更新日/2022年7月26日
亡くなった方の財産や権利を相続人が受け継ぐことを相続といいます。相続人は、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
今回は、被相続人のマイナスの財産のうち、取得したプラスの遺産から控除できる債務とできない債務について解説します
債務控除の効果
相続税を計算するときは、まず遺産総額を算出しなければなりません。
債務控除ができるマイナスの財産があれば、それを遺産総額から差し引くことで、相続税の対象となる課税価額が少なくなります。
差し引ける債務額が大きいほど、課税対象となる遺産総額が減少しますので、相続税の減額に貢献します。
遺産総額から控除できるのは「確実な債務」のみ
遺産総額から控除ができる債務は、相続開始時点で「確実な債務」となっているものに限られています。被相続人のつぎの債務は、確実な債務として債務控除の対象です。
●住宅ローン(団体信用生命保険に未加入)
住宅ローンは確実な債務として債務控除の対象となり、遺産総額から差し引くことができます。
ですが、団体信用生命保険に加入していて、契約者の死亡によってローンの返済が免除される場合は、債務控除の対象ではなくなりますので注意してください。
●公共料金の未払い金
被相続人が生前に使用していた水道光熱費や電話料金に未払い金があり、被相続人の死亡後に相続人がその費用を負担した場合は、債務控除の対象となります。
●医療費の未払い金
被相続人の生前の医療費や入院費の未払い金を相続人が支払った場合には、債務控除の対象となります。
●公租公課の未払い金
被相続人に、国や地方自治体に納付すべき税金の未払い金があったとき、または、死亡後に発生する税金を相続人が負担した場合は、債務控除ができます。
法人税、所得税、住民税、固定資産税などの税金、健康保険料、社会保険料の負担金が該当します。
●クレジットカードの未払い金
クレジットカードの未払い金を、相続人が負担した場合は、その費用も債務控除の対象となります。
●葬式費用
葬儀費用は、被相続人の未払い金ではありませんが、相続人が負担した葬儀に関する次の費用は、相続したプラスの財産から差し引くことができる費用です。
・通夜、告別式の費用
・通夜、告別式にかかる料理代
・火葬、埋葬、納骨にかかる費用
・遺体の搬送費用
・お布施、戒名料
など。
なお、香典返し、墓や仏壇の購入費は、債務控除の対象外ですので注意してください。
遺産総額から控除できない債務
●保証債務、連帯債務
保証債務や連帯債務は、相続人に相続され引き継がれますが、主たる債務者が弁済不能であることが証明されない限り、相続開始時点で「確実な債務」に該当しないため、債務控除はできません。
しかし、主たる債務者が返済不能であって、連帯債務を引き継いだ相続人がその債務を負担した場合には、債務控除が認められる場合があります。
●相続人が負担しなければならない費用は対象外
被相続人の死亡後に発生する次の費用は、相続人が負担すべき費用とされ、債務控除の対象外です。
・墓、仏壇の購入費用
・法事・法要費用
・遺産分割交渉に係る弁護士費用、裁判費用
・相続税申告手続きを依頼した場合の税理士費用
・相続財産に係る管理費用
・相続手続きで必要な書類の入手にかかった費用
・被相続人の納税期日までに、相続人が納税を怠ったことによる延滞税や加算税
など。
債務控除が受けられる人と受けられない人
債務控除の対象となる費用であっても、すべての人が債務控除を受けられるわけではありません。
債務控除が受けられる人、受けられない人の要件はつぎの通りです。
●受けられる人
相続人
相続人のうち、被相続人の債務に該当する未払い金を負担した場合には、プラスの財産から実際に被相続人のために支出した金額を差し引くことができます。
包括受遺者
「受遺者」とは、遺言書によって遺贈を受ける人のことです。
法定相続人のほか、法定相続人でない第三者でも受遺者となることができます。
そして、「包括受遺者」とは、財産を特定しない形で遺贈により財産を取得する人のことを指します。
たとえば、遺言書の内容が「遺言者は、遺言者の有する財産のすべてを、Aに遺贈する」、または、「遺言者は、遺言者の有する財産の1/2をAに遺贈する」というような遺産の対象物を指定していない場合に、Aは包括受遺者となります。
包括受遺者も相続人同様に、被相続人の未払い金を負担した場合には、その金額を取得した遺産額から差し引くことができます。
●受けられない人
特定受遺者
包括受遺者に対して、財産を特定して遺贈を受ける人のことを「特定受遺者」といいます。
たとえば、遺言書の内容が、「遺言者は、遺言者の有する土地Yを、Aに遺贈する」であれば、土地Yという特定物をAに取得させるということで、Aは特定受遺者となります。
同じ受遺者でも、財産を特定して遺贈する特定受遺者は債務控除が受けられません。
相続放棄者
相続を放棄した人も債務控除はできません。
相続放棄をするということは、プラスもマイナスもすべての財産を放棄することですので、債務の控除ができないのは当然のように思えます。
しかし、相続は放棄しても、「遺贈」により財産を受け取ることは可能です。
遺贈で取得した財産も相続税の課税対象ですが、相続を放棄していると遺贈された財産額から債務控除をすることができません。
ただし、相続を放棄していても、遺贈により財産を取得した人が葬式費用を負担した場合には、遺贈により取得した遺産額から葬式費用を債務控除することは認められています。
相続放棄、限定承認という選択肢
ここまで、財産のすべてを相続する(単純承認)ことを前提に債務控除についてお話してきましたが、相続にはほかの選択肢もあります。簡単にお伝えします。
相続放棄
相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継がないというものです。
相続放棄は、複数の相続人がいる場合であっても、単独で行うことができますし、全員が相続放棄をすることも可能です。
相続放棄がされると、相続順位の次の相続人に権利が移行します。
問題が生じやすいのは、借金やローンの相続放棄です。連帯保証人がいるような借金では、その保証人に請求が移ることになりますので、ほかへ与える影響を考慮して慎重な対応が求められるでしょう。
限定承認
限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐという方法です。明らかに債務超過であっても、被相続人の保有していた不動産に相続人が住み続けたい場合や、被相続人の資産がはっきりわからないときなどに有用な方法です。
ただし、限定承認は、複数の相続人がいる場合に単独の判断では行えません。
限定承認は、相続人全員の合意を得て、家庭裁判所への申し立てが必要です。
まとめ
相続税の計算上、被相続人の未払い金として債務控除ができるのは「確実な債務」であることが条件です。そして、その債務を相続人が負担した場合に、その金額を取得した遺産額から差し引くことができます。
また、葬式費用については一定の項目については控除が可能です。
相続税を計算するための資産の洗い出しや整理は、思わぬ労力と時間がかかってしまうことがあります。
しかし、相続は、相続開始から3ヶ月以内の手続きが必要です。時期を過ぎると、相続放棄や限定承認ができないことで、多額の相続税を払うことにもなり兼ねません。
的確に相続税の手続きを進めるために、事例豊富な「ソレイユ相続相談室」へ依頼するのもひとつの方法です。