作成日 2021年11月04日
目次
1.相続手続きの概要
相続が発生すると、亡くなった人の財産は相続人に引き継がれることになります。
遺言がある場合には、その遺言の内容通りに遺産分割をすることができるのですが、遺言がない場合や記載漏れのある遺言があった場合には、「誰が相続人になるのか」「亡くなった人が持っていた財産はどれくらいあるのか」を調査し、遺産分割協議という話し合いをして遺産を分割しなければなりません。
ここでは、相続が開始してから財産の名義が相続人に変更されるまでの手続きの流れについてご説明いたします。
①相続が開始したら、被相続人の遺言がないかを探します
遺言には主に自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があり、それぞれ保管場所が異なります。
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、亡くなった人が自らの判断で保管することになりますので、自宅の棚や貸金庫などから見つかる可能性が高いです。
秘密証書遺言は、作成の段階で交渉人に遺言の存在を証明してもらえるため、公証役場で遺言の有無は確認することができますが、遺言の内容までを確認することはできません。少なくとも遺言があることは確認できますので、隅々まで探しましょう。
また、自筆証書遺言の場合には、亡くなった人が生前に「法務局の保管制度」を利用している場合があります。
この制度を利用している場合は、法務局に亡くなった人の自筆証書遺言が保管されており、全国の法務局で遺言の有無を確認することができます。
遺言が保管されていることがわかったら、内容の閲覧や証明書の請求をしましょう。
公正証書遺言の場合は、作成時に遺言の原本が公証役場に保管されます。ですから、自宅や貸金庫を探して見つからなくても、全国の公証役場で亡くなった人の公正証書遺言を検索することができるのです。
公正証書遺言があることがわかったら、公証役場で遺言の内容を確認しましょう。
また、自筆証書遺言と秘密証書遺言が見つけた場合は、勝手に開封してはいけません。これらの遺言は、開封の前に「検認」という手続きを踏む必要があります。
検認とは、相続人に対して遺言の存在や内容を知らせるとともに、検認した時点での遺言の内容を明確にして、偽造や変造を防ぐための手続きです。検認をせずに遺言を開封した場合は、直ちに遺言が無効になるわけではありませんが、5万円以下の過料が科される可能性がありますのでご注意ください。
なお、公正証書遺言と法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言には検認の手続きが必要ありません。
②相続人・相続財産の調査をします
遺言がある相続では遺産分割の方法が指定されていますので、遺言の内容通りに名義変更等の手続きを進めることができます。
しかし、遺言がない場合には、相続人と相続財産を調査し、相続人間で「誰が、何を、どのくらい相続するか」を決める必要があります。
また、遺言がある場合でも、遺言に記載されていない財産が見つかる可能性もあります。
そのような財産の相続人を決めるためにも、相続人と財産の調査は漏れのないようにしっかり行なっておく必要があります。
亡くなった人の相続人は、亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得して特定します。
戸籍謄本とは、その戸籍に記載されている人の結婚・離婚などの身分関係について記されている公文書のことです。
取得した戸籍謄本を見て、法定相続人となり得る人を特定していきます。前妻との間の子も法定相続人に含まれますので、間違いのないようご注意ください。
亡くなった人の相続財産は、財産ごとに「どこに、何が、どのくらいあるのか」を特定する必要があります。相続財産には預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も含まれます。
相続財産の調査方法については、後ほど詳しくご説明いたします。
③遺言がない場合は遺産分割協議をして、相続する財産を決めます
亡くなった人が遺言を残していない場合には、相続人同士で遺産分割協議という話し合いをして、「誰が、何を、どのくらい相続するのか」を決めることになります。
この協議は相続人全員で行う必要があります。
ですから、先程の相続人・相続財産の調査をくまなく行なっておく必要があるのです。遺産分割協議が成立したら、協議の内容をまとめた遺産分割協議書を作成しましょう。
遺産分割協議で話し合いが成立しなかった場合、家庭裁判所が介入した遺産分割調停・遺産分割審判で遺産分割を決めていきます。
④実際に財産の名義変更をします
遺言または遺産分割協議書に書かれているとおりに、実際に財産の名義を変更していきます。
例えば、遺言に「甲土地を長男に相続させる」と記載があった場合は、甲土地の名義を亡くなった人から長男に変更する所有権移転登記を行います。
手続きによっては相続人全員が共同して行わなければならないものもあるため、名義変更に時間がかかってしまうケースもあります。
しかし、遺言のある相続の場合は「遺言執行者」を選任しておくことで、スムーズに相続手続きを進めることができます。
遺言執行者とは、相続人を代表して相続手続きを行う人のことです。相続人同士の仲が悪い場合や財産構成が複雑な場合には、遺言執行者を指定しておくことをお勧めします。
2.財産探しは結構大変
①現金の探し方
現金は財布に入っているものだけでなく、金庫やタンス、仏壇の引き出しの中など隠されているものも多くあります。「自分なら、あの人ならどこに隠すかな」と考えながら、入念に調査しましょう。
また、念のため、亡くなる直前に通帳から大きなお金が引き出されていないかを確認しましょう。
引き出されたお金の使い道が分からない場合は、どこかに隠されているか他の相続人に使い込まれている可能性があります。
預金口座から下されていても相続財産であることには変わりありませんので、しっかりとした調査が必要です。
②預金の探し方
亡くなった人がどの金融機関に預貯金口座を持っているか、全国一括で検索するシステムはありません。
ですから、亡くなった人の自宅やタンス、貸金庫などを隈なく探し、通帳やキャッシュカードを見つけ出さなければならないのです。
地方であれば地方銀行に口座を持っている可能性があります。支店数が少ない場合は、全ての支店に照会をかけてみるのも1つの手です。通帳やキャッシュカードが見つからなくても、電話や窓口で問い合わせてみると、口座の有無を教えてもらえる場合があります。支店数が多く全ての支店で確認する余裕がない場合には、自宅の最寄りにある支店に問い合わせてみましょう。
また、通帳やキャッシュカード以外にも、銀行名の入ったタオルやボールペン、カレンダー、メモ帳も調査対象となります。
さらに、金融機関から届くお知らせ等の郵便物が残っていないかを確認しましょう。
最近ではメールでの通知も多くなっていますので、パソコンや携帯電話にそれらしいメールがきていないかをも確認しておくと良いでしょう。特に、通知の場合は無くなった後も郵送・送信されることが多いため、非常に有力な手がかりとなります。
預金口座があることが分かったら、その金融機関で「亡くなった人の死亡日時点の残高証明書」を取得します。残高証明書は、遺産分割や相続税の計算における財産評価をする際に必要になる資料ですので、必ず取得しましょう。
相続税がかかる場合には、残高証明書に加えて「過去5年分の取引明細」も必要になりますので、相続税がかかるか怪しい場合には取得しておくことをお勧めします。
③有価証券の探し方
亡くなった人が持っている有価証券を正確に把握している人は少ないでしょう。
有価証券とは株式だけでなく、債券や手形、小切手なども含まれています。亡くなった人の有価証券を調べるためには、亡くなった人がどの証券会社で取引をしていたかを知ることが重要です。
まずは、証券会社から届く「取引残高報告書」や「お知らせ」がないかを探しましょう。
最近では、郵便物ではなくメールで届く通知も多く、通知の存在自体に気がつかない可能性もあります。パソコンや携帯電話に証券会社からメールが届いていないか、また専用のアプリが入っていないかを入念に確認しましょう。
また、亡くなった人の通帳に「配当」と書かれた振り込みがある場合は、株式を所有している可能性が高いです。
通帳から証券会社を特定できることもありますので、念入りに調査する必要があります。
さらに、上場企業の株式の場合には「証券保管振替機構(ほふり)」に問い合わせることで、亡くなった人がどの証券会社に株式を預けているかを調べることができます。
しかし、非上場企業の株式などは、ほふりで対応していない場合もあるため特定が困難な財産です。
まずは郵便物やメールなどを確認し、地道に調査していきましょう。
証券会社の特定ができたら「亡くなった人の死亡日時点の残高証明書」を取得します。
残高証明書は、遺産分割や相続税の計算における財産評価をする際に必要となる資料ですので、必ず取得しましょう。
④不動産の探し方
不動産は大きな財産ですので、1件の調査漏れによって遺産分割が大きく変動する可能性もあります。
例えば、亡くなった人の自宅だけでなく、山林や賃貸不動産なども持っているケースもあります。
住所などを知っていれば法務局で「登記事項全部証明書」を取得して確認することができますが、亡くなった人の持っている不動産を正確に把握している人は少ないでしょう。
まずは、固定資産税がかかる不動産を持っている場合に届く「固定資産税納税通知書」がないかを探しましょう。
固定資産税納税通知書は年に1度、4〜6月に届きます。不動産のほとんどは固定資産税がかかっていますので、多くのケースではここで全ての不動産が見つかります。
しかし、私道や固定資産税が課税されない土地などは、納税通知書に記載されません。また、固定資産税が課税されている不動産であっても、共有になっていて亡くなった人の持ち分が少ない場合には、亡くなった人に納税通知書が届かない場合もあるのです。
このような場合には、市区町村役場で「名寄帳」を取得することで、納税通知書に記載のない不動産を持っているかを確認することができます。
名寄帳とは固定資産税の課税・非課税を問わず、その人の持っている不動産が一覧にして記載されている資料のことです。亡くなった人の持っている不動産を調べる際には、名寄帳の取得が大きな役割を果たします。
ただし、名寄帳に記載されているのは、その市区町村にある不動産についてのみです。
ですから、「どこに不動産があるか分からない」という場合には、全ての役場で名寄帳を取得することになります。どこに不動産があるか分からないという場合には、不動産の「権利証」や「契約書」が手がかりとなることもありますので、重要な書類が保管してありそうな金庫やタンスなどを探してみましょう。
また、名寄帳には未登記の不動産は記載されていません。
例えば、家の敷地内にある小屋や物置などが、実は未登記の不動産になっている可能性もあるのです。登記がされていないとなると、調査する手段が少なく確認が難しくなってしまいますが、権利証や契約書など手がかりとなる書類を探して確認しましょう。
名寄帳などにより不動産の確認が取れたら、法務局で当該不動産の「登記事項証明書」を取得します。登記事項証明書は法務局のサイトからオンラインで請求することができます。
⑤借地権の探し方
借地権とは、建物を建てることを目的として土地を借りる権利のことです。所有権はその土地を自分のものとする一方で、借地権は土地を使う権利を他の人から借りているということになります。
土地を借りる権利ですから、固定資産課税台帳を見ても借地権として記載されていることはありません。
では、どのようにして亡くなった人の借地権を特定すれば良いのでしょうか?
例えば、亡くなった人が持っていた建物を特定することができたが、その建物が建っている敷地に固定資産税評価がない場合には、借地権を疑うことができます。
このような場合は、土地を借りるときに作成した契約書や、定期的に支払う地代の領収書などがあれば、借地権の存在が明らかになります。
借地権は登記することもできますが、借地権の上に建っている建物が登記されていれば、第三者に権利を主張することができます。
したがって、借地権の相続する場合には、その上の建物の名義変更さえ行なっていれば十分です。ただし、土地を貸している人(地主)には、借地権者が亡くなったことや新しく借地権者となったことを速やかに伝えておくと良いでしょう。
⑥耕作権の探し方
耕作権とは、他の人が所有している農地を借りて、その農地で耕作をする権利のことです。
農地法では小作を行う人の権利を保護するため、小作権を設定・移転する場合には、原則として市町村の農業委員会または都道府県知事の許可を受け、小作契約が賃貸借の場合には、その賃貸借契約の解除についても都道府県知事の許可を受けなければならないのです。このように、小作を行う人は農地法により手厚く保護されており、耕作権もそれほど強い権利なのです。
しかし、権利を持っていたかどうかを調査することは簡単ではありません。
では、耕作権はどのように特定すれば良いのでしょうか?
例えば、亡くなった人が田んぼを所有していないにもかかわらず、農業所得がある場合には、耕作権の存在が疑われます。まずは亡くなった人の所得を確認し、不明な農業所得がある場合には耕作権を疑いましょう。
また、各市町村の農業委員会に問い合わせることで、亡くなった人が農家(小作)台帳に登録されているかを調べることができます。
⑦海外財産の探し方
亡くなった人が海外に持っている財産も相続財産に含まれますので注意が必要です。
例えば、亡くなった人が生前、海外に500万円の送金をしていたとします。
ある程度まとまった金額の海外送金がされると、送金した金融機関から税務署に対して「支払調書」が提出されるため、税務署が海外送金をした人をチェックすることができる仕組みになっています。そのため、海外送金をしたにもかかわらず、相続税申告で海外の財産について記載がされていないと、申告漏れとして税務署に目をつけられてしまうのです。
亡くなった人の海外財産を特定するには、日本の財産と同様手がかりとなる資料を探すしかありません。例えば、海外の金融機関に口座を持っている場合には金融機関からの郵便物やメール、不動産の場合には契約書や固定資産税納税通知書などを探します。
ただし、海外の財産に関する資料は外国語で記載されていますので、財産の把握には非常に時間がかかります。
⑧その他の財産
比較的大きくて分かりやすい預金や不動産の他にも、自動車や時計、宝石なども相続財産い含まれます。このような動産は、相続財産として見落とされやすいので注意が必要です。
自動車は購入時の書類や車検証などを探して確認しましょう。
自動車を購入したときの注文書や請求書、領収書を見ると、自動車の有無を確認することができます。
また、自動車は見つかったが亡くなった人が所有者ではない場合もありますので、このような場合は「車検証」を見てみましょう。車検証から自動車の所有者を確認し、亡くなった人が所有者の場合は相続財産となります。
また、時計や宝石、絵画などは主に自宅を探しましょう。見つかったら、各分野の古美術商に査定(鑑定)を依頼し、査定書(鑑定書)を発行してもらいます。
⑨借入金の探し方
相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も含まれます。マイナスの財産の金額によっては、相続を承認するか・放棄するかの決定に大きく影響しますので、入念に調査をしなければなりません。
借入金には銀行から借りているお金だけでなく、個人から借りているお金、連帯債務も含まれます。特に、連帯債務は亡くなった人がお金を借りていないにもかかわらず、お金を借りた人に代わって借金を返済しなければならない可能性があるため、注意が必要です。
亡くなった人のマイナスの財産を特定するためには、預金通帳や金融機関からの郵便物、メールを確認しましょう。通帳を見て、「利息」「返済」という名目で預金の引き出しがされている場合は、借入金がある可能性が高いです。借入金があることを確認したら、その金融機関で「残高証明書」を取得しましょう。
借入金があるかどうかが分からない場合には、信用情報登録期間に問い合わせて借入金の有無を確認することも可能です。信用情報機関は次の3つの機関があり、相続人等からの請求があると、亡くなった人の借入金の有無について照会をかけてくれます。
⑩生命保険の探し方
亡くなった人が生命保険に入っていたかどうか分からない場合には、通帳や会社の給与明細を見て保険料が引かれていないかを調べてみましょう。
通帳に「〇〇保険料」などの名目で引き落としがされていれば、保険に加入していて保険料を支払っていた可能性が高いです。ただし、保険料を一括で支払った場合には通帳での確認が難しい場合もありますのでご注意ください。
また、亡くなった人の書類の中に、保険証券や保険会社からのお知らせ、ハガキなどがないかを探しましょう。最近ではメールのみの通知で、紙の書類が届かないケースもありますので、パソコンや携帯電話などもチェックすると良いでしょう。
子のように、亡くなった人の生命保険の調査は自宅や通帳、携帯の中など隅々まで探さなければならず、調査漏れも少なくありませんでした。
しかし、2021年7月1日から「生命保険契約照会制度」がスタートし、亡くなった人が生命保険に入っていたかどうかを一括して照会することができるようになったのです。
これにより、わざわざ相続人が地道に調査をしなくても、亡くなった人が入っていた生命保険が簡単に分かるようになりました。
この照会制度で調査を依頼できるのは、亡くなった人の法定相続人とその法定代理人または任意代理人、遺言執行者です。
生命保険協会に行かずとも、オンラインで手続きをすることができますので、是非ご活用ください。
3.まとめ
相続財産の範囲は非常に広く、一つひとつを漏れなく調査するとなると、かなりの時間と労力が必要になります。相続の経験のない方にとっては終わりのない作業のように思えるでしょう。
相続財産の調査は専門家でも時間がかかってしまうことがありますので、できるだけ早い段階で相続の専門家に財産調査の依頼をすることをお勧めします。
また、財産を遺す立場としても、家族が相続で苦労しないために生前のうちから財産整理や遺言の作成などの対策をとっておくことが大切です。
特に、一人暮らしの方は専門家に相談して、円満相続のアドバイスを受けると良いでしょう。
ソレイユ相続相談室では、実務経験の豊富な税理士や行政書士が、お客様に合った相続のアドバイスを行っております。
相続に関してのお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。