自身に相続人がいない、いわゆる「おひとりさま」の相続対策として、誰かと養子縁組を考える方が意外といらっしゃいます。しかし、「おひとりさま」の相続対策は、養子縁組だけではありません。 ここでは、相続人ではない人に財産を承継する5つの方法を具体例で解説します。

1.相談内容

2.課題の整理

3.認知症対策と財産承継対策を解決する5つの方法

4.生前贈与・遺言・家族信託を組み合わせたご提案

5.まとめ


1.相談内容

Aさんの姉Bさんは子どもがいない、いわゆる“おひとりさま”です。

Bさんは、「Aさんの次男を養子に迎え、財産を継いでもらいたい。また、老後の生活の支えになってほしい」とAさんに伝えました。Aさんは複雑な思いです。はたして、相続対策として「養子縁組」は本当に必要なのでしょうか?他にどんな方法があるのか―。「相続無料相談会」にみえました。

 

 

 

2.課題の整理

Aさんが気になっていることは、次の4つのことに整理されました。

 

① おひとりさまの姉Bさんの相続人は誰か

姉Bさん死亡時の相続人は、弟のAさんのみです。名義変更等の相続手続きは簡単に行えるでしょう。

注)もし、被相続人に子ども(第一順位)や父母・祖父母(第二順位)がいれば、兄弟姉妹は相続人になりません。

 

② 上記①で相続した場合、Aさんの相続税はどうなるのか

相談者Aさんは、姉Bさんと同じくらいの財産をお持ちです。姉Bさんの財産を相続するとAさんの相続税は大きくなります。姉Bさんのすべての財産を次男が相続することは、Aさんの相続対策になります。

 

③ Aさんが姉Bさんより先に亡くなっている場合

姉Bさんの相続時、「遺言」がないとすれば、「遺産分割協議」が必要です。

相続人のAさんの息子(長男・次男)同士で揉めてしまい、相続手続きが姉Bさんの希望とは異なる形になるかもしれません。

 

④姉Bさんが病に臥せたり認知症となった場合

姉Bさんの預金や株を現金化できなくなり(資産の凍結)、医療費や施設入居費に充てられなくなります。

 

 

3.認知症対策と財産承継対策を解決する5つの方法

 

① 養子縁組制度の利用

② 生前贈与の利用

③ 任意後見制度の利用

④ 遺言の作成

⑤ 家族信託の利用

 

① 養子縁組制度の利用

● 姉BさんとAさんの次男(甥)が「養子縁組」をすると、甥が財産を相続人として承継できます。

● 相続人は養子となった甥のみです。

 

② 生前贈与契約の利用

● 毎年110万円の非課税枠内でAさんの次男(甥)に贈与します。姉Bさんの年齢を踏まえても、贈与できる年数が確保できると考えられます。

少しずつ財産を甥に移していくことで、相続時の財産額が減るため相続税の節税になります。
※Bさんが毎年生前贈与をしていた場合、判断能力がなくなってしまうと以降の暦年贈与はできなくなります。
● 「相続時精算課税制度」を利用し2,500万まで一括贈与が可能
相続時精算課税制度は、姉Bさんと甥は養子縁組し相続人の立場に甥がいることが条件です。

 

③ 任意後見制度の利用

認知症などで判断能力が衰えてしまったとき、家庭裁判所へ申立てすることによって開始する制度。

任意後見契約を姉BさんがAさんの次男(甥)と判断能力があるときに契約します。
● 施設への入所契約や病院への入院契約など、甥が行えます。
● 日常のお金の管理を甥が行えます。
(たとえば、年金の受取りや諸経費の支払などの手続き)

 

④ 遺言の作成

● 姉Bさんが甥に全財産を遺贈する「遺言」を書く。

● 養子縁組をしなくても、遺言に全財産を甥に渡す旨を記載することで、信託財産以外の財産について、甥に承継させることができます。(甥の相続税は2割加算)
「遺贈」・・・相続人以外に財産を遺す場合は「遺贈」となります。

 

⑤ 家族信託契約の利用

姉Bさんが、今まで通りの生活を送れることを目的とし、財産の承継まで家族信託契約で設定します。

※Bさんの判断能力が低下したとき、甥が生活費の支払いや、預金や自宅の管理ができます。

委託者兼受益者が姉Bさん、受託者は甥で自宅と退職金と年金を除いた金融資産を信託財産とします。

● 姉Bさんが亡くなるとき、託していた信託財産の帰属先を甥に設定することで、遺言の役割を果たします。
家族信託契約は任意後見制度と比べると、家庭裁判所の許可を待たずに「財産の運用」や「処分」が行える点がメリットです。

 

 

4.生前贈与・遺言・家族信託を組み合わせたAさんへのご提案

 

 

 

5.まとめ

いかがでしたでしょうか。

「おひとりさまの老後」をお考えになる方は、きっとお元気でポジティブだからこそ、財産についても何が良いだろうかと思案されるのではないでしょうか。
事例では、一人暮らしのBさんは、弟Aさんの次男(甥)を養子に迎えて財産を継がせたいと考えていましたが、Aさんがそれを望んでいなかったために別の方法でBさんの生活の安定とスムーズな財産承継できる方法をご提案できました。

 

Bさんは、養子縁組をせずに、家族信託と遺言を組み合わせることで、生活面と次男への財産承継のお悩みが解決できました。さらに、生前贈与を利用することで、相続税の節税対策も同時に行うことができ、3人の気持ちにも余裕が生まれ安心した生活を送り始めました。

 

もし、子どもがいないことで老後の生活や相続のことが心配な方は、一人ひとりの状況や環境により必要な対策が違ってきますので、是非相続の専門家にご相談することをお勧めします。

 


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この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。