作成日/2021年10月4日
家族信託は自分の財産を信頼できる家族に預け、管理や処分を任せることができる契約ですから、自分1人で行うことはできません。
家族信託には何人かの登場人物が必要です。
この記事では、家族信託に登場する人物を具体例を交えながらご紹介いたします。
今回ご紹介する登場人物の全員が必要になるわけではありませんが、自分の家族や財産の構成などから、どのような役割を持った人が必要になるかをよく理解しておきましょう。
【相談事例】
もうすぐ75歳になるAさんは、Aさん名義の自宅と預金3,000万円を持っています。
Aさんには妻と長男がいましたが、妻は5年前に亡くなっており、長男は結婚して他の県に移り住んでいるため、Aさんは自宅に1人で暮らしています。
今はまだ元気なので自宅で暮らしたいと思っていますが、認知症などにより1人で生活することが難しくなったら、自宅を売却して介護施設に入居したいと考えています。
しかし、認知症になると判断能力が低下し、自分では自宅を売却することができなくなってしまうため、「家族信託」という制度を活用して自宅や預金の管理を長男に任せることにしました。
そこで、Aさんは家族信託に詳しい専門家に相談しました。
専門家が提案した信託契約案は以下のとおりです。
【信託契約案】
・信託財産=Aさん名義の自宅と預金3,000万円
・委託者=Aさん(※委託者とは、信託財産を預ける人のことです。)
・受託者=長男(※受託者とは、信託財産を預かる人のことです。信託財産は受託者の名義に変更されます。)
・受益者=Aさん(※受益者とは、信託財産により利益を受ける人のことです。)
今回の事例では、自宅に住む権利のほか、預金の中から生活費、医療費、介護費用を受け取る権利が受益者のものとなります。
・信託の目的=自宅の管理・処分、Aさんの老後の資金管理
・信託の終了時期=Aさんが亡くなったとき
・残余財産の帰属権利者=長男
(※帰属権利者とは、信託終了時に残っている財産を所有する人のことです。)
このような信託契約を結ぶことによって、Aさんは亡くなるまで長男に財産の管理をしてもらいながら自宅に住み続け、預金の中から生活費等の支払いを受けることができます。
また、Aさんは自分が認知症になった後は自宅を売り、その代金で介護施設へ入居したいと考えています。
認知症になると自分で自宅を売却することができなくなってしまうので、自宅を信託し長男の名義に変更しておくことで、Aさんが認知症になった後でも自宅を売却し、介護施設への入居費用を確保することができるのです。
家族信託により信託された財産は、相続財産とはなりません。
そのため、Aさんが亡くなり信託が終了したときに、
残った信託財産は誰のものになるのかを決めておく必要があります。
残余財産の帰属権利者が指定されていない場合や指定していたが既に亡くなっている場合には、信託財産は委託者またはその相続人に帰属することになります。
委託者またはその相続人もいない場合には、「清算受託者」が帰属権利者となります。
今回の事例では、1人息子であり財産を預かってくれた長男を残余財産の受取人に指定することにしました。
また、信託終了後の清算業務を行う「清算受託者」も長男に指定しておきます。
清算受託者とは、信託が終了した後に信託業務の清算や、残余財産の帰属権利者への引渡しなどを行う人のことです。
今回の事例のように信託終了時の受託者が残余財産の帰属権利者となる場合では、受託者がそのまま清算受託者となるケースが一般的です。
さらに、専門家は清算受託者以外にも、
「信託監督人」と「受益者代理人」を選任しておくことを提案しました。
信託監督人とは、信託契約で定めた形を守って信託が行われているかを取り締まり、信託について不明な点がある場合に助言をしてくれる人のことです。
例えば、受益者が未成年者や高齢者、障がい者の場合には、信託の内容が難しくなったり、契約のとおりに信託がされているかを確認できなかったりします。
このような場合に、正確に信託を遂行していくために信託監督人が必要になります。
信託監督人の指定には、以下の2つの方法があります。
①信託契約書で指定する
②家族信託の利害関係者が家庭裁判所に申し立てる
未成年者や成年後見人、被保佐人、受託者以外は誰でも信託監督人になることができますが、一般的には信託に詳しい専門家が選任されることが多いです。
また、受益者代理人とは、受益者に関する一切の裁判上または裁判外の権限を持っている人のことです。
受益者代理人が選任されている場合は、受益者が自分の権利を行使することができません。
例えば、今回の事例のように、受託者である長男と受益者であるAさんが離れて暮らしている場合では、Aさんから長男へ「生活費の支払いをもっと増やして欲しい」や「自宅の壁が壊れたから直して欲しい」などの意見を伝えることが難しくなってしまいます。
これでは受益者の権利が行使できておらず、信託契約に沿った信託がされていません。
このような場合に、受益者代理人が受益者の代わりに長男に対して生活費等の支払いや自宅の修繕などを要求することで、信託契約に沿った信託を実現し続けることができるのです。
受益者代理人の選任は、委託者と受託者が合意して決めるのが一般的です。
信託管理人と同様、未成年者や成年後見人、被保佐人、受託者は受益者代理人になることができませんので、ご注意ください。
まとめ
家族信託では委託者・受託者・受益者の他に「残余財産の帰属権利者」「清算受託者」が必要で、「信託監督人」「受益者代理人」を指定しておくと良いケースもあります。
信託の目的や財産、家族構成によってもどのような登場人物が必要になるかが異なりますので、家族信託を行う際は必ず専門家に相談しましょう。