作成日2021年10月18日
目次
1、遺言に財産目録は必要か
遺言と関係する財産目録は、遺言本文とは別に別紙に遺言を書いた時点で遺言者が持っている現金預金、有価証券、不動産などの財産を一覧表にした形式のものを言います。
この財産目録には、決められた書式はなく、箇条書きでも大丈夫です。
ただ、別紙にしなくても、遺言本文の中に遺産を相続させる人別に、条文を作って財産を書く形式もあるので、財産目録は必ず別紙に書くものとは限りません。
遺言に財産目録をつけることは法律で義務付けられた必須項目ではありません。
財産目録をつけなくても無効になることはありません。
しかし、財産目録を作ることは次のようなメリットがあります。
2、遺言を作る時のメリット
①財産の棚卸をすること
ご自分にどんな財産があるのか、そしてその財産はどれだけの価値があるのかを遺言を作る際に「棚卸」をすることは大切です。
自分にはわかっていても、家族にはわからない財産もありますし、一度「棚卸」をして財産目録を作っておけば、その後に財産に移動があった場合でも、再度全財産の「棚卸」はせずに修正すれば済むことになります。
例えば、誰かに全財産を残す遺言を書く場合でも、その時点での財産目録の作成はやっておくことをお勧めします。
②相続と老後の生活を考える
財産目録を作成することは、財産目録が今後の老後の生活を考える元になります。
・現在の生活費から考えて年金と現金預金で何歳まで生活資金が持つのか?
・自宅をお持ちの方は今後かかる修繕費は現金預金で足りるのか?
・アパート等の賃貸不動産をお持ちの場合には、今後の修繕費や建替の計画はどうなるのか?
・身体の自由が効かなくなってきた際に施設に入居する場合の資金はどうするのか? 等々
これらの事を考えることで、財産の行く末が見えてきて、誰にどう相続させるかをよりよく考えることができるのです。
また、認知症の心配がある場合には、家族信託も検討に入れましょう。
家族信託を活用すると、財産を生前に家族に名義変更して管理してもらうこと、さらに、遺言と同様に自分が亡くなった後の財産承継者を家族信託契約で決めておくことができます。
なお、家族信託にする財産は、遺言に入れずに別の扱いになります。
◎家族信託については→こちらを参照してください。
③相続対策と共に相続税対策を考える
財産目録に数字(現在の評価額)を入れてみることで、また違った課題が見えてきます。
イ、遺留分と相続争いの事
遺言は遺言者の意思で自由に書けますが、相続人には遺産に対する遺留分が権利として認められています。
◎遺留分については→こちらを参照してください。
財産目録に現時点での財産の評価額を入れてみることで、各相続人の遺留分の金額と実際に相続する予定の財産の額を比較してみることができます。
これを行うことによって、遺言の書き方も争族対策を含んだものにするかどうかを検討できます。
ロ、相続税の事
現時点での財産の価格の合計額が、相続税の基礎控除を超えている場合には、相続税対策の検討が必要になります。
・相続税はどのくらいかかるのか?
・相続人は相続税が支払えるのか?
・二次相続で高額な相続税を支払う心配はないのか? 等々
の検討が必要になります。
この検討によって遺言の書き方も変える必要が出てくるかもしれません。
◎相続税の基礎控除については→こちらを参照してください。
◎二次相続については→こちらを参照してください。
ハ、包括遺贈と放棄の事
財産の内容を特定指定せずに遺言が書かれている場合を包括遺贈といいます。
包括遺贈になると、遺産をもらう受遺者は負債も含めた財産を包括的(すべて含めて)に引き継ぐことになってしまいます。
万一遺産の中に負債があった場合に、気づかないまま3カ月の期限が過ぎてしまうと相続放棄ができなくなってしまいます。
財産目録に負債の存在が書かれていれば、3ケ月の期限を考えて相続手続きを行うことができます。
3、遺族のメリット
①家族の財産調査
財産目録を作成しておくことで、たとえそれが遺言を書いた時点のもので亡くなった時と金額が違っていたとしても、家族にとってはどこに財産があるのか探す手間が省けます。
財産の在り処がわかれば、亡くなった時点の書類を取り寄せることで価格はわかります。
②家族の財産調査
遺言を書いた時点で相続税がかかる可能性があることが財産目録によってわかっていれば、相続税の申告期限の10ケ月以内に遅れないように相続手続きを進めることができます。
結果として相続税がかからないことが分かったとしても、相続税がかかる場合に期限に遅れてペナルティーを支払うより良いと思います。
③盗難横領や疑心暗鬼のために
遺言を作成する時点の財産の種類や金額が、亡くなった時点の財産の種類や金額とかけ離れていると、特殊詐欺や盗難あるいは横領が疑われます。
これは遺言を書く時点で財産目録を作ってあるからわかることでもあるのです。
また、財産目録が無い場合には、誰かが財産探しをしなければなりません。
その財産探しをする人が、例えば執行人の専門家の士業の方であればよいのですが、相続人のうちの一人が行うことになると、その過程や結果に対して、他の相続人が疑心暗鬼になって予期せぬ相続争いの火種になることもあります。
4、まとめ
遺言を書く際にはその時点の財産目録の作成をお勧めします。
近年の法改正で、自筆証書遺言と一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録を自書することを要しないとされ、財産目録は手書きが不要で、パソコン等で作成する方法や遺言者以外の人に作成してもらう方法、さらに相続財産を特定できる預貯金通帳の写しや不動産の登記事項証明書などを添付する方法でも作成できるようになりました。
財産目録によって検討できることは、ご自身のためにもご家族のためにもなることです。
この検討は、公証人役場でも銀行でもやってくれない事がほとんどです。
お悩みの場合は、相続専門の税理士と行政書士に相談することをお勧めします。