作成日2021年9月22日
相続しようとしている不動産には、良いものとそうでない物もあります。
少しでも知識を身に着け、正しい情報を得て、相続する不動産の価値を見極めたいですね。
(目次)
相続が発生すると、亡くなった方の財産や借金を調べて、相続するのか放棄するのか?
相続するなら、誰が何を相続して、借金は誰が相続するのかなども、決めなくてはなりません。
預金や株は金融機関の通帳や取引記録を見ると内容がわかります。
不動産の場合には、法務局で不動産の登記簿謄本=登記事項証明書を取得して見てみないと内容はわかりません。
不動産の登記事項証明書は、
預金や有価証券と違って、相続人でなくても誰でも法務局に出向くと取得できる公開情報です。
下記は登記事項証明書の見本です→法務省ホームページより
ご覧になってわかるように、不動産の登記事項証明書は
「表題部」「権利部(甲区)」「権利部(乙区)」の
3つの項目があります。
このうち、権利部(乙区)に抵当権の記載があったら要注意です。
ここの「権利者その他の事項」に誰がどこからどんな債務の借入をしたのかが書いてあります。
ここに記載がある場合にはさらに詳しく調べる必要があります。
①現時点で借金はいくら残っているのか
抵当権の記載があったとしても、現時点で借金が残っているかどうかはわかりません。
「抵当権設定」に関する記載事項にアンダーライン(下線)が引かれている場合には、当該抵当権の登記は抹消されて無くなっていることになります。
その下を見ると、「抵当権抹消」に関する記載があるはずですから、確認してみましょう。
それと、「債権額」の記載は、一番初めに抵当権を設定した時に、不動産にいくらの債務を担保するためにつけたかを表しています。
従って、その後返済をしていれば、相続発生時においては、借入額は減っている可能性が大きいです。
借入金の残高は、債務者となっている金融機関から残高証明を取り寄せることで明らかになります。
預金の調査の時にも残高証明はもらうので、その時に念のために借入金の残高証明も一緒にもらっておくと安心です。
抵当権が残っているのに借金が完済されている場合には、金融機関から抵当権抹消の書類を取り寄せて抵当権抹消の手続きをしておきましょう。
②住宅ローンなら団体信用生命保険を調べる
借入金が住宅ローンなら、その借入金に「団体信用生命保険」(団信)がついているか確認しましょう。
団信は債務者にかけられていて、債務者が亡くなった場合に残った債務を保険会社が弁済してくれる仕組みになっています。
団信の例
・保険金受取人 ⇒ 銀行(債権者)
・保険金額 ⇒ 保険事故発生時における住宅ローンの残額
⇒⇒相続開始と同時に保険金が銀行に支払われ住宅ローンは無くなります。
①相続放棄とは
抵当権を調べて借入金の残高がわかった場合には、その債務を相続するかどうか検討しなくてはなりません。
なぜなら、相続人は預金や株や不動産といったプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続することになるからです。マイナスの財産だけを放棄することはできないのです。
プラスの財産を上回る借金(負債)がある場合には、相続放棄を検討し、放棄する場合には、原則として相続開始から3ケ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申し出を行わなければなりません。
相続放棄を判断する時間は3ケ月と短いので、
早めに相続専門家に相談して財産と負債を正確に調べることが必要です。
②相続して借金を返すことも
相続により抵当権と共に借入金を相続することもあります。
ただし、借入金の相続については金融機関の承認も必要になります。
また、賃貸アパートを相続してアパート経営を継続する場合、相続人がその借入金の連帯保証人となっていれば借入金は引き継がざるを得なくなります。
不動産の価値が借入金残高より高い場合には、売却して借入金を返済して手取り収入を得ることもできます。
この場合には、手取り収入が大切ですから、譲渡所得に対する節税策を事前に検討しておくことが必要です。
相続と譲渡所得に強い相続専門の税理士に早めに相談しましょう。
①借入金(債務)は控除できます
相続税の計算は大まかに言うと下記のようになります。
純財産 - 相続税の基礎控除 = 課税財産
※相続税の基礎控除
例
夫婦と子ども2人の4人家族で夫が亡くなった場合
3000万円 + (600万円 × 3人) = 4800万円 ⇒ 相続税の基礎控除
上の計算式を見ていただくとわかるように、借入金(債務)は控除されるので、
借入金(債務)があると課税財産を減らすことができるのです。
②団体信用生命保険(団信)の場合は
借入金は相続税の債務控除の対象となりますが、
団信のついている借入金の取り扱いは、相続人が債務の負担をすることにはならないことから、
団信により返済が免除される借入金については、相続税の債務控除の対象とはなりません。
③控除しきれない債務に注意
例えば、Aさんが相続税評価額5000万円の不動産と7000万円の債務を相続したとします。
Aさんの課税価格は、5000万円-7000万円=△2000万円となり相続税は発生しません。
もう一人の相続人Bさんは、預金を7000万円もらっていて、7000万円が課税対象になっているとします。
Aさんの控除不足の2000万円を、計算上Bさんにつければ、
Bさんの相続税を安くすることができるように思えるのですが、これはできないのです。
上記の全体の相続税の課税の計算式と、個々の相続税の課税の計算式は違うので間違いやすいところなのです。
計算上、控除するだけでは相続税の債務控除は受けられないので、
実際にBさんは2000万円の借金を負担しなければ控除が受けられません。
相続後に行う財産調べで、不動産については、不動産の登記簿謄本を必ず調べて抵当権がついているか確認してください。
もし、抵当権がついていれば、実際の借入額を調べるとともに、他の財産も調査して、相続開始後3ケ月以内に相続放棄をするかどうかの判断も必要になってきます。
いずれにせよ、財産の評価は相続税の問題も絡んできますから、
なるべく早く相続専門の税理士法人に相談して、借入金をどうするのか相談することをお勧めします。