公開日2021年10月11日
目次
1、親の財産を知らないで起こった事
子供が親元を離れて自立してしまうと、親子で「お金」の話をする機会はほとんどなくなってしまう。
それが日本人の親子の普通の関係ではないでしょうか。
むしろ、子が親の、あるいは親が子の、財産状況を具体的に知っている方が珍しいのではないかと思います。
私たちが相続の仕事をしていて、子供が親の財産を知って驚いた・・・あるいは困った現場には次のような相談があります。
相談①
高齢の両親から「子供(自分)名義の大きな金額の預金がある」と聞かされた。
相談②
親が亡くなって戸棚の中から数千万円の現金が見つかった。
相談③
田舎の一人暮らしの親が毎年数百万を家のシロアリ対策に使っている(騙されている)という連絡を知人からもらって親の通帳見たらお金が無くなっていて驚いた。
相談④
同居の高齢の父親に聞いたことのない証券会社から頻繁に電話が来るようになり、変だと思って問い詰めたら、未公開株に億近いお金を投資していた。父がこんなにお金を持っているとは知らなかった。
相談⑤
亡くなった同居の母の相続税の調査で、母が国外に送金していたことを税務署から聞かされた。数千万円の国外送金でどこにあるのかまるで見当がつかない。昼間に母の友人らしき人がよく訪ねてきていたようだ。母の財産がいくらあるかは亡くなるまで全く知らなかった。
相談⑥
離れた自宅で暮らしている母親は父からの相続で数千万円の預金と自宅を相続して、老後の資金も安心と家族で話していた。三年くらい経ったある日、母から電話がありお金が足りないという。行って調べてみたら預金は数万円しか残っていなかった。
相談⑦
1人暮らしの親が突然亡くなって家の跡片付けをしていたら銀行の通帳が見つかった。他の財産もあるかもしれないと家中探しても見つからず、郵便の転送依頼をしておいたところ、他の銀行や証券会社に財産があることが郵便でわかった。財産のすべてがわかったのは、亡くなってから半年してからだった。
最近では高齢者もネットバンキングを使っているので、親の死後パスワードがわからなかったトラブルも聞こえてきます。
また、親子関係だけではなく、一人暮らしの兄弟が亡くなって財産状況がわからずに困った事例も多く聞くようになっています。
2、相続後に起こること
相続後に探すのは一苦労
相続が開始されると(人が亡くなると)、そのことを知った銀行は亡くなった人の口座を凍結します。口座が凍結されると、振り込まれてくるお金、自動引き落としも含めて預金の出し入れはできなくなります。
こうなってしまうと、入院費用も葬式費用も口座振替不能により請求されてくる費用も遺された家族が立替えなければならなくなります。
預金通帳の凍結を解除してもらうには、戸籍や印鑑証明が必要になりますが、原則として通帳やキャッシュカードの提出も求められます。
そもそも亡くなった方が一人暮らしをしていた場合には、どこの銀行に口座があったのかも含めて、通帳やキャッシュカードの現物を探さなければなりません。
私たちも相続の仕事に関連して、財産探しのお手伝いをすることもあります。
普通に昨日まで暮らしていた家の引き出しや戸棚を調べるのは難しいことではありませんが、中にはゴミ屋敷のようになっていて机のありかにたどり着くまでに手間どる事さえあります。
通帳や書類を探したり、郵便で配達されてくる金融機関関係の書類やはがきを手掛かりに預金を探すことになります。
地方都市であれは、その街に存在する金融機関も数社ですから、そのすべてに照会(問い合わせ)をして探すこともできますが、首都圏では大変なことになります。
10年間以上取引が無い休眠預金は毎年1200憶円以上発生しているようです。
亡くなった本人ためにも、遺族のためにもできるかぎり財産は探してあげたいと思うのですが、生前の情報がないとなかなか困難です。
親族間でひと悶着
預金探しが元で親族の関係がギクシャクしてしまうこともあります。
仲の良い兄弟なら良いのですが、一人暮らしの親が亡くなってその財産探しを誰がやるかで揉めることもあります。
預金通帳なら解約するのに相続人全員の印鑑と印鑑証明が必要ですが、現金、貴金属等は家の中で探すことになります。仲が悪い兄弟だと、疑心暗鬼が先だって誰が財産探しをするのかが進まないこともあります。
また、財産探しを引き受けた人も後で「母はもっと宝石を持っていたはずだ」とか言われるのも大変です。
そんな時は、外部の専門家に財産目録の作成も合わせて依頼するのが得策です。
また、財産探しをするときは「税務署の目」を持った相続専門の税理士に依頼すると後々のトラブルも防げる可能性もあります。
税務署とトラブルに
亡くなった人の財産目録を作る時に、亡くなった時あるいは調べた時点の預金の残高を調べてその残高を報告するだけの場合がありますが好ましくありません。
税務署と争った経験があれば次の二点は調べておきます。
注意点①
通帳を見て、亡くなった日の直前に預金の引き出しが無いか確認する。
→亡くなる数日前に預金が百万単位で引き出されていれば、預金の残高は減っていますが、現金かその他の財産として残っている可能性があるのです。
それが財産目録に載らないと「財産隠し」になってしまいます。
注意点②
通帳を見て、亡くなった日から預金が封鎖される日までに預金が引き出されていれば、その預金を生前から出し入れできた人がいる可能性があるのです。
→当然のことですが亡くなった人は預金をおろせません。亡くなった日以後にキャッシュカードでお金がおろされていれば「盗難」か、生前から出し入れしていた人がいるはずですから、亡くなった人の生前のお金の管理・・・特に大きなお金の出金についてはその人に聞くことになるのです。
税務署とのトラブルだけではなく、親族としても生前の大きな金額の預金の動きには黙って見過ごせないものもあるかもしれません。
3、生前整理の勧め
自分が亡くなった後に家族に迷惑をかけないためにも、生前に財産の整理をしておく事をお勧めします。
エンディングノートも生前の整理には使えますが、ご自身の財産の在り処を記したノートは人目につくところには置くのは防犯上も問題があります。
財産については下記の方法で生前に整理し処分方法を遺しておくことをお勧めします。
遺言
自分の死後の財産の承継方法を法律の力で実現できます。遺言を作成する際には財産目録を作成して、遺言を作成した日現在でどのような財産があったのかを明らかにしておくとよいです。それを遺言の財産目録としても良いし、別紙にして遺言と共に保管しておくことも考えられます。
ただし、遺言は、書いてから遺言が効力を発生する亡くなる日までの間の財産の動きは明らかにする機能をもっていません。亡くなってから改めて財産調べと相続手続きによる名義変更を行うことになります。
家族信託
自分が元気なうちに、自分の財産の全部または一部を家族の名義に変えて(家族に信託して)、自分が認知症になってお金がおろせなくなっても、家族に預けた(信託した)預金から生活費や医療費や介護費用だけに限定して支払うことができる契約をします。自分が亡くなったあとで余ったお金は誰にあげるのかを信託契約に書いておくので、遺言と同じ役割をします。
家族信託を活用すると、生前に財産名義を全部ではなくても変えておけるので、生前整理には最適な方法です。不動産も家族に信託しておいて、家の維持管理や施設入居時の売却を家族に進めてもらう事もできます。
4、まとめ
ひとり暮らしの親や兄弟の財産はある程度家族が把握しておかないと、いざという時に 多くの時間を割いて財産探しや処理に追われることになります。
しかし、親に対して万一のために財産内容を知りたい・・・と持ち掛けるのも言いにくいものです。
そんな時に、相続争い防止のための遺言、認知症対策のための家族信託、相続税対策の事をキッカケにしてお話しをするのが良い方法です。
相続専門家の力も借りて、皆が困らない、それぞれの家族に合った方法を考えてみてください。