(目次)
遺言は家族の誰にも知らせずに一人で作ることができます。遺言は紙に書かれているのでその現物が必要になります。亡くなった方が、遺言は書いてあると言っていたが肝心な遺言書が見つからない、あるいは遺言が書いてあるかないかもわからない場合、探すのはおおむね次の場所になります。
1. 故人の周囲
自宅や本人の事務所等、重要書類を保管してある場所
2. 故人と縁があった専門家や知人
故人が生前に相談していた弁護士、司法書士、税理士、行政書士、信託銀行等の専門家の事務所あるいは親戚知人の家
3. 公的機関
公証役場か法務局(2020年7月以降)
生前、遺言があることを家族に知らせてあれば、家族は遺言の有無が分かります。さらに、どう作り、どこに遺言が保管しているかを家族に伝えてあれば、遺言の現物を探すことも簡単です。例えば、「家の金庫にしまってある」、「公正証書を作ってある」、「○○先生に預けてある」とか・・・・・・。
1.の重要書類保管場所に遺言が保管してあればよいのですが、無ければ故人が保管していた領収書や名刺などから2.の専門家などに問い合わせをすることになります。
なお、銀行の貸金庫は遺言を探している場合でも、開けてもらうには原則として相続人全員の立ち合い等の面倒な手続きが必要になります。3.の公証役場で、公正証書の遺言を作ってある場合は、自宅等に保管しているか、作成に協力した専門家の事務所にその謄本や正本が保管されています。自宅にも専門家の事務所にも公正証書の遺言が見つからなければ、公証役場に保管されています。遺言者が亡くなった後であれば、相続人等が公証役場で遺言を確認することができます。
1989年以降に全国の公証役場で作成された遺言は、震災等により遺言が紛失してしまった時に備えて、すべてデーター化されてコンピューターに登録されています。このデーターを全国どこの公証役場でも検索することができます。
公証役場で「遺言の有無」照会の流れ
1. 公証役場に、以下のものを用意して出向き、検索と照会の手続きを依頼する。
※必要書類は事前に公証役場にご確認ください。
・被相続人の除籍謄本(死亡確認のため)
・相続人と亡くなった方の関係を示す戸籍謄本
・検索を依頼する人の本人確認書類と認印
2. 公証人が、日本公証人連合会事務局に、公正証書遺言の有無・保管場所を照会します。
3. 日本公証人連合会事務局から、公証人に公正証書遺言の有無・保管場所の回答が来ます。
4. 公証人が依頼者に対して公正証書遺言の有無とその保管場所となっている公証役場を伝えます。
※公正証書遺言の有無と保管場所は分かりますが、この段階では内容はわかりません。
5. 公正証書遺言があった場合には、相続人は公正証書遺言が現実に保管されている公証役場に対して、遺言書の謄本の交付を請求することができます。
公証人は、国の公務である公証事務を担う公務員です。公証人は、原則として、判事や検事などを長く務めた法律実務の経験豊かな者で、公募に応じた者の中から、法務大臣が任命することになっているのです(公証人法第13条)。公証人は、国の公務である公証事務を担う公務員ですが、国から給与や補助金など一切の金銭的給付を受けず、国が定めた手数料収入によって事務を運営しており、手数料制の公務員とも言われています。
(日本公証人連合会ホームページより抜粋)
■公証役場一覧表は➡ こちら
遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの種類があります。
自筆証書遺言
▶自筆証書遺言の「保管制度」を利用していない場合には、自筆遺言書を発見した者が、家庭裁判所に届け出て、検認手続を受けます。
自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文と日付を紙に自分で書いて、署名捺印することにより作成するものです。2019年1月13日以後は民法改正により、財産目録は自筆ではなくパソコンで作成したものでも認められるようになりました。ただし、パソコン等で作成した目録の各ページには署名捺印が必要です。
自筆遺言のメリットは、すべてを一人で行うことができるので、コストもかからず誰にも知られることなく遺言作成を終えることができることです。
逆に、本文を自筆で書けないと作成できないこと、書き方に法的間違いがあると無効になる可能性もある事、死後に発見されない可能性もある事がデメリットになります。
公正証書遺言
▶家庭裁判所で検認の手続の必要がありません。相続人が集まったところで、遺言書を開封でき、直ちに遺言の内容を実現することができます。
公正証書遺言は、遺言者が公証人と証人二人の前で遺言内容の確認を行い、公正証書として公証役場に保管される遺言です。
遺言者が事前に公証人に遺言の内容を伝え、公証人が遺言者の意思に基づいて遺言を作成するので、自筆できない人でも遺言を遺すことができます。また、病気等の理由で公証役場まで来られない人でも、公証人が出張してくれるので遺言作成が可能となります。字が書けなくても公証人による代筆も認められています。証人二人の立ち会いが義務付けられていますが、遺言者が証人を見つけられない場合でも、公証役場で紹介してもらうことができます。
秘密証書遺言
▶秘密証書遺言は、自筆証書遺言と同じように遺言書を発見した者が、家庭裁判所に届け出て検認手続を受けます。
秘密証書遺言は、遺言者が遺言の内容を記載した書面(自書の必要はありません)に署名捺印をし、書面に押した印章と同じ印章で封印します。その封書を、公証人及び証人二人に提出し、自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申し述べて、公証人が、その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後、遺言者及び証人二人と共にその封紙に署名捺印することにより作成するものです。
遺言書の現物が本人のものであると明確にされ、遺言の内容を秘密にすることができます。ただし、自筆遺言と同様に遺言の内容に法律的な不備があってもわからないため、遺言が無効となってしまう可能性もあります。
法務局で自筆遺言を保管する制度〈2020年7月以後〉を利用していない「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」を発見した場合に勝手に遺言書を開封してしまうと、法律違反となってしまいます。遺言書に書かれている内容を家庭裁判所で明確にする検認手続きを受ける必要があります。
手続きはどこで・誰が行うのか?
検認は、遺言者の最後の住所地にある家庭裁判所で、
遺言を発見した相続人、遺言の保管者が手続きをします。
■家庭裁判所の所在地は➡ こちら
検認手続きの内容とは?
「検認」とは相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせる手続きで、同時に検認以後の遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。
公正証書を除く遺言書(法務局の保管制度で保管されている遺言を除く)の保管者又はこれを発見した相続人は、遅滞なくその遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求する必要があります。
また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。
検認の無い遺言書はその後の相続手続きには使えません。実際に手続き等に使うためには、遺言書に「検認済証明書」が付いていることが必要なので、「検認済証明書」の申請(遺言書1通につき150円分の収入印紙と申立人の印鑑が必要)をすることとなります。
一般的な検認の手続きの流れ
遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人は、家庭裁判所に書面で申立てを行います。
申立て先の家庭裁判所は、遺言者(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
遺言書1通につき、収入印紙800円分。連絡用の郵便切手を同封して郵送や窓口へ持参します。
※申立書の記載例 家庭裁判所のホームページ
添付書類(申立てに必要な書類)
【共通】
1. 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
2. 相続人全員の戸籍謄本
3. 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
【相続人が遺言者の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合】
4. 遺言者の直系尊属(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母と祖父))で死亡している方がいらっしゃる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
【相続人が不存在の場合、遺言者の配偶者のみの場合、又は遺言者の(配偶者と) の兄弟姉妹及びその代襲者(甥、姪 )(第三順位相続人)の場合】
5. 遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
6. 遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
7. 遺言者の兄弟姉妹に死亡している方がいらっしゃる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
8. 代襲者としての甥、姪 に死亡している方がいらっしゃる場合、その甥又は姪 の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(2)検認期日の通知
検認の申立後、裁判所から相続人には裁判所から検認期日(検認を行う日)の通知が来ます。申立人以外の相続人全員がそろわなくても検認手続は行われます。
また、申し立てから検認期日までどのくらいかかるのかは家庭裁判所の混み具合
もよりますから(だいたい1ケ月)事前におおよその目安を聞いておきましょう。
(3)検認日当日(遺言開封)
申立人は、遺言書・申立人の印鑑・そのほか家庭裁判所の担当者から指示されたものを持参します。申立人から遺言書を提出し、出席した相続人などの立会のもと、封筒を開封し、遺言書を検認します。
※検認前に遺言を開封してしまった場合は……?
検認手続きの前に遺言書を開封してしまっても、直ちに遺言が無効になるわけではありませんが、他の相続人から変造を疑われトラブルになりかねません。検認手続きの前に遺言書を開封してしまうと、5万円以下の過料に処せられます。これは、遺言の提出を怠った場合も同様です。
遺言書の内容は尊重されるもので基本的には「遺言書の内容に従う」ことになります。
遺言書を発見する前に遺産分割協議が成立し、故人の意思とは異なる形で財産を分けていた場合、先に行った協議が無効となる可能性もあります。
しかし、相続人全員が遺言書の内容ではなく、先に行った遺産分割協議の内容を優先させたいと考えるのであれば、その遺産分割協議を優先させることができますので、やり直しは不要です。
なお、発見した遺言書は、絶対にその場で開封せず、遺言書を家庭裁判所に持参して「検認」手続きを行いましょう。また、注意すべき点として、遺産分割(名義変更)が完了していて、その名義を変更することになる場合には、相続税・贈与税の課税の問題が出てくる可能性があります。
特に相続税申告書提出期限後(相続開始から10ケ月)のやり直しは、相続専門の税理士にご相談ください。
大切な人たちが財産・権利等で争わないために予防薬として「遺言」は有効です。
ここでは、故人の遺言の探し方や遺言を見つけた時の手続きを紹介しました。
★遺言書には「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」の3種類ある。
★遺言書の有無を公証役場に問い合わせができる。
★「秘密証書遺言」「自筆証書遺言〈法務局の保管制度利用ではない遺言〉」の場合は、
必ず開封をせずに家庭裁判所で検認手続を行う
遺言が有効であることを前提としてご説明してきましたが、記入漏れや法的な不備で、書かれた遺言そのものが無効となってしまっては本末転倒です。また遺言執行者を定めていない遺言もあります。
遺言執行者は遺言書の内容を実現するために必要な権限を持っており、各種相続手続きがを円滑に行えます。自分一人で準備ができる遺言だから、「書いて残しておけばいい」というわけにはいきません。
遺言作成を検討されている方は、相続に強い専門家に相談されることをお勧めします。遺言の執行時に思いもよらぬトラブルとならないために、専門家のサポートを受けながら、安心して遺言作成していただけます。
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