公開日/2022年3月14日
相続税の申告漏れに気付いたら、すぐに正しい内容の申告書を提出しましょう。放置している間に税務調査が入ってしまうと、本来の課税額に最大50%もの上乗せがある状態で税を納めなくてはなりません。
税務調査と加算税制度の実情をしっかり理解しておけば、申告漏れに対して一番良い対応がとれるはずです。
目次
- ❏追徴課税の仕組み│加算税と延滞税の割合は?
- 少なく申告した場合【過小申告加算税の割合】
- 申告書を出さなかった場合【無申告加算税の割合】
- 悪意が認められた場合【重加算税の割合】
- 延滞税の仕組みと年率
- ❏税務調査とは│相続税の申告漏れが発覚する仕組み
- 税務署の調査権限はどこまで及ぶのか
- 税務調査の対象になる確率
- 税務調査で申告漏れが発覚する確率
- ❏相続税の申告漏れを隠し通すのは可能なのか
- 相続税には時効がある
- 時効完成まで逃げ切れない理由
- ❏自主的に相続税申告するメリット
- 追徴課税の軽減【税務調査前の自主申告の場合】
- 無申告でも正当な理由がある場合の扱い
- ❏よくある申告漏れのパターン
- 名義預金も申告するとは知らなかった
- タンス預金を何も手続きせずにもらい受けた
- 持ち家の相続手続きが必要とは知らなかった
- 海外にある財産は申告不要だと思い込んでいた
- ❏まとめ│申告漏れの対応は早めが肝心
❏追徴課税の仕組み│加算税と延滞税の割合は?
相続税の申告漏れが発覚すると、そのペナルティにあたる「加算税」と「延滞税」の両方が課されます。指摘を受けて支払う必要のある場合、その内訳は以下の通りです。
▼追徴課税の内訳
①追加納付する相続税額(本来の期限までに納めなかった分)
②加算税(①×申告漏れの状況ごとに決められた割合)
③延滞税(①×年率÷365日×滞納日数)
※以降で紹介する税率は、国税庁が公表する「加算税制度の改正のあらまし」(※平成28年度税制改正の概要)でも分かりやすくまとめられています。
少なく申告した場合【過小申告加算税の割合】
相続税申告したものの金額が少なかったケースでは、紹介した内訳の②を「過少申告加算税」として扱います。税務調査の通知が来た後に申告漏れ対応を始めると、加算の割合は以下と判断されます。
修正申告の時期 | 過小申告加算税の割合 |
---|---|
調査通知後~過小申告の指摘を予知する前 | 原則5%(一部10%※) |
調査通知後~過小申告の指摘を予知した後 | 原則10%(一部15%※) |
※追加納付する相続税額のうち、期限内に納めた額と50万円のいずれか多い額を超える部分に適用されます。
申告書を出さなかった場合【無申告加算税の割合】
期限までに相続税の申告書を出さなかったケースでは、内訳の②を「無申告加算税」として扱います。税務調査の通知が来た後の加算割合は、過少申告加算税より重くなります。
自主的な期限後申告の時期 | 無申告加算税の割合 |
---|---|
調査通知後~無申告の指摘を予知する前 | 原則10%(一部15%※) |
調査通知後~無申告の指摘を予知した後 | 原則15%(一部20%※) |
※遅れて納付する相続税額のうち、50万円を超える部分に適用されます。
悪意が認められた場合【重加算税の割合】
より不利になるのは、申告漏れに悪意がある場合です。ここで言う「悪意」とは法律用語であり、一般的には「遺産隠しや課税逃れの意図」と言い換えられます。相続税申告の具体で挙げるなら、口座からお金を移動させて税務署にバレないようにする等、税金逃れの意図が働いたケースが当てはまります。
以上のように「悪意の納税義務者」と認められてしまうと、内訳の②は重加算税扱いとなり、以下の割合に修正されます。
▼重加算税の割合
過小申告の場合:過少申告加算税に代えて45%
無申告の場合:無申告加算税に代えて50%
延滞税の仕組みと年率
加算税とは別にかかる「延滞税」は、所定の年率に沿って日々加算されます。クレジットカードの延滞利息等と同じく、申告・納付が遅れるほどかさむと考えましょう。
基準となる時期 | 延滞税の年率 |
---|---|
延滞2か月目まで | 原則7.3% (延滞税特例基準割合+1%※と比較し、低い方を採用) |
延滞3か月目以降 | 原則14.6% (延滞税特例基準割合+7.3%※と比較し、低い方を採用) |
※延滞税特例基準割合は数年おきに見直されています。最新の割合はタックスアンサーで確認可能です。
❏税務調査とは│相続税の申告漏れが発覚する仕組み
それでは、相続税の申告漏れはどういった仕組みで発覚してしまうのでしょうか。
税制の基本として、取得した遺産とその課税額は、各々の自己申告に委ねられています(=申告納税方式)。だからと言って、税務署側で課税額を調べるケースがないわけではありません。怪しいケースについて「税務調査」を行い、税金を正しく納めてもらう仕組みがあるのです。
何より理解しておきたいのは、次の2つのポイントです。
・税務署には、納税義務者の財産を調べる権利がある
・調査対象になるかどうかに関わらず、お金の動きや所在は一切隠せない
税務署の調査権限はどこまで及ぶのか
受け取った遺産について税務署が調べる権限は、法律で「質問検査権」(国税通則法第74条の3)と呼ばれています。簡単に言えば、財産がある場所に立ち入ったり、相続に関わった人に連絡を取って資料を提出させたりすることのできる権限です。
上記の権限があることで、税務署はいつでも次のような対応で「税務調査」を行えます。たとえ調査されないとしても、生前の確定申告や源泉徴収の記録から、受け取った遺産の状況は簡単に予測できてしまいます。
・銀行に問い合わせ、口座残高と入出金明細を取り寄せる
・相続関係者と関連のある土地建物について、現地で利用状況を確かめる
・相続関係者が経営に関わっている会社に連絡し、資料を提出してもらう
・以上の「準備調査」で必要と判断した場合、納税義務者に対面で事情を尋ねる
税務調査の対象になる確率
税務調査の対象になる確率は、おおよそ10人に1人と考えられます。この頃は確率に低下が見られますが、調査の効率化や感染症対策の影響があると考えられるため、油断は出来ません。
▼令和元年度の統計情報
課税の発生件数…115,267件
同事務年度に行われた実地調査※の件数…10,635件
参考1:相続税の申告実績の概要(国税庁)
参考2:相続税の調査等の状況(国税庁)
※質問検査権を使って調査されたケースのなかで、実際に納税義務者を訪ねて事情をヒアリングする段階まで進んだものを指します。
税務調査で申告漏れが発覚する確率
税務調査の対象は広く、申告漏れがないケースも中には含まれます。そうは言っても、令和1事務年度における調査統計でも分かるように、適正に税金が払われていないと判明するケースが8割にも及んでいます。この後触れるように、家に担当官が来る段階になれば、自主申告のない遺産についてかなり正確に予測していると考えるべきです。
❏相続税の申告漏れを隠し通すのは可能なのか
申告漏れがあるからと言って、必ず税務調査が行われるとは限りません。準備調査で引っかからず、そのまま相続税を申告・納付する義務が法律上消滅することもあり得ます。
ただし、税金逃れの成功に期待するのは禁物です。まずは相続税の時効から確認してみましょう。
相続税には時効がある
相続税の申告期限は亡くなった日の翌日から10か月後です。申告期限から納付義務の時効のカウントが進み、死亡日からトータルで5年10か月後には消滅します。
ただし、遺産隠し等の「偽りその他不正の行為」があると判断されれば、時効は7年に延長されます(国税通則法第70条5項)。悪意のあるケースでは、5年経ってもなお追徴課税の可能性が残るのです。
時効完成まで逃げ切れない理由
実際のところ、税務調査は申告期限の翌年に始まるのが一般的です。自宅に訪問されるとすれば、遅くとも翌々年までに日程調整の連絡が来るでしょう。こうした取り組みから考えれば、消滅時効の完成による逃げ切りは難しいと言わざるを得ません。
税務署の担当官が家にやってくると、想像とは違って世間話を聞きに来たような印象を抱くはずです。そうした態度の裏で、納税記録の確認と準備調査を通じて「本当の遺産の額はこのくらいあるはずだ」との確信を持っています。当然、以降順次進む調査で、申告漏れが見逃されるはずがありません。
❏自主的に相続税申告するメリット
税務調査が入る前に自主的に申告をやりなおせば、加算税の軽減があります。やむを得ない事情があるのなら、理解を得て加算税を免れます。 相続税の課税では、たとえ期限後になっても「自分で気づいて正しく申告すること」が重視されているからです。
追徴課税の軽減【税務調査前の自主申告の場合】
加算税の軽減措置は、過少申告加算税と無申告加算税のどちらにも存在します。平成28年に措置を縮小する法改正があったものの、現在でも下記のように、大幅な軽減が期待できます。
▼過少申告加算税の加算割合
調査による更正等予知以降:原則10%(一部15%)
→税務調査前の修正申告:0%(加算の対象外になる)
▼無申告加算税の加算割合
調査による更正等予知以降:原則15%(一部20%)
→税務調査前の期限後申告:一律5%
※更正等予知とは、税務署から追徴課税の決定が下りるのを予期することを指します。
無申告でも正当な理由がある場合の扱い
無申告加算税に関しては、申告書を提出できなかった「正当な理由」があれば課されません。典型的なのは、相続手続きの途中で事故に遭って身動きがとれなくなったり、亡くなった後しばらく経ってから遺産が出てきたりするケースです。 一方で「相続税申告が必要とは知らなかった」は理由になりません。申告期限内にきちんとチェックして手続きの要否を確認するのは当たり前、とのように考えられています。
❏よくある申告漏れのパターン
相続税の申告漏れは、ほぼ全てうっかりミスや知識不足によるものです。申告期限内に手はずを確認するのが理想的ですが、そうした対応を誰もが取れるわけではありません。現時点で以下のような状況に心当たりがあるのなら、慌てたり怯えたりすることなく、今からでも税理士に相談しましょう。
名義預金も申告するとは知らなかった
申告漏れで一番多いのは、亡くなった人が相続人名義の口座でお金を貯めていたケースです。残高は口座名義人のものになると考えがちですが、被相続人の収入や貯蓄から出資されたものは、全て相続財産として扱われます。
タンス預金を何も手続きせずにもらい受けた
高齢者を中心に、多額の現金を自宅で保管する人がいます。亡くなった後にタンスや仏壇の中から出てきた現金は、遺産分割した上で相続税申告しなければなりません。
ここまで挙げた預貯金と現金の申告漏れは、例年税務調査で指摘されるケースの4分の3程度を占めています。
持ち家の相続手続きが必要とは知らなかった
亡くなった人から家を譲り受けた場合、法務局で「所有権移転登記」(相続登記)を済ませ、相続税の申告書に記載して提出しなければなりません。実態として亡くなる前と変わらず居住できている点から、どちらの手続きもしない人が散見されます。
相続登記に関しては、令和3年4月に可決された法改正案で、今後義務化されることが決まりました。なお登記しないままでいると、加算税の他に過料に処されることになります。
海外にある財産は申告不要だと思い込んでいた
海外口座等で管理されている財産も、内国の相続税の課税対象です。
日本の当局では、一定の国外財産を持っている人に届出が義務付けられている他、租税条約等について他国と納税記録を交換する制度もあります。きちんと財産調査し、申告し忘れのないようにしましょう。
参考1:国外財産調書の提出義務
参考2:租税条約等に基づく情報交換
❏まとめ│申告漏れの対応は早めが肝心
相続税の申告漏れに気付いた時は、先延ばしすることなく速やかに届け出なくてはなりません。放置していても、納税義務が消滅するまで調査されない保証はどこにもありません。ある程度まとまった額に及ぶ時は、一層注意したいところです。
▼申告漏れにすぐ対処するメリット
・追徴課税が来ても最小限で済む
・税務署対応で緊張を強いられずに済む(実地調査が不要になるため)
税務調査に入られると「申告・納税の義務を理解していなかった」では通りません。亡くなった人について何らかの価値のあるものが見つかったり、財産について扱いが分からないと感じたりした時は、出来るだけ税理士に相談しましょう。
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