更新日/2022年9月30日

相続税申告は原則、被相続人が亡くなられた日(もしくは亡くなられたことを知った日)の翌日から起算し、10か月以内に行う必要があります。申告期限内に提出ができない場合には無申告によるペナルティとして税金が加算されてしまうため、対象となる方は急いで申告の準備を進める必要があります。しかし、ここで一度立ち止まってみましょう。

相続税申告には相続税を計算する必要がありますが、被相続人が「生前贈与」を行っている場合は贈与分も含めた相続税計算が必要です。しかし、過去の贈与の実態がわからない場合には、計算ができなくなってしまいます。そこで、この記事では相続時申告時に可能となる「過去の贈与税の申告の開示請求」について解説します。

相続税の申告になぜ「生前贈与」を含めて計算が必要?

相続税の申告時には、被相続人が生前時に行った「生前贈与」についても含んで計算を行う必要があります。しかし、全ての生前贈与が申告時に必要なわけではありません。対象となる生前贈与は以下のとおりです。

○相続開始前3年以内に行われた生前贈与

被相続人が亡くなると相続が開始されますが、相続開始前3年以内に行われた贈与に関しては、相続財産と判断する必要があります。利用される方の多い「暦年贈与」のケースを使って解説します。

暦年贈与(1年間のうち、贈与税が110万円以下なら贈与税がかからないしくみ)

<例>
 被相続人が亡くなるより3年前から相続開始年に毎年100万の贈与が行われていた場合は、相続税時にはどのように申告する必要がある?

 本来なら贈与税の非課税枠に収まる贈与ですが、100万×3年分である300万も相続財産に加算して相続税申告を行う必要があります。

○相続時精算課税の適用を受けた生前贈与

生前贈与の中には、暦年贈与とは別に「相続時精算課税制度」と呼ばれるしくみがあります。

この制度を使って被相続人が贈与を行っていた場合、生前に受けた贈与はすべて相続税申告に加算する必要があります。暦年贈与のように相続開始前3年以内に期間は絞らないので注意が必要です。

○過去の贈与がわからない!こんな時はどうする?

上記で解説のように、相続税申告の際には対象となる過去の贈与に関しても相続財産に加算の上で申告に臨む必要があります。申告の際には過去の贈与時における評価額を把握し、相続財産に加算します。暦年贈与の場合なら過去3年間の贈与を調べればわかりますが、相続時精算課税制度の場合は制度利用開始以降の贈与をすべて申告する必要があります。また、以下に挙げるケースのように、過去の贈与が分からない場合もあります。

・相続人のうち贈与を受けた方が高齢者となり、過去に関する記憶があいまい
・引っ越しなどによって過去の贈与に関する申告書などを破棄・紛失している
・贈与を受けた方がすでに死去しており、過去の実態が把握できない
・贈与を受けた人が情報を隠してしまい、教えてくれない

相続税申告の期限はタイトなスケジュールにもかかわらず、過去の贈与を調べようとすると記憶がない、紛失、紛争などのトラブルに発展するケースもあるのです。しかし、正しく相続税申告を行う必要がある以上、過去の贈与税に関しては調査をする必要があります。そこで、「贈与税の申告内容の開示請求」という制度が設けられています。

過去の贈与税の実態は開示請求できる!贈与税の申告内容の開示請求とは?

過去の贈与税を調べて相続財産に加算する必要があっても、その実態がわからないことはよくある問題です。そこで、相続税の申告(または更正)を行う場合には、被相続人が行った贈与について、国税庁に対し開示を求めることができます。この制度を「贈与税の申告内容の開示請求」と言います。(相続法第49条)制度の概要は以下のとおりです。

参考資料はコチラ→ 国税庁HP [手続名]贈与税の申告内容の開示請求手続

○手続きができる方

センシティブな情報である贈与税については、いつでも誰でも開示請求ができるわけではありません。開示の請求ができる方は、相続または遺贈により相続財産を所得した方で「相続税の申告・更正の請求予定の方」に限られます。開示が決定すると、「相続法第49条第1項の規定に基づく請求に対する開示書」が届き、過去の贈与について知ることができます。

○請求できる時期

被相続人が亡くなられた年の3月16日以降です。

○提出先と必要書類

開示請求は「被相続人の住所地にある税務署」に提出します。
必要書類は以下のとおりです。


1.開示請求書

国税庁HPに、「相続税法第49条第1項の規定に基づく開示請求書」という書式がPDF で公開されています。被相続人から見てどういう続柄か、等を記載します開示請求対象者は「被相続人から生前に贈与を受けていた請求者以外の相続人」です。

開示請求書にセットする形で、以下2~4の中から用意できる書類を整えます。なお、手数料は不要です。

参考資料はコチラ→ 国税庁HP 「相続税法第49条第1項の規定に基づく開示請求書」PDF

2.遺産分割協議書の写し

相続人間で既に遺産分割協議が円満に終了している場合(全部分割)には、遺産分割協議書の写しを提出します。

3.遺言書の写し

遺言書がある場合には、開示請求者および開示対象者について書かれている遺言書の写しを提出します。

4.その他

遺産分割協議書や遺言書が無くても、開示請求者と開示請求対象者の戸籍謄本(戸籍抄本でも可能)でも開示請求ができます。

開示請求は完璧な制度ではない|知っておきたい注意点とは

相続税申告時に必要である過去の贈与に関する情報は、請求を行えば開示されます。しかし、開示請求は完璧な制度なわけではありません。以下に挙げるように注意点もあります。

開示された内容を、そのまま相続税申告の評価に使用できるか疑問がある

過去の贈与について情報が開示されても、開示書に載せられている情報はあくまでも過去の贈与時に申告された金額に過ぎません。相続税申告に必要な評価額として妥当なのか、きちんと調べ直す必要があります。

暦年贈与で110万以下だった場合は開示されない

開示対象者が過去に被相続人から受け取っていた贈与が、暦年贈与の110万枠以下だった場合、そもそも贈与税の申告対象外であるため情報はなく、開示されません。暦年贈与を受けていた相続人が情報を開示しないのであれば、紛争化する可能性もあります。

自身が受けた贈与に関しては開示請求できない

開示請求ができるのは自身以外の対象者に限っており、自身の贈与に関しては開示請求ができません。自身が過去の贈与についての書類を紛失してしまっても、開示請求はできないのです。別の方法で開示を求める必要があります。(申告書等閲覧サービスや、個人情報開示請求)

まとめ 相続税の申告に備え、贈与時から準備進めよう

相続税申告は過去の贈与に関しても解説のとおり、相続税の課税対象として申告をする必要があります。実際の納税に関しては、贈与税と相続税の二重払いにならないように贈与税は控除されます(※)が、 申告時には正しい計算を行う必要があるのです。正しい申告は行われないと、税務署による「税務調査」を受けてしまう可能性があります。

(※)詳しい記事はコチラ→「贈与税額控除について学ぼう!制度のしくみや計算方法を詳しく解説」

贈与の段階では相続を意識しにくいかもしれませんが、生前の段階から家族が一丸となって相続に備えておくことがおすすめです。贈与の記録はたとえ110万枠内の暦年贈与であってもきちんと残しておくこと、相続が争族にならないように準備を進めることが、相続税申告を円満に乗り越える秘訣です。

「ソレイユ相続相談室」では、過去に贈与がある場合の相続税申告をはじめとしたお悩みについて、ご相談に対応しております。ご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。