酬費用であるため、その費用は相続人の負担となることに注意が必要です。
相続に関する一連の手続きを、第三者へ信託することの費用対効果をどのように捉えるかは人それぞれ異なるものの、高額と感じる方もいるかもしれません。
また、法律上、信託銀行の遺言執行範囲は、「財産に関する遺言」のみであるため、家族関係が複雑な場合や、相続税が心配な方などでは、さらに、別の専門家への依頼が必要になり、別途費用が発生することにも留意してください。
●遺言信託をしたほうが良さそうな人
・大きな資産を持っている
・財産が分散していて、相続人自身での手続きが困難である
・相続人同士の距離が遠い、時間がないなど、物理的な問題がある場合
などが考えられます。
事前に、遺言信託について、遺言者と相続人が合意できていることが望ましいです。
2.遺言書を家族へ託す家族信託
信託銀行の遺言信託は費用が高すぎて利用できない、または相続にかかる費用はなるべく抑えたい、という方には、もうひとつの方法、「家族信託」という形があります。
●家族信託とは?
家族信託とは、家族に「遺言の執行を信託する」という営利を目的としない信託の形です。
●信託銀行と何が違うの
信託銀行の遺言信託は、相続や財産の処分という金銭面についてのみ信託できるものであることは前述した通りです。
一方、家族信託は、法的な決まりやルールはないため、相続手続きだけでなく、生前からの日常生活全般についての信託が可能です。
そして、最大の相違点は費用面です。
信託銀行への遺言信託では、申込金、信託期間中の遺言書保管料、そして、遺言書執行手数料がかかりますが、家族信託では基本、費用は発生しません。
もちろん家族信託であっても、個別に報酬を設定し家族に手数料を払うことも可能ですが、一般的には信託銀行の遺言信託を利用するようなコストはかからないでしょう。そのための家族信託でもあります。
ただし、家族信託では、専門家の助言がないことにより遺言書が無効となるリスクがあることや、相続人に相続手続きの負担がかかることをあらかじめ認識しておきましょう。
❏まとめ
遺言信託の定義についてお伝えしました。
遺言信託は、遺言を確実に執行してもらう手段としては有用ですが、信託銀行等への信託では、費用が高額になる場合もあることに注意が必要です。
一方、費用のかからない家族信託という形態もありますが、無償の行為であるが故に、その実行性に多少の不安もあるかもしれません。
両者ともメリット、デメリットがありますが、本記事が遺言信託について考えるきっかけになれば嬉しいです。
遺言に関してのご相談は「ソレイユ相続相談室」をご利用ください。