更新日/2022年4月28日
相続とは、被相続人の遺産を相続人が引き継ぐことです。
プラスの財産も、借金などの債務(マイナスの財産)も相続の対象です。
被相続人の財産にプラスの財産よりマイナスの財産が多いことがわかっていれば、相続放棄や限定承認(※1)を選択することもできます。しかし、相続を単純承認(※2)した場合には、被相続人のマイナスの財産も引き継ぐことになります。
目次
❏1.相続の種類は3つ
債務の相続について解説する前に、相続について簡単に説明しておきたいと思います。
相続の種類は次の3つです。
単純承認(※1)
被相続人のプラスの財産、マイナスの財産全てを引き継ぐもの。被相続人の権利、義務を全て相続するということ。
限定承認(※2)
プラスの財産の範囲内で、相続を承認するというもの。借金などの債務はプラスの財産の範囲内で負担する。債務の返済がプラスの財産を上回った場合、上回った債務の返済義務はなし。
相続放棄
プラスの財産もマイナスの財産も全て相続しない、放棄するというもの。マイナスの財産がプラスの財産を上回るときに選択される。
❏2.債務の相続
そもそも被相続人の債務とは
被相続人の生前の借金やローン、未払い金のこと。
銀行や消費者金融からの借り入れ、住宅ローンや教育ローンも債務です。
また、生前の未払いの医療費や、税金の未納分も債務として、相続対象となります。
債務の相続は法定相続割合が原則
債務の相続割合は、法定相続割合が原則です。
プラスの財産の相続は遺産分割協議によって、相続人それぞれの相続割合を任意の割合で決定することができますが、債務(マイナスの財産)は遺産分割の対象ではありません。
債務は、各相続人の法定相続割合で引き継ぐことが原則です。
債務を遺産分割とすることも可能
債務の相続は、原則、相続人の法定相続割合で、それぞれが負担すると前述しましたが、相続人全員の合意があれば、債務も任意の割合で引き継ぐことが可能です。
しかし、その任意の割合は、共同相続人の間のみで有効であって、債務の債権者に対し、その分割割合を主張することはできません。
債権者は、共同相続人の間で合意した任意の相続割合に関係なく、相続人の法定相続割合に応じて、相続人に債務の返済要求ができるのです。
遺言で債務を特定の相続人に承継させる場合
債務を特定の相続人に引き継ぐことが遺言書に示されていた場合、それは有効なものとなります。
しかし、前述した債務の任意分割と同じく、その相続割合は、共同相続人内部においてのみ有効であって、債権者に対しては、相続人が一方的に法定相続割合と異なる債務の承継を主張することはできません。
つまり、遺言の内容がどうであれ、債権者は法定相続割合に従い、債務の返済を要求することができるのです。
連帯債務も相続の対象
連帯債務とは、ひとつの債務に対して、複数人が同時に、その債務の全額に対して返済義務を負うというものです。連帯債務者の一人が、債務を返済すれば、他の債務者に返済義務はなくなります。
被相続人が連帯債務者であったなら、その連帯債務も相続の対象です。
相続割合は、原則、法定相続割合です。
例えば、2000万円の連帯債務を負っていた人が死亡し、相続人が配偶者と子2人だとします。法定相続割合は妻が1/2、子はそれぞれ1/4です。
配偶者は、2,000万円の1/2の1,000万円、子は1/4の各人500万円の連帯債務を引き継ぐことになります。
遺言や遺産分割協議により、例えば、配偶者が全額の連帯債務を負うというように相続割合を変更することも可能ですが、これまで同様、その決定は共同相続人内部での話で、債権者に対して効力を持ちません。
❏3.債権者の権利
債務を任意の負担割合としたときの債権者の権利
債権者は、遺産分割協議や遺言により、共同相続人の債務の相続割合に変更があったとしても、法定相続割合に従い、相続人に対し債務の支払いを要求する権利を持っていると説明してきました。
なぜ、共同相続人の間で債務の相続割合の変更に合意しているのにもかかわらず、その効力が債権者に及ばないのかというと、債権者に不利益となることを避けるためです。
例えば、任意の相続割合で相続人の一人に債務の全部を背負わせた後に、その相続人が自己破産をしたら、債権者は債務の回収ができなくなってしまいます。
つまり、遺産分割協議や遺言による、債務の相続割合の変更は、債権者に不当な不利益を与える可能性があるのです。そのため、相続人側が債権者に対し、一方的に債務の相続割合の変更を主張することはできません。
ただし、債権者が債務の相続割合の変更を承諾することもできます。その場合、債権者は変更後の相続人に返済請求をすることになります。
債権者の対応は二通り
具体例で解説します。
例えば、Aさんが死亡しました。Aさんの遺産は3,000万円の土地建物と、1,000万円の預金、そして、1,500万円の銀行からの借入金(債務)です。
遺産分割協議の結果、長男が、3,000万円の土地建物と1,500万円の借入金を相続し、二男は1,000万円の預金を相続することになりました。
このような場合、債権者は次のような対応が可能です。
①法定相続割合で返済要求をする
借入金は長男、二男が法定相続割合で負担することが原則であるので、債権者(銀行)は長男、二男に各750万円ずつの返済要求をする。
この場合、銀行からの返済要求に応じ、二男が750万円を返済したとします。しかし、兄弟間で借入金は全て長男が相続する合意ができていますので、二男は長男に対し、銀行へ返済した750万円を自分に払うよう求めることができます。
②債務承継者の変更を承諾する
銀行は、長男が借入金の全額を相続する旨の遺産分割協議の内容を承諾することもできます。その場合、長男に1,500万円の全額の返済を要求し、二男への返済要求はできないこととなります。
債務を特定の相続人が承継することの債権者側のメリット
債権者に対して、共同相続人の間での任意の債務相続割合を主張できないこと、その一方で、債権者は遺産分割協議や遺言の内容を承諾することも可能であることはお伝えしてきた通りです。
債権者側の立場では、債務が法定相続割合で承継されることがデメリットとなることもあります。なぜなら、元は1つであった債務が相続により複数の相続人に分散されることになると、債務の回収コストや手間が増えます。また、仮に相続人の中に返済能力の低い人がいたら、債務が回収不能となるリスクも出てきます。 このような理由から、債権者が債務を相続人の一人に集中させることを承諾することも十分あり得ます。
❏4.控除可能な債務
債務の相続についてお伝えしてきましたが、相続税を計算する上での債務の扱いについても触れておきます。
債務控除が可能なもの
被相続人の債務を相続人が引き継いだ場合に、特定の債務については相続税を計算する過程で、遺産総額から控除することが可能です。
控除可能な債務とは次のようなものです。
・公租公課(所得税、固定資産税、社会保険料など、被相続人の納付すべきだった税金)
・被相続人の未払いの医療費
・水道光熱費、電話料金などの未払い金
・生前の借入金
など
債務控除を利用できない人
次に該当する人は、上記に記した被相続人の債務を相続したとしても、債務控除が受けられません。
・特定遺贈(*)により財産を取得した人
特定遺贈で財産を相続した人が負った被相続人の債務は控除できません。
(*)具体的な個別の遺産を指定して特定の人に遺すこと。
・相続放棄した人
プラスの財産もマイナスの財産も放棄しているので、債務控除の適用はありません。
債務控除の注意点
被相続人の債務は、相続税を計算する上でプラスの財産から控除できることをお伝えしました。しかし、その控除可能額は、各相続人の相続範囲内においてのみ認められます。
どういうことかと言うと、例えば、長男が2,000万円の預金と3,000万円の借金を相続し、二男は1,000万円の預金を相続したとします。
この場合、3000万円の借金がありますが、債務控除できる金額は、長男からの2,000万円のみ。二男は負債を引き継いでいないので、二男の相続分からは控除できません。
❏5.相続されない債務とは
最後に、相続されない債務について説明しておきましょう。
次のような債務は相続の対象外です。
一身に専属した債務
簡単に言うと、亡くなった人にしか負えない債務です。
例えば、小説の執筆依頼、画家に対する絵画の作成依頼など、被相続人にしか目的を達成できない、代替えのない債務は相続の対象外です。
当事者の死亡を契約関係終了事由としているもの
民法の規定では、被相続人の死亡により契約関係が終了するとされている債務があります。
使用賃借契約、委任契約などがそれにあたります。既に発生している金銭債務を除き契約関係上の債務は相続の対象外です。
❏6.まとめ
相続の単純承認をすると、プラスの財産だけでなく債務というマイナスの財産も引き継ぐことになります。
債務は遺産分割協議の対象ではなく、原則、法定相続割合に応じて相続人に引き継がれます。しかし、共同相続人の間で債務の相続割合を任意の割合とすることも可能です。その場合、その決定を債権者に対して主張することはできません。
遺言により、債務の相続人の指定があった場合は、共同相続人の間では有効ですが、上記同様、債権者に対してはその効力はありませんので、債権者は法定相続割合に応じて、債務の返済を請求できます。
ただし、債権者が債務の相続割合の変更を承諾した場合は、変更後の債務の相続人へ債務の返済を請求できます。
なお、相続した債務の中には、課税相続財産から控除可能なものがあり、相続税を軽減できる可能性があります。
相続に関する解釈や手続きはとても複雑です。
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