「遺言書なんて、縁起でもない…」「たいした財産はないから大丈夫」と、自分の財産に無関心でいると、残された方に思わぬ負担をかけることになります。
欧米では遺言書の作成は当たり前に行っているそうです。
文化の違いはありますが、日本では利用者がまだまだ少ない遺言書。遺言書とはどのようなものか、どのように作成するのかをご紹介します。
(目次)
ドラマや映画などで「遺書」や「遺言書」が登場するシーンがあります。
これらの言葉をご存知の方も多いでしょう。この2つの言葉は響きも見た目も似ていますが、実はまったく別物です。
それぞれを辞書で調べるとこんな意味が記されています。
遺書(いしょ)とは
人が、死後のために書き残す文書や手紙。書き置き。
遺言書(ゆいごんしょ・いごんしょ)とは
人が、死後に法律上の効力を生じさせる目的で、財産の分与などについて、 民法上、一定の方式に従ってする意思表示を記した書面。
遺書には書き方に決まりがありません。
自分の気持ちや思い、周囲へ伝えたいことなどを自由に書くことができます。
例えば、ご家族や友人へ、ご自身の思いや感謝、お願い事を伝える手紙などがこれにあたります。
これに対して、遺言書は死後に財産をどのように分けるのかを記入した書面となります。
法的な効力が発生するため、ルールに従って作成する必要があります。
なお、最近見かけるエンディングノートは似ていますが、法的な効力はありません。
そのため、遺言書の代わりとはなりません。
現在の日本では、個人の財産をいきなり国や政府が没収するようなことはしていません。個人が持っている財産は個人で処分できるようになっています。
では、亡くなった人の財産はどうなるかというと、別の人にバトンタッチする(=受け継いでもらう、相続する)ことになります。
「別の人」というのは、残されたご家族が一般的です。
ほかには、お世話になった方や、応援したい団体への寄付といった形で譲り渡すという方法もあります。
「自分が亡くなった後、自分の財産をだれにバトンタッチしてもらいたいか」
その希望を記した書面が遺言書となります。
そして、そのご本人が亡くなった後に、遺言書の内容に従って財産の分配を実現することが遺言書の役割となります。
もし、遺言書が無かった場合、亡くなった方の財産は家族全員(相続人)で話し合いをして、どのように分けるかを決めることになります。
ところが、家族全員(相続人)のうち一人でも反対の人がいると、話し合いはまとまりません。
また、話し合いがこじれて争いが起こることもあります。
人生いろいろ、人間関係も様々な事情があったりして、すべて円満にとはいかないこともあるでしょう。
でも、事前に遺言書を準備することで、ご家族の負担を減らし、スムーズにバトンタッチできるように対策をとることができるのです。
遺言書には一体何を書けばいいのでしょうか?
基本の要素は3つとなります。この3つは最低限必要な項目となります。
①.自分の財産をどうしたいか
どんな財産があって、だれに受け継いでもらいたいか(=相続してもらいたいか)
②.日付
遺言を書いた日付
③.署名と押印
遺言者の氏名、押印
遺言書といっても、その形式には種類があります。
現在、民法で認められている形式は3つです。
作成の方法が異なり、費用がかかる場合もあります。
それぞれの違いを簡単にご紹介します。
中でも、「自筆証書遺言」が一般的です。
いつでもどこでも書くことができ、費用がかからないということもあり、多くの方が自筆証書遺言の形式にて作成されています。
(保管場所については、2020年7月10日より、自筆証書遺言を法務局で原本保管できるよう法改正されました。保管制度については後述します。)
「公正証書遺言」についてはこちらを参照
コラム:公正証書遺言の作成手順
https://soleil-confiance.sakura.ne.jp/soleilblog/wisdom/20191106/
「秘密証書遺言」は、遺言の内容は遺言者しか知らせず(秘密)に、遺言の存在は公証役場で、公証人と証人2人に証明してもらう方法です。
公証役場では、秘密証書遺言を作成したという記録が残るだけで、中身を確認しませんので無効となる可能性も出てきます。
そのため、実務上あまり使われることがありません。
自筆証書遺言と公正証書遺言の比較表
ここからは自筆証書遺言を作成する場合のおおまかな流れをご紹介します。
大きく4つのステップに分かれます。
なお、遺言の実現とは、遺言書に記載されている内容に従って、実際に財産の分配が行われることを意味します。
まずは、ご自分が「どんな財産をもっているのか」を確認するため財産リストを作りましょう。
続いて、親族関係の把握をします。
理由は、財産を受け継いでもらう人は、原則は法律で決められている家族(法定相続人)となっていて、さらに法定相続人には一定の割合(=遺留分)で相続財産の取得が法律で保証されて
いるためです。
分配を検討する前に確認しておく必要があります。
財産のリストと親族関係の情報について準備ができましたら、財産をだれにどのように分配するか検討していきます。
コラム:遺留分の請求について
https://soleil-confiance.sakura.ne.jp/soleilblog/wisdom/cat04-12/
ポイント
家系図の作成について
作成した家系図から法定相続人を確認します。
場合によっては戸籍情報の収集も必要となる場合があります。
さらに遺留分の確認などにおいても法律的な知識が必要となることもあり、おひとりで調査することは負担となることもあります。
準備の段階から専門家に相談してみましょう。
いよいよ遺言書の作成に進みます。
まずは、紙、筆記用具(ボールペン・万年筆)、印鑑、封筒を用意しましょう。
「えっ、筆記用具? パソコンやワープロで作ればいらないのでは・・・?」といった声が聞こえてきそうですが、遺言書は自分で紙に直接記入が必要となります。
なお、記入ミスをした場合、修正テープや消しゴムで消すことは残念ながら認められていせん。記入ミスを訂正する場合は、訂正の方法がルールで決められています。
できれば訂正が無いように、下書きしたものを見ながら記入することをおすすめします。
いずれもルール通りに記載していなかった場合は、遺言書として無効となりますので注意が必要です。
やっと遺言書が完成し、ほっと一息。大きな山場を越えました。
封筒に入れることは法律では決まっていませんが、破損を防ぐために用意した封筒に入れることをおすすめします。
封筒の表面には「遺言書」と記入し、裏面には名前と日付を書きましょう。
誰かに見られたくない場合は封を閉じていただいて大丈夫です。
ただし、後述する「自筆証書遺言の保管制度」の利用を検討される場合は、封は閉じないでください。法務局で中身のチェックがあるためです。
問題は、どこに遺言書を保管するのかということ。
自分しかわからない場所に遺言書を保管した場合、運良く家族が見つけてくれれば問題ありませんが、その存在に気付いてもらえなければ意味のないものとなってしまいます。
発見されなかったり、紛失したりするようなことがないよう、遺言書の保管場所には配慮が必要です。
どこに保管するにしても、あらかじめ家族または信頼できる人に遺言書の存在を伝えおくとよいでしょう。
遺言書は何度でも書き直しをすることができます。
気持ちが変わったり、財産の内容が変わったりした場合は書き直すことができます。
その場合、トラブルを防ぐためにも、古いものは破棄するようにしましょう。
遺言書が複数ある場合、日付が最新のものが有効となります。
(後述する「自筆証書遺言の保管制度」を利用している場合は、すでに保管しているものを一度撤回申請し、再度保管の申請をする必要がありますのでご注意ください(申請費用がかかります)。)
遺言書を書いたあなたが亡くなると、いよいよ遺言書の出番となり、遺言書の内容に従って財産の配分手続きに進みます。
でも、待ってください!封が閉じてある遺言書はすぐに開封してはいけません。
家庭裁判所に「検認」をしてもらう必要があります。
検認は、家庭裁判所が、相続人等の立ち合いのものとで遺言書を開封して内容の確認を行います。
※公正証書遺言や、法務局に保管された自筆証書遺言の場合は「検認」の必要はありません。
この「検認」を受けることで、ようやく財産の配分(相続)手続きに進むことができます。
預貯金の解約や不動産の名義変更などの手続きを行い、相続人へ財産が配分され、遺言書の内容が実現されることになります。
●付言(ふげん)について
遺言書には財産の配分を記入した本文以外に、任意で文章を付け加えて書くことができます。
それを付言と言います。主に、家族への感謝や思い、財産の配分理由などを付け加えます。
法的な効果はありませんが、この付言によって、配分方法について「なぜ、そう決めたか」という遺言者の意図が伝わり、家族(相続人)がもめることを防ぐことにつながることもあります。
●財産の分配方法
遺言書は「財産をだれにどのように分けるのか」を記入します。その際の財産の指定の方法や、分配の方法には以下のような種類があります。
●税金(相続税)のこと
亡くなった方から相続財産を引き継いだ場合、一定の金額以上の財産については税金(相続税)がかかり、相続した人が納付します。
ここで注意が必要なのは、財産の分け方によって、税額が変わるということです。
遺言を作成する段階で、税金について考慮せずに財産分割をしたことにより、相続税が高くなってしまう場合があります。
また、「税金はもらった財産から払えば大丈夫」と思いがちですが、財産をもらっても相続税が払えないというケースもあります。
それは、相続した財産が不動産だけで、手元に現金がないような場合です。
不動産を売却するには時間と手間がかかります。相続税の納付期限までに間に合わずに困ることになります。
いずれにせよ、家族(相続人)に大きな負担をかけることになりかねません。
とはいえ、税金については専門の知識が必要ので、遺言作成の準備段階でぜひ専門家に相談をしてください。
●遺言執行者(いごんしっこうしゃ)を決めておく
遺言執行者(遺言の内容をそのとおりに実現してくれる人)を遺言書であらかじめ指定しておくと、遺言の内容をスムーズに実現することができ、相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。
コラム:遺言執行者の役割
https://soleil-confiance.sakura.ne.jp/soleilblog/wisdom/200521/
●自筆証書遺言の保管制度について
2020年7月10日から全国の法務局で自筆証書遺言の原本を保管してもらうことができるようになります。
この「自筆証書遺言の保管制度」は、遺言書の原本と画像データを法務局で保管してもらえるため、紛失や改ざんのリスクを回避することができます(保管申請手数料:1件につき3,900円)。
この制度を申請する際は、封筒は閉じない状態で遺言書を用意し、本人が法務局へ申請に行きます。
法務局にて遺言書の要件を満たしているか中身の確認をしてもらい、要件を満たしていれば、保管がスタートします。
この場合も、あらかじめ家族または信頼できる人に遺言書の存在を伝えおくとよいでしょう。
財産の価値の大小にかかわらず相続は起こります。
遺言書がなければ、残された人に財産の分配や処分の判断を託すことになります。
自分の死を意識することは決して楽しいことではありませんが、残された人たちが困らないように、遺言書の制度を活用して、大切な財産をスムーズにバトンタッチできように準備をしましょう。
遺言書の作成には、法律の知識や税金の知識も必要となってきます。
何かわからないことや、不安なことは一人で悩まずにぜひ専門家に相談をしてみてください。
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