更新日/2022年8月31日

相続税の延納に関して 相談をうける夫婦の手元

相続税は、相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に現金一括で納付することが原則です。
しかし、相続した遺産に金融資産が少なかった場合に納税者個人の金融資産を合わせても相続税の現金一括納付が困難な場合には、土地や建物など不動産を売却することで、相続税の資金源としたいケースがでてきます。
しかし、不動産の売却が思うように進まず、現金が用意できないまま相続税の納付期限を迎えてしまう場合には、延納申請をすることができます。
延納の許可が下りれば、分割で相続税を払うことが可能となります。本記事では、相続税の延納申請について解説します。

相続税納付のための資金が準備できないときの延納申請

相続税は、10ヶ月以内の現金一括納付が原則です。
しかし、相続財産と自己資金を合わせても期限までに相続税の支払いができないときは、納税者の申請により、納付困難な金額を限度として延納が認められる場合があります。

延納申請のための4つの要件

次のすべてを満たす場合に、延納の申請が可能です。
1.相続税額が10万円を超えること
2.金銭納付が困難な事由があり、かつその納付困難な金額の範囲内であること
3.相続税の納期限までに、延納申請書を提出すること。
4.延納税額および利子税額に相当する担保を提供すること。
  ただし、延納金額100万円以下、延納期間3年以下の場合は、担保提供の必要なし。

なお、延納申請をしたからといって延納が無条件に認められるわけではありませんので注意してください。
また、原則、延納申請書の提出後、3か月以内に延納の許可または却下の判断がされて納税者へ通知されます。
延納が許可された場合は、相続税は分割払いとなり、利子(利子税)とともに延納期間中、年に1回ずつ支払っていきます。
延納可能な期間や利子の利率は、相続した財産の種類により異なります。

担保として提供できるもの

延納の担保として認められるものは、次のものに限られています。

1.国債、地方債
2.社債、その他有価証券で税務署長が確実と認めるもの
3.土地
4.建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
5.鉄道財団、工場財団など
6.税務署長が確実と認める保証人の保証

なお、担保として提供できるものは、相続や遺贈により取得したものでなくても構いません。相続人の個人の資産、共同相続人または第三者が保有している財産も認められています。

延納が認められる金額

納付すべき相続税のうち、延納申請ができる金額を延納許可限度額といいますが、どのように計算されるのか、次の例で確認してみましょう。


A.納付すべき相続税額:1,000万円
B.納期限において保有する現金、預貯金、その他換金が容易な財産の価額相当額:500万円
①延納申請者および、その家族の3ヶ月分の生活費: 90万円
②延納申請者の事業継続のための1か月分の運転資金: 10万円
C.納期限に金銭で納付が可能な金額
B-(①+②):500万円-(90万円+10万円)=400万円
D.延納許可限度額
A-C:1,000万円-400万円=600万円

要するに、納税者の金融資産のうち、当面の生活費と事業資金を確保し、残りは納税資金。そこから納付すべき相続税に足りない額が、延納許可限度額となるわけです。

延納許可後の繰上げ納付はできる?

延納の許可を受け、分割にて相続税を納付している期間中に、不動産等の売却により資金に余裕ができた場合には、相続税の繰上げ納付をすることができます。
繰上げ納付は、残りの納税額全額でも、一部のみでも可能です。
繰上げ納付のメリットは、延納にかかる利子税を払わなくてすむことです。
延納期間は長いもので20年と設定されていますので、早めに返済すれば利子税分の節税効果は高くなります。

延納の支払いが困難になったら「物納」の選択

繰上げ納付とは反対に、延納の許可を受けて相続税の分割納付している期間中に、何らかの理由で延納による現金納付が困難になってしまう場合もありえます。
その場合、納税者の申請により、「物」で税金を納めることができます。
これを「物納」といいますが、物納の申請は、相続税の申告期限から10年以内であることが要件ですので留意してください。

延納申請の取り下げはできる?

延納申請を行った後、許可が下りる前に不動産などの売却が整い、納税資金の確保ができた場合には、延納申請を取り下げることができます。
ただし、自ら延納申請を取り下げる場合には、相続税の申告期限から延納を取り下げて相続税を納付する日までの日数に応じた延滞税を払わなければなりません。

まとめ

相続税は、10ヶ月以内の現金納付が原則です。
現金での納付が難しい場合には、延納申請を行うことが可能です。
延納が許可されれば、相続税は分割払いとなり年1回、利子とともに納税します。
延納は、納税者の個人的な事情で選択することは認められていないため、必ず利用できる保証はありませんが、納期限までに現金一括納付が難しいと予想される場合には、延納申請書の準備をしておいたほうが安心です。

延納が許可された後も、資金に余裕ができれば「繰上げ納付」ができること、また、延納の許可前に納税資金が確保できれば「取り下げ」もできます。
なお、相続税には様々な控除がありますが、控除を正しく使えていなかったり、知らなかったりすることで相続税を多く申告してしまい納めなくていい税金を納めてしまうことがあります。

相続税の申告に不安がある方は、「ソレイユ相続相談室」へ相談することを検討してみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。