はじめに
どんなに素晴らしい遺言を作成しても、自分の死後に自分の手でその内容を実現することはできません。
自分に代わって遺言内容を実現するため、遺言執行人という存在がいます。遺言執行者は、遺言者の死後に遺言に記された内容を執行する人のことです。
遺言の内容が問題なく実現できる場合は、遺言執行人は不要です。ところが、遺言の内容によっては遺言執行者が必要となるケースがあります。また、遺言執行人がいることで様々な手続きがスムーズに行える場合もあります。
[目次]
この記事の主な登場人物について
遺言執行人(または遺言執行者)とは、遺言に記された内容を執行する人のことです。
執行するとは、遺言に記された内容を実現するために、各種の手続きを行っていくことを意味します。
遺言者の意思を尊重することを目的として、遺言内容を執行していきます。
遺言者にとって、自分の死後に「遺言の内容をスムーズに実現すること」また「遺言執行時のトラブルを未然に防ぐこと」は共通の願いであると思います。
しかし、遺言の実現には、相続人や受遺者など複数の利害関係者の存在が影響を及ぼします。場合によっては、様々な利害関係者の意思が交錯する中で、遺言者の願いを実現することが難航することもあります。
遺言執行人の役割は、こうした中においても遺言内容の実現を可能にすることにあると考えられています。
遺言内容の実現において、遺言執行人の選任は必須ではありません。
遺言内容の実現ができれば問題ないのです。
しかし、遺言内容によっては遺言執行人が「必要なケース」と「選任したほうがよいケース」があります。
どんなケースが該当するのか以下の表にまとめました(表–1)。
1.遺言で子供の認知を行うケース
例えば、隠し子(非嫡出子)がいて、様々な事情から生前に認知できず、遺言書において自分の死亡後に認知を希望するようなケースがあります。
このようなケースのように遺言で認知の意思表示をすることを遺言認知といいます。
遺言認知するための届け出は遺言執行者だけができます。
認知された子は法定相続人となり、他の法定相続人に大きな影響を及ぼすこととなります。
2.遺言で相続人の廃除を行うケース
例えば、遺言者(被相続人)が著しい非行のあった子に相続することを望まないなど、なんらかの事情がある場合に、遺言者の意思表示によって、相続人の相続人たる資格を奪うことを廃除といいます。
なお、廃除の対象となるのは遺留分を有する相続人(配偶者・子・直系尊属)に限定されます。遺言において廃除の意思表示を行っている場合、家庭裁判所への請求手続きが必要となります。
この請求手続きは遺言執行者だけがすることができます。
3.遺言で相続人の廃除の取り消しを行う
例えば、一時は相続人の廃除をしていたが、気が変わって廃除を取り消すことを遺言で行うようなケースです。
この場合も廃除と同様に家庭裁判所への請求が必要となります。この請求手続きは遺言執行者だけがすることができます。
4.遺言で不動産の遺贈を行う(相続人がいない)
例えば、法定相続人がいない場合で、遺言者が生前お世話になった第三者へ不動産を譲り渡したい(遺贈)という意思表示をしているようなケースです。
不動産の遺贈がおこなわれる場合、不動産を取得する人(受遺者)単独では不動産登記の申請をすることができないルールとなっています。
遺言執行者と受遺者で共同登記申請を行うことが必要です。
5.遺言で不動産の遺贈を行う(相続人が協力しない)
法定相続人以外の人が不動産を取得するといった遺贈がおこなわれる場合、不動産を取得する人(受遺者)単独では不動産登記の申請をすることができないルールとなっています。
法定相続人と共同で登記申請を行うことが必要です。
ところが、法定相続人の中に反対の人がいた場合、遺贈の実現は大変困難なものとなります。
このようなリスクを避けるため、遺言執行者と受遺者で共同登記申請を行うことで遺贈を実現することが可能となります。
6.遺言の存在を知られたくない
遺言を作成したが、事情により生前に遺言書の存在を知られたくないというケースです。
遺言者が亡くなった後、その遺言が適切に扱われる場合は問題ありませんが、相続人がその存在を知らず、相続の時にトラブルとなることもあります。
この場合は、遺言執行者を選任して、遺言の保管場所をあらかじめ伝えることで、無用なトラブルを防ぐことができます。
参考)2020年7月10日より自筆証書遺言の保管制度がスタート
7.遺言の内容が実現されるか不安
遺言書を作成してみたものの、相続人間の人間関係に不安要素があったり、相続人の理解が得られずに遺贈を受ける人に迷惑がかかる等、「遺言内容が円滑に実現するのか心配」という方もいらっしゃるかと思います。
このような方は遺言執行者を選任しておくほうがよいと思われます。
なお、遺言書が存在しない場合は、遺言執行者は必要ありません。
●遺言執行者になれない人
遺言執行者になれない人は法律で決まっています。
未成年者および破産者は遺言執行者になることはできません。
破産者とは
借金などの返済ができなくなった債務者が裁判所へ申立てをし,要件を充たしていた場合,裁判所は,その債務者に対して破産手続開始決定をします(破産法30条1項)。
破産手続上,裁判所による破産手続開始決定を受けた債務者のことを「破産者」と呼びます(破産法2条3項)。
●遺言執行者になれる人
未成年者と破産者となっている人以外なら、どなたでも遺言執行者になることができます。
相続人、知人でも遺言執行者になることができます。また、遺言執行者は「法人」でもなることができます。
遺言執行者の選任は以下の3つ方法から行います。
・遺言者が遺言書において遺言執行者を指名する
・遺言者が遺言書において第三者に決定してもらうように記す
・相続人などが家庭裁判所に申し立てして、遺言執行者を選任してもらう
遺言執行者がいない場合は、相続人や利害関係人が家庭裁判所へ申し立てて、遺言執行者を選任してもらうこととなります。
例えば、指定していた遺言執行者が死亡、破産することにより、遺言執行者が不在となってしまうケースがあります。
このようなことがあった場合も、家庭裁判所へ申し立てをして選任してもらいます。
家庭裁判所の判断を抜きにして、相続人などが遺言執行者を勝手に決めることは許されません。
遺言執行者に問題があるような場合、相続人などが解任を請求することができます。
「遺言執行者が必要な任務を怠っている」あるいは「解任に関して正当な理由がある」場合です。
相続人等が家庭裁判所に解任請求をします。
家庭裁判所の解任審判によって解任となります。
遺言書の内容を実現することを目的として、必要な手続きを行うことが遺言執行者の仕事です。
具体的には、被相続人の全財産の確認や相続人となる対象者を把握し、預貯金の解約や不動産の名義変更などを行います。
ここで大切なことは、相続人は遺言執行者の遺言執行については妨害できないということです。
「遺言執行者が選任されている場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができない」と法律で規定されています(民法1013条)。
相続人は遺言執行者の執行業務に協力する必要があります。
遺言者が亡くなると相続が開始します。
まず、選任された遺言執行者は、就任するかどうかを自身で判断します。
就任を承諾したところから、遺言執行者としての仕事がスタートします。
遺言執行者の業務スタート
•相続人と受遺者への通知
遺言執行者に就任に承諾したことを相続人と受遺者に通知
•相続人調査
相続人を確定するため、戸籍等の証明書を収集(相続人関係図の作成)
•財産目録の交付
被相続人の財産内容を確認し、財産目録を作成後、相続人等へ交付
•預貯金の解約手続き
被相続人の財産内容を確認し、財産目録を作成後、相続人等へ交付
•株式等の名義変更手続き
有価証券等の財産があれば、名義の変更手続きを行う
•不動産の所有権移転登記
法務局に対して、不動産の登記申請手続きを行う
•換価手続き
売却して分配する必要のある財産があれば、換価手続きを行う
•業務報告
任務を完了したら、相続人と受遺者全員に完了報告を行う
遺言執行者の業務終了
2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(以下「改正相続法」)が公布され、2019年7月より施行されています。
高齢化社会の中における相続時のトラブル増加を背景に、改正相続法には「遺言制度の利用促進」や「紛争を防止」といったねらいがあります。
遺言執行者についても改正されている点がありますのでご紹介します。
遺言執行者の法的地位が明確になりました。
改正前は、遺言執行者の法的地位は明確に条文に記載がなかったため、相続人とのトラブルに発展するケースがありました。
改正相続法では条文に“遺言の内容を実現するため”の文言が追加され、遺言執行者は遺言内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有することが明確になりました(民法第1012条)。
つまり、遺言執行者は相続人の利益のためではなく、遺言内容の実現のための任務を行うこととなります。
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法第1013条)。
改正相続法には、この規定に違反した行為を無効とするという項目が追加されました。
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならないことが明記されました(民法1007条)。
改正前は、この通知義務がなかったため、相続人に知らされずに遺言の執行が行われるといったことがあり、トラブルに発展するケースがありました。
7-4 特定財産継承遺言がされた場合の遺言執行者の権限が明確に
「特定財産継承遺言」とは、いわゆる遺言者が「相続させる」旨を明示した遺言のことです。改正相続法では、この特定財産承継遺言がされた場合の遺言執行者の権限について明確にしました。(民法1014条)
●不動産を相続人に相続させる旨の遺言あった場合
不動産を目的とした特定財産継承遺言があった場合、遺言執行者は相続による登記申請を単独で申請できるようになりました。
●預貯金の払い戻し・解約について
被相続人の預金の払い戻しや解約手続きについて、遺言執行者が執行できる旨の権限が明記されました。
遺言内容と相続人等の意思や利害が対立するケースがあります。このようなケースはどうしたらよいでしょうか?
遺言と異なる遺産分割を希望する場合、相続人や受遺者の全員が合意を行えば可能です。
ただし、遺言執行者がある場合は、その合意だけでは実行することはできません。さらに遺言執行者の同意が必要となります。
なお、遺言内容の有効無効の判断は、遺言執行者に権限と義務があります。
改正ポイントでも触れたとおり、遺言執行者がある場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができないことになっていますので注意が必要です。
遺言内容と相続人等の意思や利害が対立するような場合は、相続人と受遺者の全員が合意をした上で、最終的に遺言執行者に同意をしてもらえるよう話し合いを行いましょう。
遺言執行者の役割についてご紹介してきました。
ご自分やご家族にとって、相続はどなたにも避けられないものです。
高齢化社会において、相続のトラブルは増加傾向にあります。
こうした状況から、相続法の改正が行われ、遺言制度の活用促進が望まれています。 自分亡き後にその遺言内容が無事に実現されるのか。
遺言執行者制度は、「遺言の内容をスムーズに実現すること」また「遺言執行時トラブルを未然に防ぐこと」を叶える方法の一つとなるのです。
今後、遺言を作成する方が増えていくのではなかと思われます。
とはいえ、法律の知識も必要になりますので、ご自身で作成することが難しく感じられる方もおられると思います。
そんな時は、専門家に確認することをおすすめします。 まずは私どもにお気軽にお問合せください。(ご相談無料)
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