■遺言では相続後の次の代までは拘束できない

遺言では、遺言者が決める事が(指定できる)のは遺言者の相続についてです。

例えば、遺言者が所有していた自宅をその妻に相続させることは法的に有効ですが、遺言者の自宅を妻に相続させ、妻の死後にその自宅を息子に相続させ、息子の死後にその自宅を孫に相続させる・・・・と書いても、妻に相続させることはできても、そこから(妻から)後の事は、それぞれが決めるべき事で、書いてあっても法的に有効ではないと考えられています。
 
■Aさんの考えた家族信託

Aさんは、長年苦労して手に入れた自宅に愛着があります。今は妻と長男夫婦が同居していて、長男の孫も最近結婚して子が生まれました。

長男は妻の面倒を見てくれているし、孫の子(ひ孫)の代までこの家を継いでもらう事がAさんの希望です。
 

【Aさんの設計した家族信託】

信託財産…………Aさん所有の自宅の土地建物と建替えをするための預金
信託の目的………自宅の維持管理とAさんと奥様の老後の生活の安定
委託者…………Aさん
受託者……………①孫
        ②孫の子(長男死亡後)
受益者…………①Aさん
        ②Aさんの奥さん(Aさんの死亡後)
        ③長男(Aさんの奥さんの死亡後)
        ④孫(長男死亡後)
残余財産の帰属…孫の子(孫が死亡して信託が終了した時)
 
【Aさんが家族信託を活用するねらい】
 

■遺言と受益者を信託の違い

遺言の対象となるのは「所有権」で、信託の対象となるのは「受益権」です。

通常の遺言では、自分の財産の承継先を指定する事はできますが、その財産を承継した人の相続の内容まで指定できないと解されています。
信託では、信託した時から30年経過後に最初に発生する相続までは、契約で指定する事ができます。
 
~信託法91条~
受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。

 

■Aさんの場合で30年を考えてみると

Aさんが信託設定後5年後に亡くなり、その10年後にAさんの奥様が亡くなって、その10年後に長男が亡くなったとすると、信託を設定してから30年後の受益者は孫ですから、孫が死亡するまではこの信託契約は有効です。この場合Aさんの希望通りになります。

ただし、Aさんの奥様が長生きして信託設定から30年経過時の受益者だったとすると、奥様の死亡後に長男に受益権は移りますが、長男が死亡した時点で信託契約は終了してしまいます。
 
実際には30年という長い年月で考えると、相続の発生する順番がAさんの考える通りになるは限らないので、信託契約書は長男が孫より先に亡くなっていた場合にはどうするのか・・・とか、考えられる複雑なケースを契約に織り込んでおかなければなりません。
また、まだ生まれていないひ孫の子供に受益者を指定しておくこともできますが、信託設定から30年経過した時点で生まれていなければならないと解されています。

 

■受益者を連続させた家族信託の活用例

受益者を連続させた家族信託を、相続対策に活用する事例です。

Bさんの事例Bさんには地元で一緒に暮らしている長男と都会に嫁いでいる長女の二人の子供がいます。
Bさんはいくつかある不動産のうち一つの駐車場をいずれ長男に相続させたいのですが、長女が生きている間は地代収入を長女に渡したいと考えています。
 
【Bさんの設計した家族信託】
信託財産…………Bさん所有の駐車場
信託の目的………駐車場の維持管理
委託者……………Bさん
受託者……………長男
受益者……………①Bさん
        ②長女(Bさん死亡後)
残余財産の帰属…長男(長女死亡後)
 
【Bさんが家族信託を活用するねらい】
  •  都会に嫁いだ長女に長女が生きている間は駐車場の地代を渡したい。土地はいずれ長男に継がせたい。 ※地代家賃の帰属を遺言では指定することができないので信託で契約します。   
 
 

■受益者を連続させる信託の注意点

30年先の事は誰にも予測が難しい事は言うまでもありません。

これは、あまり先のことまで指定する事が将来の一家のしあわせにつながるかどうかが設定時点ではわからないという事です。
また、長期にわたり連続する信託は、設計が複雑になるのと同時に、予期せぬ受益者に対する課税も十分に注意して設計する事が必要です。特に受益者が一時でも不在になると法人課税を受ける可能性もありますのでご注意ください。

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