自宅や賃貸不動産、預金などの財産を子や孫に預けて(信託して)、自分に万が一のことがあった場合に備える「家族信託」という方法が、最近関心を集めています。
家族信託は信託内容や目的を家族間で話し合い、信託契約書を作成して行いますが、信託財産に不動産が含まれている場合には、不動産独自の手続きと税金がかかります。
では、家族信託で不動産を信託する場合にはどのような手続きが必要になるのでしょうか?
この記事では、ご相談の多い不動産の家族信託について、手続きの方法をご説明していきます。
【相談事例】
もうすぐ80歳になるAさんには、2人の子ども(長男、次男)がいます。
夫は5年前に他界し、今はAさん名義の自宅に長男と2人で暮らしています。
Aさんには自宅の他にも預金1,000万円がありますが、最近物忘れが多くなってきたことから、管理が難しくなってきました。
Aさんは、認知症になると預金口座が凍結され、お金を引き落としや不動産の売却や大規模修繕等ができなくなることを知っていたので、「家族信託」を活用して子どもに財産の管理を任せようと考えています。
しかし、信託契約を締結した後の手続きについてわからないことが多く、家族信託に詳しい専門家に相談することにしました。
今回の信託契約案は以下のとおりです。
【信託契約案】
・信託の目的=自宅の管理、Aさんの老後の生活費等の管理
・委託者=Aさん
※委託者とは、信託財産を預ける人のことです。
・受託者=長男
※受託者とは、信託財産を預かる人のことです。
信託財産は受託者の名義に変更され、自宅の管理は受託者が行い、受益者に生活費を支払います。
・受益者=Aさん
※受益者とは、信託財産によって利益を受ける人のことです。
今回の例では、自宅に住む権利のほか、預金の中から自宅の管理費、生活費、医療費、介護費用の支払いを受ける権利が受益者のものとなります。
・信託財産=Aさん名義の自宅と1,000万円の預金
今回の例では、Aさんは認知症になってしまったとしても、自宅と預金を長男に管理してもらいながら自宅に住み続け、生活費や医療費、介護費用の支払いを受けることができます。
信託契約書を作成する
家族信託の内容や目的について家族間で話し合ったら、信託契約書を作成します。
信託契約書とは、信託契約の内容や目的、信託財産について明記した書面のことで、受託者はこの書面に基づいて委託者の財産を管理・処分することになります。
この信託契約書は、自分で作成したとしても法的には有効ですが、より確実にするために一般的には「公正証書」で作成します。
公正証書は公証役場で公証人に作成してもらう公文書です。
作成に公証人が関与するため私文書よりも信用性が高く、家族間での争いを防ぐほか、各機関での手続きをスムーズに行うことができます。
信託契約書を公正証書で作成する場合は、事前に公証人との打ち合わせが必要になります。
まずは、家族信託に強い専門家と相談して、最寄りの公証役場で公正証書にします。
信託財産の所有権変更登記(名義変更)を行う
先ほどご説明したとおり、家族信託では信託財産の名義が委託者から受託者へ変更されます。
しかし、信託契約を締結したからといって、自動的に受託者の名義に変わるわけではありません。
信託契約書を作成した後は、信託不動産の「所有権変更登記」をして、委託者から受託者へ名義を変更する必要があります。
また、所有権変更登記と同時に「信託登記」の申請も行います。
信託登記とは信託不動産が委託者のものであること、その管理・処分の権限は受託者にあることなどを公示するための登記です。
これにより、受託者は委託者から信託された財産を管理・処分することができるようになります。
登記申請に必要な書類は以下のとおりです。
【登記申請に必要な書類】
[委託者]
・発行から3ヶ月以内の印鑑証明書
・登記済証または登記識別情報
・実印
・本人確認ができる資料
[受託者]
・住民票
信託登記を行うに際して「登録免許税」が発生します。
登録免許税は固定資産税評価額の0.4%(土地の場合は0.3%)です。
例えば、固定資産税評価額が2,000万円の建物を信託した場合、納税する登録免許税は2,000万円×0.4%=8万円となります。
なお、登録免許税法により、家族信託のための所有権移転登記には登録免許税がかかりません。
また、不動産取得税も家族信託ではかかりません。
賃貸不動産を信託する時の手続き
賃貸不動産を信託する場合でも、先ほどご説明した方法で登記申請をします。
ただし、ここでもう一つ手続きしなくてはならないのが「不動産収入を管理する口座」です。
賃貸不動産を信託する場合、賃貸不動産の管理費や修繕費、固定資産税等は不動産収入から支払うことになります。そのため、不動産収入を管理する口座も信託財産として受託者の名義で作らなくてはなりません。
解決策としては、新しく家族信託専用口座を開設し、そこに家賃を入金してもらいます。
賃貸不動産を借りている人にとっては、家賃の支払先が変更されるわけですから、あらかじめ信託契約がされた旨と変更後の口座を伝える手続きが必要になります。
また、更新時には契約書も受託者名で作成しておきましょう。
家族信託専用口座を開設することによって、委託者が将来認知症になった時や病気で倒れた時に、受託者が家賃収入等賃貸不動産の管理をするとともに、家族信託専用口座の中から委託者の生活費や医療費、介護費用等を引き出すことができます。
まとめ
家族信託で不動産を信託するときは、所有権変更登記と同時に信託登記を行う必要があります。
速やかに登記を済ませるためには、あらかじめ専門家に相談するとともに必要書類を準備しておくと良いでしょう。
必要書類は取得や作成に時間がかかることもありますので、家族信託の専門家と相談をして、事前に家族信託スタートまでのスケジュールを立てておくことが大切です。
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家族信託をご検討のお客様は、ぜひ一度ご相談ください。