更新日/2022年9月22日

イメージイラスト、男女が一緒に大きなじょうろでお花を水をあげている

「贈与税額控除」というしくみをご存じですか。このしくみは相続税を計算するときに発生する相続税と贈与税の二重課税について、相続人の納付負担増を減らすために行われる控除制度です。相続税と贈与税の支払いを軽減できるしくみであり、相続税の納付時に適正な計算を行って控除を申告する必要があります。

今回の記事では贈与税額控除に焦点を当て、制度のしくみや計算方法を詳しく解説します。

贈与税額控除とは

贈与税額控除とは、以下のようなしくみです。

被相続人となったご家族から生前に財産の贈与を受けた後、相続もしくは遺贈によって被相続人の財産を得た場合には、贈与税を払っているにもかかわらず、その財産も相続税の課税価格に加えて相続税が計算されてしまいます。一般的な暦年贈与の場合、対象となる贈与は相続開始前の3年以内です(相続時精算課税制度は異なる)。被相続人が亡くなった日より3年さかのぼった期間の中で贈与があった場合には加算されてしまいます。相続人からすると、贈与税も相続税も支払うことになり、重い税負担に直面します。

そこで、贈与時に支払った贈与税については適正な計算を行い、相続税の納付時に控除を申告します。このしくみを「贈与税額控除」と言います。

暦年課税を活用した贈与の場合はどうなる?

贈与の中には「暦年課税」と呼ばれる制度を活用した方法があります。この方法は広く知られている贈与方法です。

暦年贈与とは、その年の1月1日~12月31日までの1年間のうち、贈与税が110万以下に収めれば贈与税はかからないという方法です。110万以下に収めておけば贈与税の申告も不要です。

では、相続開始前3年以内に暦年課税による贈与が行われたら、どうなるでしょうか。

このケースは、贈与税は支払っていないのですが、贈与を受けた財産については相続財産に加算する対象となります(贈与税控除は対象外)。なお、110万を超える贈与を行って贈与税を支払った場合も相続財産に加算されてしまうため、贈与税額控除の対象です。そのため、過去3年以内に収めた贈与税を控除してもらうためには相続税納付時に申告し、控除します。

但し、対象となるのは以下の方のみです。

・被相続人の相続開始前3年以内に贈与を受けていた相続人(配偶者や子など)

相続人となるため、受けていた贈与についても加算の上相続税が計算される

・被相続人の相続開始前3年以内に贈与を受けていたが、相続人ではない(孫や兄弟など)

相続人ではないので相続税の計算は不要。但し、代襲相続や養子縁組によって相続人の対象となるケースもあるので注意が必要です。

贈与が祖父母から孫へ勧められる理由

相続対策では「祖父母が元気なうちから、お孫さんへ贈与」と勧められることがありますが、万が一贈与後3年以内に亡くなられてしまっても、孫は相続人に該当しないケースが多いからです。例として下記を紹介します。

【生前】祖父が亡くなる3年前に、孫に100万円の贈与を行った。
 【相続開始】祖父の死去後、配偶者の祖母と子2名が相続人となった。孫は相続人ではないため贈与  された財産については計上されなかった。

相続時精算課税制度の場合はどうなる?

贈与には「相続時精算課税制度」と呼ばれるしくみもあります。

この制度は60歳以上の父母や祖父母(直系尊属)から18歳以上の子や孫に生前贈与を行う場合に適用できる制度です。メリットとしては「最大2,500万円」までなら贈与税がかからない点です。2,500万を超えても上限なく一律20%までしか課税がなされないため、財産のバトンタッチを一気に行いたい場合にメリットが大きいと言えます。一方で、先に紹介しました暦年贈与との併用はできません。1度でも相続時精算課税制度を使ってしまうと、暦年贈与への切り替えは不可です。110万円以下の少額であってもこの制度を利用した贈与を行ったことを税務署に申告する必要もあるため、デメリットもあると言えるでしょう。

では、相続時精算課税制度を使って贈与された財産は、相続にどのように影響するのでしょうか。

相続時精算課税制度はそのメリットを活用して高額の贈与を行うケースもあり、贈与税を支払っている方が多くおられます。この場合、相続時精算課税制度を導入して以来受けてきた贈与は全て相続財産に加算されます。しかし、納めてきた贈与税がすべて贈与税額控除の対象です。相続税の納付時に申告を行えば贈与税額は控除できます。

贈与税額控除の適用ルールの違いとは

贈与には「暦年贈与」と「相続税精算課税制度」の2つの方法がある旨を解説しましたが、この2つに対して贈与税額控除を適用する場合には、以下のとおりルールが異なるため以下でまとめています。

暦年贈与への適用ルール

暦年贈与は相続開始前3年以内の贈与で収めていた贈与税については、その金額を相続税の金額から控除できます。ただし、相続税を超える贈与税を納めていた場合、控除ができなかった金額について還付金は発生しません。

相続時精算課税制度への適用ルール

相続時精算課税制度による贈与は暦年贈与と異なり、相続開始前過去3年以内の贈与に縛られません。相続時精算課税制度を開始してから納めた贈与税を合算し、相続税から控除することができます。収めていた贈与税がそれでもなお相続税を超える場合、控除しきれなかった分は還付されます。

相続税申告時には贈与税額控除を申告しよう!

相続税と贈与税という重い二重課税に悩んでいる方は、相続税申告時に正しく贈与税額控除を申告しましょう。贈与税額控除は残念ながらご自身でしっかりと申告をしなければ、二重課税のまま納付を行う必要が生じます。自動計算で勝手に控除をしてくれるものではないため、ご自身で申告する必要があるのです。もしも、贈与税額控除について相続税納付時には知らなかったなら、更正(※1)を行いましょう。

(※1)更正とは
納める税金が多すぎる、還付される税金が発生した場合などに、正しい納付額に訂正することを税務署側に求める手続きを更正と言います。相続税以外の確定申告の修正時などにも使用される用語です。

暦年贈与時の申告

暦年贈与の贈与税額控除の計算式を紹介します。

贈与税額の式は、「その年の暦年課税の贈与税額×相続税の課税価格に加算された贈与財産の価額÷その年分の贈与税の課税価額合計」にて算出されます。

まずは相続開始前3年分に収めた贈与税を把握し、上記計算式に当てはめて1年分ずつの計算を実施する必要があります。最後に3年分の合算を行うと贈与税控除額が決定します。

相続時精算課税制度時の申告

相続時精算課税分における贈与税額控除額は、これまでこの制度を活用し収めてきた贈与税の合算から、延滞税・利子税・過少申告加算税・無申告加算税・重加算税に相当するものを除いたものの総合計です。(相続税法第21条の15第3項、第21条の16第4項)

相続時精算課税制度では還付金が発生する可能性があります。還付金の計算式は以下の2つです。

1.「相続税額から控除ができなかった贈与税=還付金」

贈与の際に外国に関係する財産が無かった場合は上記式が該当します。

2.「相続税額から控除ができなかった贈与税―相続時精算課税分の贈与税額で控除した贈与税の外国税額控除額=還付金」

贈与の際に外国の財産があった場合は外国税額控除を受けていると考えられます。この場合あくまでも国内における贈与税額が対象となるため、還付金の計算時には外国税額控除が適用となった分を取り除きます。

まとめ

この記事では贈与税額控除について詳しく解説を行いました。なぜ相続時には祖父母から孫への贈与が推奨されるケースがあるのか、など具体例も踏まえて解説いたしましたが、いかがでしたでしょうか。

贈与税額控除については、暦年贈与と相続時精算課税によって異なります。相続税申告書内に正しい内容を記載して申告する必要があります。

複雑な計算や書類に戸惑うことも多いため、手続きや計算に迷ったらお気軽にソレイユ相続相談室にご相談ください。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。