作成日2021年9月16日
自宅は社会政策の中でも重視されている財産です。
そのために、自宅を相続した時にかかる相続税や、贈与した時にかかる贈与税、売った時に利益に対してかかる譲渡所得税など、課税に対する法律も、相続に対する法律も特別に用意されています。
そこで、この記事では自宅の相続で使える特例をいくつかご紹介します。
家庭の事情に合わせてうまく活用することで、節税だけではなく争族対策にもつながりますので、ぜひ参考にしてください。
(目次)
自宅を相続するために、様々な特例を活用して相続税や贈与税などの費用を抑えることができます。
自宅の相続で使える有効な特例には次のようなものがあります。
- 贈与税の居住用財産の配偶者2,000万円控除
- 居住用の小規模宅地等の特例
- 配偶者居住権を活用した節税
- 居住用財産の3,000万円控除
- 空き家の3,000万円特別控除
どのような特例なのか、詳しく見ていきましょう。
① 贈与税の居住用財産の配偶者2,000万円控除
この制度は、婚姻期間が20年以上の夫婦が対象です。
夫婦間で自宅や自宅を買うために必要なお金を贈与したとき、基礎控除110万円のほかに最大2,000万円までが控除されます。
例えば、自宅を相続で受け取ったとすると、自宅の評価額に応じた相続税がかかってしまいます。
しかし、相続が発生する前にこの制度を使って配偶者に自宅を贈与しておくと、贈与した分は相続税の課税財産に組み込まれないため、節税になります。
もちろん節税にも有効な制度ですが、メリットは自宅を生前に確実に配偶者に渡せる点です。
もし、自宅が生前に何の手当もなく相続(遺産分割)の対象となると、他の人が自宅を相続したい場合や自宅を売却して換金したい相続人がいた場合には、配偶者が自宅に住めなくなってしまう可能性もあります。
配偶者が安心して老後を過ごすためにも、この制度の利用検討の価値はあると言えます。
② 居住用の小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、簡単にいうと、亡くなった人の自宅に住む相続人がいる場合は、自宅の土地の評価額を最大80%減額することができるという制度です。
例えば、Aさんは夫と一緒に夫名義の自宅に住んでいます。
夫が亡くなった後、配偶者であるAさんが自宅を相続することになりました。
自宅の建っている土地の評価額が5,000万円だとすると、
小規模宅地等の特例を使って、5,000万円×(1−80%)=1,000万円まで評価額を下げることができます。
自宅の評価額が下げると相続税の課税価格も下がるので相続税が安くなります。
ただし、80%の減額が適用されるのは330㎡までの部分のみです。
小規模宅地等の特例は住んでいた土地に限らず、事業をしていた土地や貸している土地にも適用することができます。
それぞれ減額率や適用要件が異なりますので、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
③ 配偶者居住権を活用した節税
配偶者居住権は、令和2年4月1日にできた新しい権利です。
夫婦のどちらかが亡くなったときに、残された配偶者が亡くなった人が持っていた自宅に無償で住み続けることができるというものです。
以前は、夫婦のどちらかが亡くなったときに配偶者が自宅を相続すると、現金などの相続財産がほかの相続人に渡ってしまい、生活資金を確保できないという問題がありました。
配偶者居住権があると、自宅に住み続けながら生活費も確保することができるのです。
ただし、配偶者居住権は自動的に手に入るものではなく、次のいずれかにより取得する必要があります。
- 遺産分割
- 遺贈
- 死因贈与
- 家庭裁判所の審判
また、配偶者居住権を第三者に対抗するためには「登記」をしなければなりません。
なお、配偶者居住権は相続税の節税にも使うことができます。
配偶者居住権と節税については、こちらの記事で詳しく解説しています。
④ 居住用財産の3,000万円控除
これは、自宅を売ったときに、長期所有か短期所有かに関わらず、譲渡所得から最大3,000万円までを控除することができる特例です。
不動産を買った時よりも高い金額で売ったとき、その差益に譲渡所得が発生し、そこに税金がかかる仕組みになっています。
不動産を買ってから5年以内に売った場合は短期譲渡、5年を超えてから売った場合は長期譲渡となります。
短期か長期かによってそれぞれ税率が異なり、短期の方が税率が高くなります。
例えば、2,000万円(諸経費込、減価償却後)の自宅を4,000万円で売ったとします。
自宅の譲渡所得は4,000万円−2,000万円=2,000万円、居住用財産の3,000万円控除を利用すると、
譲渡所得2000万円-特別控除2000万円=譲渡所得0円となり、所得税を払わずに売ることができるのです。
なお、この特例に適用要件があるので詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
⑤ 空き家の3,000万円特別控除
亡くなった人が住んでいた家が、誰も住む人がいなくなって空き家になるケースは珍しくありません。
このような場合、空き家の3,000万円特別控除を活用すれば、空き家を譲渡して得た利益から3,000万円を控除することができます。
なお、この特例には、空き家を相続や遺贈により取得したことや、住んでいた人が亡くなった日から3年を経過した日の属する年の12月31日までに譲渡することなどの要件があります。詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
ここまで、自宅を相続する前後に使えるさまざまな制度をご紹介してきました。では、これらの制度はいったい何を基準にして活用するべきなのでしょうか?
1、誰が住むのか
まずは、自分が亡くなったあと誰が自宅に住むのかを考えましょう。
例えば、夫婦で夫名義の自宅で一緒に住んでおり、夫が先に亡くなった場合は妻が住み続けるとします。
この場合には、次の方法が考えられます。
①妻に配偶者居住権を設定して、そのまま妻が亡くなるまで住み続けてもらい、妻が亡くなった後は子どもに所有権を渡す方法
この方法は遺言を使う必要があります。
②夫が遺言か家族信託を使って、自分の死後も妻が住み続けるように手当をする方法
こうしておけば小規模宅地の特例もスムーズに適用できます。
③生前に妻に贈与してしまう方法
贈与税の配偶者特例を超える価値がある自宅の場合には、遺言や家族信託の組み合わせが必要になります。また、相続後に住むのが配偶者でない場合もあります。
例えば、自分が亡くなった後、一緒に住んでいた長男が自宅に住み続ける場合には、遺言か家族信託を使って長男名義になるように手当てしておいて、小規模宅地等の特例を活用して節税を実現することができます。
このように、自分が亡くなった後は誰が自宅に住むのかを考え、活用する制度を検討しましょう。
2.売却するのか
「自分が亡くなった後は自宅に誰も住まない」という場合もあります。
この場合、空き家の3,000万円控除を使って譲渡所得税を効果的に節税しましょう。
例えば、子どもたちはそれぞれ自分の自宅を持っているため、自分が亡くなったら自宅は空き家になってしまいます。
相続で空き家を取得したとしても、固定資産税や維持費がかかるだけのいわゆる「負動産」となってしまうケースが多くあります。
そこで、空き家の3,000万円特別控除を利用して自宅を売却し、売却して得たお金を子どもたちで分ける方法が有効です。遺言か家族信託で売却まで手当てしておくと、スムーズに進めることができます。
3.分割できない自宅をめぐって相続人が争いになるか
例えば、相続が発生したが、分割ができない自宅が遺産のほとんどを占めているようなケースがあります。
例えば、子どもが2人おり、そのうち1人が自宅で親と同居していたとします。
遺産である自宅を売って分割すると、同居していた子どもは家を失ってしまいます。
しかし、1人が自宅を相続すると、もう1人の子どもが遺産をもらえずに、不公平な思いをすることになります。
このような場合、遺言か家族信託で同居の子どもが相続できるように手当てしておきます。
同居している子どもは小規模宅地等の特例を活用して自宅を相続します。
さらに、同居の子どもが親の生命保険金の受取人になっておいて、もう1人の子どもに代償金を支払うことで、平等に遺産を受け取る計画ができればベストです。
自宅を相続したり譲渡したりする場合には、さまざまな制度を活用することができます。
相続税や贈与税の節税ももちろん大切ですが、
一番に考えるべきは「自分が亡くなった後に自宅をどうして欲しいか」を考えることです。
早いうちに遺言や家族信託を活用して、家族が相続争いに巻き込まれないような対策を取っておき、その中に節税計画も組み込んでおけばよいのです。
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