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相続時精算課税の選択適用にあたっての留意点
相続時精算課税を選択する際に検討しなければならない事項をあげてみました。相続時精算課税制度は生前贈与で次世代に財産を移行するのに便利ですが、メリットばかりではありませんので、よくよく検討されたうえで実行してください。
(相続税)贈与財産の値下がり
相続時精算課税を適用した贈与財産について、その後、贈与者の死亡の時までに価値が下がったり、消滅してしまったとしても贈与者の相続税の計算は贈与時の価額にて計算されます。こういった場合には生前贈与するより、将来価格が下がったところで相続する方が有利な場合があります。また、贈与財産が貸家などの収益物件の場合、その収益による資産の増加なども考慮する必要があるかもしれません。
(相続税)受贈者が先に死亡してしまう場合の想定
相続時精算課税制度により贈与を受けた者(子や孫)が贈与者(父母や祖父母)よりも先に死亡してしまう可能性があります。このような場合には、その受贈者(子や孫)が有していた相続時精算課税に係る納税の権利又は義務は、その受贈者(子や孫)の相続人が承継することとなります。万が一、このような状況になってしまった場合も想定してその贈与者(父母や祖父母)の相続税を何パターンか試算しておきましょう。
(相続税)小規模宅地等の特例が適用できない
居住用や事業用の宅地等を相続時精算課税により贈与する場合には、贈与者の相続税を計算する際にその宅地につき小規模宅地等の特例(その宅地の評価額を50%又は80%減額することができる特例です。税額に大きく影響します。)の適用をすることができません。従って贈与時の評価額がそのまま課税対象になります。
(相続税)相続税の課税対象となる期間
相続時精算課税を適用した場合には適用後に係る過去の贈与はすべて相続財産を構成しますが、暦年贈与の場合には相続開始前3年以内の贈与財産のみとされています。
(相続税)孫を受贈者とする場合、相続税が2割増し
相続時精算課税制度により贈与した者の相続税の計算上、推定相続人でない孫が相続時精算課税により取得した財産にかかる相続税については20%増しとなります。
(相続税)物納不適用となってしまう
相続時精算課税制度により取得した財産については、その贈与者の相続税納税時に物納を選択することができません。相続税の納税資金が不足する場合には要注意です。
(贈与税)年齢の確認時期
相続時精算課税制度は60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫への贈与に適用することができますが、年齢の判定時期は、その贈与があった年の1月1日時点です。
(贈与税)暦年贈与課税には戻れない
相続時精算課税制度を選択した後は、その贈与者から受ける贈与については暦年贈与による非課税(年110万円)を受けることができません。従って、その後に財産の贈与を受けた場合には、例え110万円以下のものでも贈与税の申告をしなければなりません。長期間にわたって生前贈与する場合、税額だけでなく申告事務も大きな負担となる場合があります。ただし、それ以外の者からの贈与は暦年贈与によることができます。
(贈与税)みなし贈与への適用
実質的に贈与と同様の経済効果が生じる「みなし贈与」についても相続時精算課税を適用することができます。例えば、時価6,000万円の不動産を子に2,000万円で譲渡した場合、低額譲渡として時価と対価の差額4,000万円がみなし贈与の対象となります。暦年贈与課税であれば1,530万円の贈与税負担ですが、相続時精算課税を選択すれば300万円の贈与税負担とすることができます。一時的な現金流出を防ぐことができます。
(贈与税)期限後申告
相続時精算課税制度の2,500万円の特別控除を受けるためには贈与税の申告書を期限内に提出しておかなければなりません。期限後申告となった場合には贈与財産の評価額そのものに一律20%の税率で贈与税が課税されます。なお、期限後申告であっても翌年以降へ未使用の特別控除額を繰り越すことはできます。
(その他)書類の保管
相続時精算課税制度により取得した贈与財産は、その贈与時の評価額により、その贈与者の相続税の計算に含まれます。当時の評価額がいくらであったのか、当時の贈与税申告書の控えや計算の根拠書類等を紛失してしまうと計算ができません。(閲覧請求や開示請求によって税務署で確認することはできます。)
(その他)流通税の負担
不動産の所有権移転による登記にかかる登録免許税について、贈与による場合には税率が20/1000、相続による場合には税率が4/1000となります。同じ不動産でも相続による移転の方が贈与に比べ、5分の1と安く済みます。また、不動産取得税についても贈与の場合には負担が生じますが、相続の場合には不動産取得税の負担は生じません。
(その他)遺留分や特別受益への配慮
相続時精算課税は相続税法の規定であり、この制度の適用を受けて適法に相続税と贈与税の計算をしたからといって、その贈与が遺留分減殺請求や特別受益の対象とならないわけではありません。相続時精算課税に限りませんが、贈与の際は遺留分と特別受益については常に考慮しておかなければなりません。