更新日/2022年7月25日
個人で事業を行っていた方が亡くなって、相続人がその事業を引き継ぐことになった場合、どのような手続きが必要でしょうか。
本記事では、相続により事業を引き継いだときの具体的な手続き方法について解説します。
個人事業者が死亡したときの相続手続き
亡くなった方の個人事業を相続人が承継する場合、さまざまな手続きが必要になります。
事業を引き継ぐといっても、被相続人が申請・承認を受けていた手続きの効力は、承継者に引き継がれないこととなっています。
相続人は、一旦、亡くなった方の申請を取り下げ、改めて後継者として、申請や届出を行う必要があります。
1.亡くなった個人事業者(被相続人)に関する手続き
個人事業者が亡くなると、相続人は次の届出を行わなければなりません。
❏所得税関係
個人事業の廃業を届け出る
事業を引き継ぐ場合でも、亡くなった個人事業者に関して「個人事業の開業・廃業等届出書」を管轄の税務署長へ提出し、事業の廃業を届け出なければなりません。
➡「届出の区分」に「廃業」を選び、事由は「死亡」と記載します。
提出期限は、死亡から1ヶ月以内です。
所得税の青色申告の取りやめを届け出る
死亡した個人事業者が、青色申告の承認を受けていた場合、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出します。
➡提出期限は翌年の3月15日です。
従業員に給与の支払いがあった場合
亡くなった個人事業者が、給与支払事務所等の開設の届出をしていた場合、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」により廃止を届け出なければなりません。
➡提出期限は廃止(死亡)から1ヶ月以内です。
準確定申告して納税する
個人事業者は、1月1日から12月31日までの1年間の所得を計算し、翌年2月16日から3月15日までの期間に所得税の申告と納税をしなければなりません。
➡個人事業者が年の途中で死亡したとき、相続人はその年の1月1日から死亡した日までの所得と税額を計算し、4ヶ月以内に申告・納税をしなければなりません。
これを準確定申告といいます。
❏消費税関係
個人事業廃止の届出
亡くなった個人事業者が課税事業者であった場合、被相続人の死亡後、相続人はすみやかに管轄の税務署へ「個人事業者の死亡届出書」を提出してください。
2.事業を引き継ぐ人(相続人)に関する手続き
亡くなった個人事業者の業務を引き継ぐ場合でも、前述したとおり被相続人の事業に対して廃業、取りやめ、廃止等を申請することになっています。
つまり、事業を承継する場合には、相続人は新たな申請が必要です。
❏所得税関係
個人事業開業の届出
「個人事業の開業・廃業等届出書」により開業の届出を、被相続人の死亡後1ヶ月以内に管轄の税務署へ提出します。
ただし、相続人が既にほかの事業を行っている場合は、新たに届出をする必要はありません。
所得税の青色申告の届出
亡くなった個人事業者が青色申告の承認を受けていたとしても、相続人へその効果は引き継がれません。
したがって、後継者である相続人が青色申告の承認を受けたい場合には、新たに「青色申告承認申請書」の提出が必要です。
ただし、相続人がほかの事業を行っていて既に青色申告の承認を受けている場合は新たに申請する必要はありません。
また、青色申告承認申請書の提出期限は以下のように定められています。
なお、亡くなった個人事業者が白色申告者で、後継者が青色申告をする場合は、上記の表の提出期限は適用されません。
白色申告者である被相続人の死亡日が1月1日から1月15日までであれば、青色申告承認申請書の提出期限はその年の3月15日まで、死亡日がそれ以降の場合は、死亡日から2ヵ月以内に申請することになっています。
亡くなった個人事業者が、青色申告をしていたのか、白色申告であったのか、また、後継者が既に事業を行っているか、などの関係性により新たに青色申告の申請が必要か否か、また申告期限が異なりますので注意してください。
家族が事業を手伝っている場合の届出
亡くなった個人事業者の親族が、事業に従事していて「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していた場合には、後継者は、新たに提出する青色申告承認申請書と同時に、「青色事業専従者給与に関する届出書」の届出も行います。
なお、後継者が事業を引き継いだことにより新たに「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出することになった場合は、その年の3月15日まで、若しくは相続開始が1月16日以降の場合は、2ヵ月以内の提出が必要です。
従業員に給与の支払いがある場合
後継者が事業を引き継いだ際、従業員を雇用して給与の支払いが発生する場合は、「給与支払事務所等の開設届出書」を新たに提出しなければなりません。
提出期限は、被相続人の死亡から1ヶ月以内です。
❏消費税関係
消費税の課税事業者だった場合
課税期間の基準期間において、課税売上高が1,000万円を超える事業者は課税事業者となります。課税期間とは、個人事業者の場合、原則、暦年(1月1日~12月31日)を指し、基準期間は対象年の前々年を指します。
亡くなった個人事業者が、消費税の課税事業者であって、後継者も課税対象事業者となる場合は、速やかに「消費税課税事業者届出書」の提出をします。
免税業者があえて課税業者になる選択
免税業者が、あえて課税業者となる選択をする場合に「消費税事業者選択届出書」を提出します。
本来、前々年の売上が1,000万円以下であれば免税業者となり、業務で受け取った消費税の納税は免除されます。
しかし、あえて「消費税事業者選択届出書」を提出することで、課税業者となる選択をしたほうがいい場合があります。あえて課税業者になるメリットは、消費税の還付が受けられることです。
課税業者は売買で受け取った消費税の納税義務がありますが、課税期間において、受け取った消費税より支払った消費税が多い場合には、その差額が還付されることになっています。
たとえば、55,000円分の商品を仕入れて(内5,000円消費税)、33,000円分しか売れなかった(内3,000円消費税)場合、消費税5,000円ー3,000円=2,000円が還付される仕組みです。
事業の業態によって、免税業者があえて課税業者になる選択をする場合に提出する書類です。
提出期限は、相続のあった年の12月31日です。
しかし、この方法で一旦、課税業者となることを選択すると、2年間は免税業者へ戻れません。長期的な予測をした上で慎重な対応が必要でしょう。
まとめ
個人事業者の事業を相続する場合、被相続人の事業に関する権利は後継者に引き継がれませんので、後継者である相続人は、新たに届出をし承認を受けなければなりません。
相続に関する手続きは煩雑で複雑なことが多いため、時間を要してしまうこともありますが、書類の提出期限によっては、早々に手続きが必要なものもあります。
手続方法がわからない、時間がないなどの場合は、相続専門の専門家である「ソレイユ相続相談室」へ依頼することを検討してみましょう。