公開日2021年9月6日
もうすぐ75歳になるAさんには、妻と2人の子ども(長女と長男)がいます。
子どもはどちらも結婚しており、長女には子どもがいませんが、長男には子ども(Aさんから見て孫)が1人います。
Aさんと妻は、長女とその夫と一緒にAさん名義の自宅に住んでいます。
Aさんは自宅以外に1,000万円の預金を持っており、残った預金は相続が発生したら自由に使ってもらおうと考えていますが、自宅は先祖代々持っている土地であるため、自分たちの家系で守っていきたいと考えています。
しかし、Aさんは、例えば長女に自宅を相続させたとして、その後長女が亡くなったときに、自宅が長女の夫に相続されてしまうと、夫の家系に自宅が流れてしまう恐れがあることを知っていました。
そこで、どうすれば先祖代々の土地を自分の家系で守っていけるのか、
また、自分と妻の老後の資金の管理を子どもにどう任せるのか、専門家に相談することにしました。
Aさんの相談内容
1、自分が死んだ後も、自分の家系で自宅を守っていきたい
2、自分と妻の老後の生活費の確保
Aさんがこれらの悩みを専門家に相談したところ、専門家は「家族信託」という制度を紹介してくれました。専門家が提案してくれた信託契約案は以下のとおりです。
信託契約案
・委託者=Aさん
※委託者とは、信託財産を預ける人のことです。
・受託者=長女
※受託者とは、信託財産を預かる人のことです。
信託財産は受託者の名義に変更され、自宅の管理は受託者が行い、受益者に生活費を支払います。
・第1受益者=Aさん、第2受益者=妻
※受益者とは、信託財産によって利益を受ける人のことです。
第1受益者は最初に受益者となる人、第2受益者は第1受益者が亡くなる等の理由により受益者ではなくなったときに受益者となる人です。
今回の例では、自宅に住む権利のほか、預金の中から生活費、医療費、介護費用の支払いを受ける権利が受益者のものとなります。
・信託財産=Aさん名義の自宅、預金1,000万円
・信託の目的=自宅の管理、受託者の老後の生活資金、医療費、介護費用等の管理
このような信託契約を結ぶことによって、Aさんは自宅と預金1,000万円を長女に管理してもらいながら、自宅に住み、預金の中から生活費や医療費、介護費用の支払いを受けることができます。
また、Aさんが亡くなった後も信託契約は続くため、次は第2受益者である妻が引き続き自宅に住み続け、生活費等を確保することができるようになります。
これで「自分と妻の老後の生活費の確保」という問題は解決できました。
では、「自分の家系で自宅を守っていきたい」という問題はどのように解決されるのでしょうか?
例えば、Aさんと妻が亡くなった後、信託契約を終了して自宅が長女のものになったとします。
そうすると、もし長女が亡くなった場合、長女が持っている自宅は長女の夫が相続する可能性があります。自宅が夫の手に渡ってしまうと、自宅をAさんの家系で守っていくことは叶いません。
しかし、「家族信託」を活用すると、このような問題を防ぐことができるのです。
Aさんと妻が亡くなった後、信託契約を終了せずに長女を第3受益者に設定したとしましょう。
この場合、受託者と受益者が長女になります。
家族信託では、
「受託者と受益者が同じ人物になった場合、1年以内に信託契約を終了しなければならない」
というルールがあり、受託者と受益者が同一人になることは権利関係から考えても好ましくありません。
ですから、Aさんと妻が亡くなった後は、自宅に関して
受託者=長男の子(Aさんから見て孫)、
受益者=長女か長女の夫
となる信託契約を設定するとどうでしょうか?
この信託契約だと、長女か長女の夫は長男の子に自宅を管理をしてもらいながら、亡くなるまで住み続けることができます。
また、長女に子どもがいないまま亡くなったときは、自宅は夫の手に渡ることはなります。
そして、長女夫婦がどちらも亡くなった後は信託契約を終了し、孫が自宅を所有すると、
Aさんから子へ、子から孫へ自宅が引き継がれる形となります。
このように家族信託を活用すると、自分が亡くなった後の財産承継を自分の意思で設計することができるのです。
■家族信託で遺言では実現できない財産承継を
今回ご紹介した例を「遺言」で実現しようとすると、非常に難しく複雑になってしまいます。
「遺言も自分の死後の財産承継について書くのだから、家族信託と同様にできるのではなか?」と
考える方も多いかと思います。
しかし、実は遺言では自分が死んだときの財産承継を指定することができても、その後に長女や長男に発生する相続に関しては財産承継を指定することはできないのです。
例えば、Aさんが遺言に
「自宅は長女に相続させる。長女が亡くなった後は孫に相続させたい。」
と書いた場合、以下のような効力となります。
・「自宅は長女に相続させる。」
→Aさんの相続に関する財産承継なので有効
・「長女が亡くなった後は孫に相続させたい。」
→長女の相続に関する財産承継なので有効ではない
遺言では、自分の相続に関する事項のみ有効となります。
そのため、「長女が亡くなった後は孫に相続させたい」と書いたとしても、それは「付言事項」という扱いになり、残された家族は従う必要のない内容となってしまうのです。
※付言事項とは、遺産分割などの効力のある内容とは異なり、遺言者の気持ちやメッセージ等を書き残すことです。
また、Aさんが遺言を書くと同時に、長女に「自分が死んだ後は自宅を孫に相続させる」という内容の遺言を書かせる方法もあります。
昔ながらの方法に感じますが、いまだに使用されることもあるようです。
しかし、この方法も100%成功するわけではありません。遺言はいつでも書き直し・撤回ができます。
長女が父の言いつけをきちんと守る人であれば良いですが、親子仲の悪い家族だと遺言を作成した後に捨てたり、書き直したりする可能性もあるのです。
ですから、遺言で不確実な財産承継をするよりも、家族信託を使ってスムーズで円満な財産承継を実現しましょう。
■まとめ
家族信託を使うと、
遺言ではできない次の次の世代までの財産承継が実現できます。
それと同時に、家族信託は遺言と違い、生前の家族の生活を守り管理する役割もあるので、
それも次の次の世代まで設計しておくことができるのです。
また、この家族信託の機能を使うと、財産承継の節税計画もしっかりと設計することができます。
家族信託を使って、家族の将来の設計を検討してみてください。
なお、節税計画には家族信託に強い税理士のアドバイスが欠かせません。
ソレイユ財産管理では、豊富な実務経験のある税理士があなたに合った家族信託のアドバイスをしておりますので、ぜひ一度ご相談ください。
無料相談のご予約・お問い合わせ
メールでのお問い合わせ
無料相談のご予約お問い合わせはこちら