更新日/2022年9月28日
亡くなられたご家族(以下・被相続人)の相続財産を調査していると、海外に財産を有していることが判明するケースがあります。駐在時代に滞在していた国に財産をお持ちだった場合や、定年後にセカンドライフとして海外で暮らしていた場合などが考えられます。住所自体は日本にありながら、被相続人が海外にも財産を有していた場合には相続税はどのように扱うのでしょうか。
この記事では相続時に判明した、被相続人が所有する財産について焦点を当て、相続税の課税や海外の財産の評価方法について詳細を解説します。
目次
被相続人が海外の財産を所有していた:相続税はどうなるの?
被相続人の財産を相続するにあたっては、相続財産の調査が必要です。生前に所有していた現金や預貯金、有価証券や骨とう品はもちろんのこと、債務に関しても相続財産に該当します。相続財産の調査を進めていくと、被相続人が家族に財産を有していたことが判明するケースもあります。では、海外の財産に対しては日本国内の相続税はどのような扱いになるのでしょうか。
海外の財産にも日本の相続税はかかる
海外にお持ちの預貯金や不動産であっても、被相続人が所有する財産であることには変わりありません。そのため、日本国内の相続税は適用されます。被相続人が海外の財産を所有していることが判明したら、正しく財産の評価を行った上で相続税の申告を行う必要があります。
現地の相続税にも注意が必要
日本には相続税というしくみが導入されていますが、海外においてはどうでしょうか。海外の相続税に関してはその国によって考え方が異なります。
例えば、海外富裕層が多く移住しているシンガポールには相続税はありません。カナダ、ニュージーランドなど、海外からの移住者が元々多いエリアも相続税は設けていません。
一方で、経済大国アメリカには、遺産税と呼ばれる税金があり、日本の相続税に近しい制度として運用されています。このように国によって相続税(もしくは類似した税)に関する導入は異なっており、場合によっては国内・国外の相続税がかかり「二重課税」となる可能性があります。日本の相続税申告に備える前に、まずは二重課税とならないか海外の現地法についても調べる必要があるのです。
もしも相続税が二重課税となった場合にはどうする?
海外に財産があることが判明し、二重課税になるとわかったらどうするべきでしょうか。税金を二重に支払うとなると、相続人にとっては非常に重い負担となってしまいます。
そこで、日本の相続税には「外国税額控除」と呼ばれる制度が設けられています。二重課税が発生した場合に、外国で支払った相続税額を上限とし、日本国内の相続税から控除することができます。外国税額控除が利用できるのは、被相続人の遺した外国にある財産を相続もしくは遺贈によって取得した方、および日本国外の財産について現地の法律に沿って相続税を支払う方です。
なお、二重課税が発生しなかった場合には外国税額控除は適用されません。国内において海外にある財産を評価し、国内に相続税を納める必要があります。
海外の財産はどうやって評価するの? 相続税の評価方法とは
被相続人が海外に財産を有していた場合には、日本国内の相続税の対象になることがわかりました。しかし、日本国内にある財産ならすぐに今、どの程度の価値があるものかわかりますが、海外にある財産の価値はすぐにはわかりません。また、日本国内で相続税を申告する際には、海外にある財産を適正に評価する必要があります。では一体どのように評価を行えばよいのでしょうか。まずは、一般的に海外で発覚することが多い財産についてピックアップしてみましょう。
発覚することが多い海外における財産とは
被相続人が海外に滞在していたことがある場合には、以下に挙げる財産が発覚することがあります。
・海外の銀行にある預貯金
被相続人に駐在員や長期滞在などの経験があった場合には、現地の金融機関に口座をお持ちの可能性があります。定年退職後にセカンドライフとして住まわれていた方も、多くが海外に預貯金口座を有しています。この場合、銀行口座に預金がある場合には国内における預貯金と同様に解約し、相続手続きを進める必要があります。
・海外にある不動産
被相続人の中には海外に不動産をお持ちの場合があります。お住まいではなかった場合も投資目的で海外の不動産の権利を有しているケースもあるので注意が必要です。ハワイのコンドミニアムや人気の海外リゾート地に不動案を有しているケースもあります。もちろん、こうした不動産も相続財産です。
・海外の生命保険や有価証券
上記以外にも存在している金融資産として、生命保険や有価証券の存在も考えられます。
海外にある財産の評価方法とは
日本国内でこうした海外の財産を評価し、相続税の申告をする場合には、以下のような評価を行います。
・海外の銀行にある預貯金
海外の銀行に被相続人の預貯金があることが判明したら、「相続開始日時点の残高」で評価を行います。相続開始日時点のTTBレート(※1)を使用し、外貨預金を日本円に換算します。
(※1)TTBレートとは
TTBレートとは「Telegraphic Transfer Buying rate」の略語です。円と外貨を交換するときに使用するレートの1つで、外貨を円で引き出す際に使用するレートを指します。
・海外にある不動産
海外にある不動産の評価は、現地の売買実例価額や地価の公示制度に基づいた価格などを使って評価します。日本においては固定資産税評価額などが活用されますが、現地の実情に沿って評価をする必要があります。正しい評価の特定が難しいため、現地の不動産鑑定ができる方などに時価を算出してもらい、その評価資料を添付の上で相続税評価に臨むことが多いでしょう。為替の関係上、購入時よりも評価が高くなっている可能性もあるので注意が必要です。
・海外の生命保険や有価証券
現地での生命保険や有価証券は以下のように取り扱います。
■海外の生命保険…かつては相続財産ではなく一時所得として取り扱いましたが、現在はみなし相続財産にカウントし、日本国内同様に非課税金額の適用があります。(※2)
(※2)生命保険の非課税枠とは
生命保険は民法上「みなし相続財産」として取り扱いし、非課税枠があります。非課税枠は「500万円×法定相続人数」です。 海外の保険会社が、日本における保険業法の適用を受けていなくても非課税枠は適用されます。
■海外の有価証券…海外の有価証券は、財産評価基本通達に定められている日本における上場株式取引と同じような評価方法を適用します。原則としては課税時期における最終取引を評価基準にしますが、以下の中からもっとも低い金額での評価確定が可能です。
・課税時期における最終取引評価
・課税時期における月平均
・課税時期の前月の最終取引評価
・課税時期の前々月の最終取引評価
参考記事はコチラ→ 国税庁 外国の証券取引所に上場されている株式の評価
・その他の金融資産はどうなるの?
海外の投資信託や公社債などの購入が発覚した場合も、日本の金融商品と同様の方法で評価を確定させ、最後に日本円に換算して評価を確定します。
被相続人も相続人も海外に居住していた場合は、相続税はどうなる?
被相続人および相続人の双方が海外に居住しているケースもあります。この場合、被相続人および相続人の両者が10年以上海外に居住している場合には、外国の財産に関しての相続税は発生しません。(外国税額控除もありません)
まとめ
この記事ではなくなった家族が海外に財産を有していた場合の評価方法について、詳しく解説を行いました。海外にある財産が発覚すると、相続人の方々にとっては青天の霹靂で、一体どの様に相続税申告をしてよいのか混乱されるのではないでしょうか。相続税評価はケースに沿って正しく診断し、申告する必要があります。
もしも海外の財産が発覚し、手続きや評価に悩んだら、お気軽にソレイユ相続相談室にお問い合わせください。