更新日/2022年2月24日
「生前贈与を受けたけど、借金が多いから相続放棄をしたい」
このような悩みを抱えている人はいませんか? 生前贈与の中でも、特に相続時精算課税は相続税が関係する贈与方法です。そのため、相続時精算課税で財産をもらったことがある人は、相続放棄をできないのではないかと考える人も多くいます。
今回は、相続時精算課税を利用して贈与を受けた人でも相続放棄をすることができるのか、についてご説明します。相続時精算課税を利用して贈与を受ける人・贈与をする人は、あらかじめ相続放棄について確認しておきましょう。
❏相続時精算課税を利用しても相続放棄は可能
相続時精算課税を利用して贈与を受けた場合でも、相続放棄をすることはできます。
相続時精算課税とは?
相続時精算課税とは、60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与で、最大2,500万円までであれば贈与税がかからない制度です。2,500万円を超える部分については、一律20%の贈与税が課税されます。
相続時精算課税では大きな金額を贈与税をかけずに渡すことができますが、その代わりに相続税がかかる点が特徴です。相続時精算課税を利用して贈与された財産は、贈与者が亡くなったときに相続財産に加え直してから相続税を計算する仕組みになっています。
そのため、この制度は節税目的というよりも、事業用財産やアパート経営の引き継ぎなどで利用されるケースが多いです。
相続放棄とは?
相続放棄とは、亡くなった人の財産を一切相続しない方法です。亡くなった人に多額の借金がある場合や、誰も使っておらず管理もしていない、いわゆる「負動産」がある場合などに利用されます。
ただし、借金などのマイナスの財産だけでなく、預金などのプラスの財産も相続できなくなってしまうため、相続放棄の選択には慎重な調査が必要になります。
相続時精算課税を利用して贈与された財産は相続税の課税対象となるため、一般的には相続の前倒しとして扱うこともできます。そのため、相続時精算課税を利用している人・利用を検討している人の中には、以下のように考える人も多いのではないでしょうか。
「相続時精算課税を利用すると、贈与者が亡くなったときに相続放棄ができなくなってしまうのではないか。」
相続時精算課税を利用した財産は、税法上は「相続財産」として扱われますが、民法上は「放棄の対象となる相続財産」には該当しません。そのため、相続時精算課税を利用して財産を受け取った人でも相続放棄をすることができるのです。 ただし、相続時精算課税で受け取った財産は相続で取得したものとされるため、相続放棄をしたとしても、受け取った贈与財産に応じた相続税が受贈者に課税されることになります。
❏相続時精算課税を受けた人が相続放棄をする場合の注意点
相続時精算課税を受けた場合でも相続放棄を行うことができますが、あらかじめ注意しておかなければならないこともあります。
ここでは、相続時精算課税を受けた人が相続放棄をする場合の注意するべき点をご説明します。
【注意点】借金の支払いを逃れるための贈与は取り消される可能性がある
相続時精算課税を利用した場合で、亡くなった人が贈与をする時点で既に債務超過の状態にあった場合には注意が必要です。債権者から意図的に請求を逃れるための贈与であったと認められる場合には、詐害行為取消権により、贈与自体が取り消される可能性があります。
例えば、Aさんは父から相続時精算課税を利用して、評価額2,000万円の甲土地を受け取りました。しかし、父は贈与の時点で多額の借金を抱えており、借金の債権者から甲土地を差し押さえられる予定でした。父は、甲土地の差し押さえを防止するために、財産隠しとしてAさんへ甲土地を移転したのです。
このような財産隠しを認めてしまうと、債権者は貸したお金を取り戻すことができなくなってしまいます。そのため、このように財産隠しを目的とした贈与は「詐害行為」として、取り消しを請求することができることになっています。
債権者によって詐害行為取消権が行使されると、Aさんへ贈与された甲土地は父の名義に戻り、差し押さえが実行されます。
なお、詐害行為取消権は、受贈者の相続放棄までを取り消すことはできません。ただし、贈与財産を手放すことになりますから、債務超過状態での贈与には十分に注意しましょう。
❏相続放棄をする場合の手続き
相続放棄の手続きには期限があり、亡くなった人の相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に所定の書類を提出して行わなければなりません。主な必要書類は以下のとおりです。
【相続放棄の必要書類】
・相続放棄の申述書
・亡くなった人の住民票の除票または戸籍謄本
・相続放棄をする人の戸籍謄本
この他にも、相続放棄をする人が誰なのかによって、追加で必要となる書類が異なります。相続放棄の申述をする前に、申述先の家庭裁判所へお問い合わせください。申述先は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
なお、相続放棄の申述をしたからといって、必ず相続放棄が認められるわけではありません。申述書の内容や、必要書類の提出後に家庭裁判所から送られる「照会書」の回答によっては、相続放棄が認められない可能性もあります。一度申述が却下されると、もう一度相続放棄を申述することができませんので注意しましょう。
相続放棄が認められると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が交付されます。これで、相続放棄の申立ては終了です。
相続放棄申述受理通知書は、亡くなった人の債権者から支払い請求がされた際や不動産の相続登記をする際に必要となりますので、大切に保管しておきましょう。
❏まとめ
今回は、相続時精算課税を利用して贈与を受けていたとしても、相続放棄をすることはできるのか、についてご説明しました。
亡くなった人に借金などのマイナスの財産が多い場合には、相続放棄は便利な方法のように思えますが、相続放棄は誰にでも当然に認められるものではありません。
財産を残す側も残される側も、相続に関して不安がある場合には、まずは相続に詳しい専門家に相談することをお勧めします。
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