更新日/2022年7月26日
先代のオーナーが亡くなり後継者へ事業承継が行われると、後継者に相続税の支払い義務が生じます。
後継者に納税資金の準備がないと、自分の財産を処分する、自社株を手放すなどの対応をせまられることになります。
本記事では、事業承継で相続財産に含まれるもの、先代オーナーの生前に相続対策としてできること、また万一、納税資金が準備できないときの対処法を解説します。
目次
相続財産に含まれるもの
事業承継では、事業用資産や設備だけでなく、自社株式、先代オーナーの貸付金や債務も相続の対象財産です。
それぞれについて解説します。
❏自社株式
先代オーナーが保有していた自社株式は、相続税の対象となる財産です。
株式の相続税評価額は、上場株式であれば公開株価を基準とした算定方法を用いますが、非上場株式の相続税評価額は、原則、次の方式で算定します。
会社の純資産価額、従業員数、取引金額を、一定の基準に基つき大会社、中会社、小会社に区分して、次の算定方式で株価を算出します。
小会社・・・「純資産評価方式」
大会社・・・「類似業種比準方式」
中会社・・・「類似業種比準方式」と「純資産評価方式」の併用
そのほか、同族以外の株主が取得する株式は、「配当還元方式」で算定します。その場合は会社の規模は関係ありません。
実際の会社区分や、それぞれの方式の計算方法は複雑なため、ここでは割愛しますが、非上場株式を事業承継により取得した場合の株価選定方式について、このような種類があることを覚えておきましょう。
また、先代オーナーの保有株式を後継者がすべて相続する場合は、ほかの相続人の遺留分侵害への配慮が必要になってきます。
❏貸付金
資金繰りの問題で経営者個人の財産を、会社へ貸付けることは珍しいことではありません。
問題は、貸付金を回収することなく先代オーナーが亡くなってしまったときに、未回収の貸付金とその利息は、後継者の相続財産となってしまい、後継者に相続税が課されてしまうことです。
後継者が貸付金を回収できれば、回収した資金から相続税を払うことができますが、貸付金が回収できない経営状態であると、後継者の自己の財産から相続税を払う必要がでてきます。
❏債務
事業承継の際、会社の債務も後継者へ引き継がれます。
債務は、後継者のプラスの相続財産から控除することができるため、相続税の減額効果があります。
事業承継の相続税対策として生前にできること
先代のオーナーが、相続税対策をしないまま亡くなってしまうと、後継者に多額の相続税がかかってしまう場合があります。
スムーズに事業承継を行うためには、生前からの対策が重要です。
いくつかの方法を解説します。
❏株価の引き下げ
相続税の算定基準となる株価を引き下げれば、支払うべき相続税が減額されます。
非上場株式の株価算定方式により、株価引き下げに有効な方法は異なります。
類似業種株価による算定(大会社)
類似業種比準方式は、配当金額、年利益金額、純資産価額の3つの要素から算出するため、次の方法をとることで、株価引き下げの効果を得られます。
●役員報酬の引上げ
役員報酬は損金として計上されるため、役員報酬を引き上げることは会社の利益を下げることになり、株価が下がります。
ただし、会社の定款を超えての引き上げは、会社法に抵触する恐れがありますので注意してください。
●退職金の支給
オーナー、役員に退職金を支給する、または増額する方法です。
役員報酬と同様に、損金計上ができるため、株価引き下げの効果があります。
ただし、退職金は本来、会社の利益から計算され支給されるものですので、不当に高額な退職金の支給は、税務上問題になる可能性がありますので注意してください。
●配当金を下げる
自社株に対する配当金を下げる方法です。
配当金を下げることで、シンプルに株式の評価額が下がります。
特に配当金が高い場合に、効果の出やすい方法です。
純資産株価による算定(小会社)
純資産とは、会社の総資産から負債を差し引いた価額をさします。
純資産評価方式で算定される株価は、次の方法をとることで株価引き下げ効果を得られます。
●不動産の売却
保有資産を売却することにより、純資産を下げる方法です。
たとえば、土地・建物など不動産、機械などの設備を売却することで資産を減らす効果を得られます。
●株式発行数を増やす
株式の発行数を増やすことで、株価を下げる効果があります。
ただし、発行数を増やし第三者へ株式を与えることにより経営へ与えるデメリットも考えて総合的に判断する必要があります。
❏事業承継税制
これら以外に、事業承継税制を活用することで相続税が軽減されます。
事業承継税制とは、一定の条件を満たした場合に、非上場株式の相続に係る納税を猶予するというものです。
具体的には、後継者が相続により取得した非上場株式の価額の80%に対応する相続税が猶予されます。
また、条件を満たしたまま、後継者が死亡した後には、猶予されていた相続税は免除となります。
なお、平成30年の税制改正により、令和9年12月31日までの特例措置として、令和5年3月31日までに「特例承継計画」を提出することにより、猶予割合が100%に拡大される措置が取られています。
ただし、事業承継税制の納税猶予は、適用要件が厳しく、認定された後も猶予継続のためには、一定の要件を満たし続ける必要があることに留意してください。
❏遺留分請求への備えも忘れずに
遺留分とは、法定相続人が取得できる最低限の遺産相続割合です。
法定相続人のうち、配偶者、親、子に認められている権利です。
自社株式の多くを被相続人である死亡したオーナーが保有していて、後継者が自社株を全部相続した場合で、ほかに相続財産が少ない場合には、ほかの相続人との相続割合が不公平となり、ほかの相続人から、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
遺留分権利者の遺留分が認められれば、遺留分請求をされた後継者は、自社株を与える、または自己資金から遺留分を補填することになります。
自社株の持分が減ってしまうと、後々の経営に支障がでるケースも考えられますので、できれば回避したいところです。
遺留分対策として、先代オーナーの生前にできることを2つあげます。
1.遺留分権利者に遺留分を放棄してもらう
事業を引き継ぐ後継者が、ほかの相続人から遺留分侵害額請求をされないようにするためには、オーナーの生前に、遺留分の権利を持っている後継者以外の相続人に、遺留分を放棄させます。
しかし、遺留分権利者が、放棄を拒否することもできますので、その場合は、ほかの策を講じる必要があります。
2.経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化における法律)
オーナーの生前に、経営承継円滑化法の特例により次の2つの対策を講じることで、遺留分を減額する効果があります。
・除外合意
後継者へ生前に贈与した株式を、遺産総額から除外することに合意するもの。
株式の相続税評価額が遺産から除外されることで遺産総額が下がります。よって、遺留分の金額も下がることになります。
・固定合意
後継者へ生前贈与された株式は、遺産総額に算入しますが、その価格を合意時点に固定するというもの。
後継者の経営努力で高まった会社の価値を、ほかの相続人に与えないために有効な措置です。
どちらも、オーナーの生前に、後継者と推定相続人の全員の合意が必要です。
また、除外合意、固定合意のどちらか一方を選択することも、両方を併用することも可能です。
なお、この措置の利用ができるのは、3年以上事業を継続している非上場企業であることなど、一定の適用要件があります。
後継者が納税資金を払えないとき
先代オーナーは、生前に後継者のために相続税対策をしておくことが望ましいですが、対策を講じないまま突然、先代オーナーが亡くなってしまうこともあるでしょう。
相続税は、10ヶ月以内に一括現金納付が基本ですが、どうしても払えないときには延納が認められています。
❏延納
次の要件をすべて満たすとき、延納の申請ができます。
・相続税が10万円を超える
・金銭納付が困難な事由があり、かつ、延納額がその困難とする金額の範囲内である
・延納税額とそれに係る利子税額に相当する担保の提供ができる
(ただし、延納税額が100万円以下で、延納期間が3年以下の場合は担保の必要なし)
上記の条件を満たした上で、相続税納付期限までに、「延納申請書」「担保提供関係書類」を税務署長に提出することで延納が認められます。
なお、延納が認められる期間は、納税者の相続財産総額のうちの不動産等の価額の占める割合によって、5年~20年と異なる期間が定められています。
❏特定物納制度(延納→物納)
延納の許可を受けた相続税について、延納を履行することが困難になった場合、申告期限から10年以内に限り、物納へ変更することができます。
物納申請した場合は、物納財産を納付するまでの期間に応じ、延納の利子税を支払う必要があります。
まとめ
事業承継のための相続税対策をしておかないと、後継者へ多額の相続税がかかるケースがあります。
しかし、生前に対策できるいくつかの方法により、多額の相続税の回避、若しくは、相続税の免除を受けることもできます。
事業承継に係る相続税対策は複雑な部分も多いため、個人での対応が難しいこともあるでしょう。
最も有効的な対策を講じるため、「ソレイユ相続相談室」のご利用をおすすめします。