作成日 2021年11月04日

1、不動産を安く売りたい方の損得勘定

不動産を親族に安く売りたい・・・とのご相談はしばしばお受けいたします。

その相談に来られる方は下記のようなことをお考えになってきます。

20年前に2500万円で買った土地が時価5000万円に値上がりしている。

これを息子の名義にしたいが、贈与すると贈与税がかかる。

贈与税の計算 (※相談者の方の考え方です。)

①5000万円(時価)-110万円(贈与税の基礎控除)=4890万円(課税対象額)

 4890万円 ✕ 55% - 400万円 = 22,895,000円(納付する贈与税額)

 こんなに息子が贈与税を納めるなら、1000万円で息子に売ってしまった方が息子も得だ・・・。

②ついでに、自分が2500万円で買った土地を息子に1000万円で売っても、売却損になるから譲渡の税金はかからない。贈与税もかからないだろう。

というのが、相談に来られる方の考え方です。

この段階で相談に来られる方の計算が間違っているのは、まず①の5000万円(時価)の部分です。

通常の贈与税の計算は、土地を相続税評価額で計算するので、時価より安くなっていることが普通です。

この土地の相続税評価額を4000万円とすると、

上記①は

4000万円(相続税評価額) - 110万円(贈与税の基礎控除)=3890万円(課税対象額)

3890万円 ✕ 55% - 400万円 = 17,395,000円(納付する贈与税額)

となります。

上記②の計算の土地の譲渡所得は、1000万円-2500万円がマイナスになるので、売った側に譲渡所得の税金がかからないことも間違いありません。

ただし、大きな落とし穴があって、この土地を安く買った息子に贈与税がかかるのです。

2、みなし贈与という考え方

時価(5000万円) - 譲渡価格(1000万円)=みなし贈与の価格(4000万円)

4000万円(みなし贈与価格) - 110万円(贈与税の基礎控除)=3890万円(課税対象額)

3890万円 ✕ 55% - 400万円 = 17,395,000円(納付する贈与税額)

 この事例では、息子の払う贈与税は父からただでもらった場合と、1000万円父に払った場合で、たまたま同じ金額になっています。

ただの贈与であれば、相続税評価額の4000万円、相続税の計算で使う路線価を用いて計算した金額になります。

1000万円を息子が払うみなし贈与であれば、土地の時価5000万円と息子か負担した(支払った)1000万円との差額の4000万円が、父から息子への贈与の贈与とみなされるのです。

息子さんは1000万円の購入代金を父へ支払い、贈与税を税務署に支払うことになります。

税法のみなし贈与は、「時価より著しく低い価額」の場合に適用されます。

・・・となると、「時価はどう計算するのか?」 と 「著しく低い価格とはどんな基準なのか? 」 が問題になります。

事例で言うと、相続税評価額は税法の規定(財産評価通達)によって計算して、4000万円の表額と計算過程がわかります。

それでは、時価5000万円はどう計算するのか?  1000万円の売買価格は著しく低いのか?  が問題となるのです。

3、土地の時価の考え方と著しく低い価格の考え方

みなし贈与の考え方は、譲渡価額が時価よりも「著しく低い価額」の場合に適用されます。

しかし、時価の何%以下だと「著しく低い価額」として課税する・・・と書いてある明確な基準は税法にはありません。

過去の裁判例(東京地裁平成19年8月23日判決)では、土地について、

「相続税評価額と同水準か、それ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合、原則として『著しく低い価額』による譲渡とは言うことができず、例外として何らかの事情によりその土地の相続税評価額が時価の80%よりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って『著しく低い価額』による譲渡になり得ると解すべきである・・・・」

とあり1つ参考になります。

しかし、どんなケースであっても、土地の相続税評価額を譲渡価額とすれば「著しく低い価額」に当たらないと判断するのは妥当ではありません。

地方では、相続税評価額より売買価格が低い事例もありますし、首都圏の商業地では、売買価格が相続税評価額の60%~70%となることも珍しくありません。

時価の算定方法については実務上以下の2つの方法が考えられます。

○不動産鑑定士による不動産鑑定評価額(※不動産鑑定士に報酬を支払う必要があります。)

○相続税評価額÷0.8(※必ずしも時価になるとは限りらないので時価と違ってしまうリスクはあります。)

4、まとめ

親族に対する不動産の売買は、他人同士が行う売買と違って、税務署が目をつけやすい取引になってしまいます。

なぜなら、親族間であるが故に他人同士とは違った基準で売却価格が設定されやすいからです。

時価の算定は難解です。

親族間で不動産の売買を行う場合には、

専門の税理士[相続の専門税理士であれば財産評価に精通しています]に、相談することをお勧めします。

この記事の監修者

釘宮 貴美子

釘宮 貴美子(公認会計士・税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 社員税理士 首都圏事務所所長
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士 小杉事務所所長

福岡県出身。「円満な相続」には、税法の知識だけでなく民法その他関連法規と豊富な経験に基づくノウハウが必要です。税務調査率は1%に満たない精度の高いプロ中のプロ。税務を絡めて遺言や契約書等に法的不備がないか厳しい目でチェックし、お客様を税務リスクから守る、真の税務法律家です。