■Aさんの事例

Aさんは長年の居住で古くなった自宅に奥様と暮らしています。
自分が認知症等で病気になっても、この古くなった一軒家の自宅を取壊し、あるいは売却して新しい家に住み替えられるように、長男に自宅を信託する事にしました。
その後Aさんは認知症になり判断能力は無くなってしまいましたが、長男が自宅を売却してマンションに住みかえて暮らしています。
 
【Aさんの設計した家族信託】
信託財産  Aさん所有の自宅の土地建物
信託の目的 自宅の維持管理(売却及び建替え含む)とAさんと奥様の老後の生活の安定
委託者 Aさん
受託者 長男
受益者 Aさん
残余財産の帰属 長男
 
【Aさんが家族信託を活用するねらい】
古くなった自宅を自分に判断能力が無くなっても、長男が売却して住み替えられるようにしておきたい。
 

 

 

■Aさんの税法上の特例の適用

Aさんは認知症になってしまいましたが、受託者である長男が自宅を売却してマンションに住み替えることにしました。
Aさんは受益者として自宅で暮らし続けていたので、税法上の居住用財産の特別控除も居住用財産の買換え特例も使えることが分かりました。
選択の結果、Aさんは居住用財産の特別控除を適用して確定申告して、所得税はゼロ円で済みました。
 
■受益権の譲渡
所得税法では、信託財産の名義人となっている受託者ではなく、受益者が信託財産を所有するものとして課税関係を適用する事としています。
従って、受託者が信託契約に基づいて信託財産を譲渡したとしても、受益者に対して課税する事としています。
(参考)
第十三条
信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。

■特例の適用も受けられます

譲渡した信託財産が居住用財産であり、その信託財産と受益者が税法上の特例の要件に該当すれば、居住用財産の譲渡所得の特例も居住用財産の買換えの特例も受ける事ができます。
(参考)
国税庁のホームページを解説します。
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/hojin/853/02.htm
 
 

 

 

 

(居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用)

居住用財産の譲渡所得の特別控除に規定する「その居住の用に供している家屋」又は「その敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利」には、個人の有する信託財産の構成物でこれらの資産に該当するもの(以下この項において「信託居住用財産」という。)が含まれるのであるが、この場合における同条の規定の適用については次の諸点に留意する。
⇒居住用財産の特別控除が受けられる財産には信託財産も含まれているとの意で、
居住用財産の特別控除の元々の規程を適用する場合には、読みなかなければいけないことがあるので次の事項に注意して適用すること。

(1)信託居住用財産の譲渡には、信託受益権の譲渡によるものが含まれること。

⇒受託者が信託財産を売却したとしても、受益権の売却も含まれてくること。
(2)譲渡された信託財産である家屋が「その居住の用に供している家屋」に該当するかどうかは、
当該家屋の受益者について判定すること。
⇒居住用財産になるかどうかの判定は、その家屋に受益者が居住しているかどうかで判断するとのこと。
(3)特例の対象となる家屋の範囲に規定する「その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」の
判定の基礎には、その者の有する信託居住用財産が含まれること。
⇒二箇所の居住用財産を持っている者の判定をする場合には、信託居住用財産も含めて判定してくださいとの意。
(4)信託居住用財産の譲渡が「特別の関係がある者に対してするもの」に該当するかどうかは、
その譲渡に係る信託居住用財産の受益者について判定すること。
⇒居住用財産の譲渡先が特別な関係がある者の場合には特例が受けられない場合がありますが、
その判定は受益者について判定するとの意。
(5)「その年の前年又は前々年において既にこの規定の適用を受けている」かどうかの判定の基礎には、
その者の有する信託居住用財産の譲渡が含まれること。
その年の前年又は前々年において居住用財産の特別控除を受けている場合には
この規定が受けられなくなる場合がありますが、その判定には信託財産も含まれるとの意。


(居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例の適用)
 

居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例に規定する「譲渡資産」又は「買換資産」には、それぞれ、信託長期居住用財産又は信託買換資産が含まれるのであるが、この場合における規定の適用については、次の諸点に留意する。
⇒居住用財産の買換えの資産には信託財産が含まれているとの意。
 
居住用財産の特別控除と同じように、諸規定は信託財産と受益者に読み替える注意点が書かれています。
詳細は省略いたします。

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