相続税を計算する前に、亡くなった人の持っていた財産をすみずみまで調査して、遺産の総額を把握する必要があります。

遺産の総額が多ければ多いほど相続税も高くなりますが、亡くなった人に借金などがある場合は遺産総額から借金額を差し引くことができ、相続税の負担を減らすことができるのです。

相続税を正しく計算するために、遺産総額から差し引くことができる「債務控除」について知っておきましょう。

相続税がかからない「債務控除」とは……。

相続財産と聞くと、不動産や預貯金・株式など、もらって嬉しい財産を想像されるのではないかと思います。

しかし、相続財産として引き継ぐものには、相続税がかかる「プラスの財産」だけではなく課税対象から除かれる「マイナスの財産」も存在するのです。このプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた「正味の遺産総額」に対して相続税が課税される仕組みになっています。そのため、マイナスの財産が多ければ多いほど、相続税が低くなるのです。

このように、プラスの財産からマイナスの財産を差し引くことを「債務控除」と言います。

債務控除には大きく分けて、以下の2種類があります。

○債務

○葬式費用

1.債務控除の対象となる債務

前提として、債務控除と対象となる債務は「被相続人が亡くなったときにあった債務で、確実と認められるもの」に限られます。債務となるかどうかが不確実なものは遺産総額から差し引くことができませんので、ご注意ください。

① 金融機関や個人からの借入金

金融機関から借りたお金は亡くなった時点で確実な債務ですので、債務控除の対象となります。例えば、住宅ローンや教育ローンなどもこれに該当します。差し引くことができる金額は「亡くなった日の借入金の残高+未払の利息」です。亡くなった人にどのくらいの借入金があるかを各金融機関に問い合わせて確認しましょう。

また、個人からの借入では、契約書を作成しておらず、実際にお金を借りていたのかを判断することが難しいケースがあります。

「貸した」「借りてない」のトラブルを防ぐためには、口約束ではなく契約書を作成し、証拠を残しておきましょう。

② 公租公課(こうそこうか)

公租公課とは、所得税や住民税、固定資産税などの税金や保険料などの負担金のことを言います。

例えば、亡くなった人が事業を行なっていた場合、亡くなってから4ヶ月以内に「準確定申告」を行う必要があります。この準確定申告で支払われる利所得税や消費税は、亡くなった人が生前に行っていた事業で得た売り上げ等に基づいて計算されるため、債務控除で差し引くことができるのです。

ただし、相続人が準確定申告をしなかった場合に発生する延滞税や加算税は、債務控除の対象とはなりません。

③ 未払いの医療費

亡くなる前に入院していたり、病院で治療を受けていた場合は、その医療費を遺産総額から差し引くことができます。

また、車椅子や杖などの購入費用を医療費として控除することはできませんが、その車椅子や杖が医師の診療を受けるために必要なものと認められた場合は、控除の対象となります。さらに、医師に診断によって購入することになった医療器具なども控除の対象となりますので、購入時のレシートや領収書は取っておくようにしましょう。

2.債務控除の対象となる葬式費用

亡くなった人の葬式費用で、以下のものは遺産総額から差し引くことができます。

・通常の通夜・葬儀・埋葬に伴い、葬儀社や寺などに支払った費用一式

・生前から所有していたお墓や仏壇・仏具など

ただし、香典返しや初七日・四十九日などの法要の費用は認められません。

債務控除を受ける際、基本的に領収書は必要ありません。しかし、確実に控除を受けるためには「いつ、誰に、いくら支払ったか」のメモをとっておくと良いでしょう。

遺産総額から差し引くことができる債務には、ここでご紹介したもの以外にも様々な種類があります。相続税を正確に計算するためには、亡くなった人の債務を把握する必要がありますが、隅々まで調査するのは非常に大変です。亡くなった人の債務がどのくらいあるのかを知りたい方は、相続に詳しい「税理士」へのご相談をご検討ください。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。