公開日/2022年11月28日

令和4年11月8日に、第22回税制調査会が開催され、税金に関する議論が交わされました。今回の税制調査会の主な議題は、固定資産税・納税環境の整備・そして相続税と贈与税に関するものでした。どの議論も私たちの生活に直結するものですが、今回の議論で注目したいのは「相続税と贈与税」です。今回の記事では税制の今後を見据えながら、今から始めたい生前対策について詳しく解説します。

参考記事はコチラ→ 第22回 税制調査会(2022年11月8日)資料一覧

税制調査会とは一体どんな会議?

税制調査会とは、簡潔に言うと内閣府が主催する審議会の1つで、日本の税制について中長期的な視点から議論を行っているものです。類似した会議には政府与党内部で行われる調査会や東京都が実施している調査会なども存在しています。令和4年11月8日に開かれ政府の税制調査会では、冒頭に触れたように固定資産税や今回解説する相続税・贈与税に関する議論が交わされました。

財務省発表:資産課税の発表資料から読み解けることとは

今回発表された「財務省 令和4年11月8日(火)説明資料 資産課税(相続税・贈与税)」によると、令和4年度の国税の合計は70兆383億円にのぼり、うち相続税・贈与税については全体の3.7%、2.6兆円を占めています。

相続税の課税状況は令和元年と令和2年を比較すると、死者数は令和2年の方が減少しているものの、相続税の課税対象及び割合は増加しており、被相続人一人当たりの相続税額も令和元年の1,714万から令和2年は1,739万円と増加しています。つまり、相続は死亡者数によらず、増加しているのです。相続税収の推移を分析すると、平成6年度の29,377億円をピークにアップダウンはあるものの減少傾向にありましたが、平成25年以降は増加傾向にあり、令和3年には27,702億円まで戻しています。

令和元年には社会保障制度が充実し、高齢者の老後は国が支えている側面が強いことから、相続を機に「清算」をする観点について議論が行われています。つまり、相続税は強化されていく方針、と見て良いでしょう。

では、贈与税の資料はどうでしょうか。贈与税全体については相続時精算課税制度の導入後増加傾向にあります。しかし、相続時精算課税制度そのものは使いにくいことから暦年贈与よりも課税額が減少傾向にあることがわかりました。贈与税は税率が高く、生前贈与における相続課税逃れを防止する意味合いも強い、という答申が平成12年に行われています。現在の社会情勢を鑑みると、贈与税についても税収を上げる方向の税制運用が予想されます。

年代別 金融資産保有残高からわかることとは

同資料内では年代別の金融資産保有残高についても公表しています。過去20年間の統計を読み解くと、60歳以上の金融資産の保有残高は約1.5倍に増加しており、日本における資産の保有状況には年代に大きな偏りがあることがわかります。

相続税の申告状況を見ると、80歳以上の被相続人は平成元年と比較すると令和元年には約2倍近くにまで増加しており、金融資産を持つ高齢者の相続を、金融資産を持つ被相続人が相続する「老々相続」が増加していることがわかります。この状況は政府が今後の懸念材料として注視しています。老々相続は、消費意欲がある若年層へ資産が渡らず、高齢者の中で蓄積されていることが問題視されているのです。

格差の固定を懸念する声とは

老々相続の増加や資産の譲渡時期に関しての議論が活発となる中で、家庭内における資産の移転は「格差の固定」を懸念事項に挙げる声があります。今後、教育資金贈与や結婚・子育て資金の一括贈与などは現行制度から変更される可能性があります。適用件数も減少していることを背景に、廃止となることも想定できるでしょう。

令和元年9月26日の政府税制調査会の資料を参考にすると、資産移転の時期に関して中立的な税制を求める声が政府内に起きている事実を注視する必要があります今回の税制調査会の「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築に向けた論点整理」を抜粋すると、当面の対応は、急な税制変更を行うのではなく、
①相続時精算課税制
②暦年課税における相続前贈与の加算
③経済対策等として時限的に講じられている贈与税の非課税措置

の3本柱を軸に検討する見込みです。

相続税・贈与税はどうなるの?生前対策を今から始めよう!

相続税・贈与税は今後何らかの見直しが予想されます。老々相続や金融資産の偏りなどを踏まえると、税の再分配を目指すべく課税制度の抜本的な見直しが行われる可能性も高いでしょう。しかし、現状では現行制度を活用していく方針であり、早急な制度改正が発表されているものではありません。この点も含めて、改めて生前対策に注目してみましょう。

教育資金で未来へ資産のバトンをつなごう

現在のところ、教育資金贈与は今まで通り活用できています。(令和5年3月31日までは延長が決まっています。)教育資金贈与とは、30歳未満の受贈者(子・孫)が直系尊属(親・祖父母)から教育資金の贈与を受けた場合、受贈者1人につき最大1,500万円までが非課税となります。贈与者に対しての1,500万円枠ではないためご注意ください。本来教育資金は子どもの成長に欠かせないものであり、通常通りの教育資金の提供(給食費や学費をその都度援助しているなど)なら非課税です。

しかし、まとめて資金を贈与し、制度改正や相続を見据えてこの贈与を実施することも生前対策の一環として考えられます。特に私学への進学、医学・歯学への進学で費用が予想される場合には、本制度を早期に活用して未来へ資産を残していくこともおすすすめです。

結婚・子育て資金の一括贈与の検討を

今後見直しが予想される結婚・子育て資金の一括贈与も検討を始めましょう。この制度や直系尊属(親・祖父母)から18歳以上~50歳未満の受贈者(子・孫)に結婚や子育てに関する資金を贈与する場合は、受贈者1人につき1,000万円までが非課税で贈与できる制度です。こちらの制度も教育資金と同様に、贈与者ではなく受贈者ベースで1,000万円の限度額ですのでご注意ください。この制度には以下のような特徴があります。

・結婚に対する贈与なら300万円まで
・残りの700万円は子育て資金として贈与できる
・結婚に使う場合、式にともなう費用や同居による引っ越し代金などは該当する。
 新婚旅行代金やブライダルエステに関する費用などは対象外である。
・子育て資金は小学生未満が対象となるものの汎用性があり、妊娠・出産に関することから産後ケア、保育園や幼稚園の費用、シッター料金なども対象である。

両制度の注意点

教育資金贈与や結婚・子育て資金の一括贈与は今後制度が改正され贈与が廃止されると、適用できなくなる可能性があります。贈与を悩まれている方は家族の中で議論を行い、今後の相続や税制改正を見据えて検討してみましょう。なお、両制度には共通の注意点もあります。それは「使い切ること」という制約です。受贈者には年齢制限が設けられており、教育資金の場合は30歳を超えたら、結婚・子育て資金の場合は50歳を超えたら贈与を受けたお金を使いきっていない場合「贈与税」が加算されてしまいます。せっかくの非課税枠を無駄にしてしまう可能性があるため、贈与を受けたら何に、いつ、どのぐらいを使うのかしっかりと計算しながら使いましょう。

贈与・相続にはいろんな制度があります、まずはご相談を

今回は第22回税制調査会を分析しながら、今後廃止になる可能性がある2つの制度について触れました。紹介した制度以外にも、贈与には相続税精算課税制度や暦年贈与もあります。また、相続が開始した後に受けられる控除もあります。この機会に現在の家族の資産状況を整理し、未来に向けて生前対策を始めてみませんか。

ソレイユ相続相談室では、贈与・相続に関して税務のプロフェッショナルの立場からアドバイスを実施しています。どうぞお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。