最近、「終活」という言葉をよく耳にします。
その中でも利用されることの多い
「家族信託」と「遺言」。
家族信託や遺言をうまく活用することで、自分の老後の資金管理問題や、自分が亡くなった後の遺産分割トラブルなどの対策をすることができます。
では、家族信託を行いながら遺言で遺産の分配について決めておくことはできるのでしょうか?
今回は、家族信託と遺言を併用して生前対策と争族対策を行う方法について詳しくご説明いたします。
【相談事例】
もうすぐ75歳になるAさんは、Aさん名義の自宅と預金3,000万円、いくつかの株式を持っています。
Aさんには長男と次男がいますが、どちらも結婚してそれぞれの家を持っているため、自宅にはAさん1人で暮らしています。
Aさんは元気なうちは自宅で過ごし、認知症になったら自宅を売却して介護施設に入居したいと考えていたので、「家族信託」という制度を利用して自宅や預金を長男に預けることにしました。
しかし、全ての財産を信託すると、自分の意思で自由に使えるお金がなくなってしまうため、預金をいくらか残しておきたいと考えています。また、次男にも財産を残してあげたいとも考えています。
そこで、Aさんは自分の思い通りの終活を実現するために、相続コーディネーターに相談することにしました。
相続コーディネーターが提案する信託契約案は次のとおりです。
【信託契約案】
・信託財産=Aさん名義の自宅、預金2,000万円
・委託者=Aさん
※委託者とは、財産を預ける人のことです。
・受託者=長男
※受託者とは、財産を預かる人のことです。信託財産は受託者の名義に変更されます。
・受益者=Aさん
※受益者とは、信託財産によって利益を受ける人のことです。今回は自宅に住む権利のほか、預金の中から生活費、医療費、介護費用を受け取る権利がAさんのものとなります。
・信託の目的=自宅の管理、Aさんの老後の資金管理
・信託の終了時期=Aさんが亡くなったとき
・残余財産の帰属権利者=長男
※帰属権利者とは、信託終了時に残っている財産を所有する人のことです。
このような信託契約を結ぶことによって、Aさんは亡くなるまで長男に財産の管理をしてもらいながら自宅に住み続け、預金の中から生活費等を受け取ることができます。
また、Aさんは自分が認知症になったら自宅を売って、その代金で介護施設に入居したいと考えています。
認知症になると自分では自宅の売却ができなくなってしまいますので、元気なうちに自宅を信託して名義を長男に変更しておくことで、Aさんが認知症になった後でも施設入居費等のために自宅を売却することができます。
相続コーディネーターは自宅の管理費や維持費、年金では足りない医療費や介護費用等を確保するために、3,000万円の預金のうち2,000万円を信託することを提案しました。
残りの1,000万円は自由に使えるお金として残しておくことで、自分の趣味や孫への贈与などに自由にお金を使うことができます。
家族信託と遺言を併用する方法
Aさんは自分が亡くなった後、長男に信託した自宅と預金2,000万円はそのまま長男に、信託しなかった預金1,000万円の残りと株式は次男に渡したいと考えています。
信託しない1,000万円を自由に使いつつ、使いきれなかった分を次男に相続させるためには、「遺言」を使って遺産分割の方法を決めておく必要があります。
今回の事例では、Aさんは信託契約を結ぶと同時に、「次男に預金と株式を相続させる」という内容の遺言を作成しておきます。
このように家族信託と遺言をうまく併用することによって、漏れなく財産の分配を決めておくことができるのです。
また、「信託する財産」と「遺言によって相続させる財産」は慎重に検討する必要があります。
例えば、預金や有価証券などは相続しても困らない財産ですが、不動産は固定資産税や維持費がかかるだけの負の財産となってしまう可能性があります。
また、不動産は分けにくい財産ですので、どのように分割をするかで相続人同士の争いに発展してしまうケースも多くあります。
不動産を施設入居費等のための売却を想定して家族信託で残すことで、相続トラブルを未然に防ぐことができるのです。遺言だけでは、万が一認知症になった場合の不動産の売却は困難になってしまいます。
まとめ
家族信託と遺言を併用することで、認知症対策も含め残される家族に迷惑をかけず、自分が思い描く老後・死後の財産承継を実現することができます。
どの財産を信託し遺言で相続させるかは、ご希望と家族・財産構成、さらに支払うべき相続税によっても異なりますので、必ず専門家へ相談しましょう。
ソレイユ相続相談室では、豊富な実務経験のある税理士と行政書士があなたの家族の事情にあった家族信託のご提案を行っております。
家族信託をご検討のお客様は、ぜひ一度ご相談ください。