多くの人が生命保険に加入していると思います。 生命保険に加入したまま亡くなった場合、受けとる保険金にどんな税金がかかるのでしょうか? 税金がかかるケースもあるし、かからないケースもあります。 私たちの暮らしと深くかかわる生命保険金の受け取りについて、税金の取り扱いを中心にまとめてみました。 この記事を最後までお読みいただき、万が一に備えて最低限の知識を身につけておきましょう

 

(目次)

1.生命保険に税金がかかるのはどんなとき?

2.死亡保険金

3.解約返戻金・満期保険金

4.相続発生時における生命保険金と生命保険に対する課税について

5.相続税における生命保険金の利用方法

6.まとめ

 


1 生命保険に税金がかかるのはどんなとき?

 

生命保険に加入して受け取るお金には、死亡保険金や満期保険金、解約返戻金、入院給付金、就業不能給付金等があります。

このうち課税対象としてクローズアップされてくるのが、死亡保険金、解約返戻金、満期保険金の3種類です。

入院給付金や就業不能給付金などは、一定の条件の元で原則として税金はかかりません。死亡保険金、解約返戻金、満期保険金は原則とし課税対象とされます。

以下に、受け取った生命保険が課税されるケースについて分類してみました。生命保険に加入するときや、万一の保険事故発生時の目安にお使いください

保険の契約には「契約者(保険料支払者)」、「被保険者」、「保険金受取人」という三者が登場し、この関係の組み合わせが課税に関係してきます。なお被保険者とは、生命保険の対象となっている人のことです。

 

 

2 死亡保険金

 

1.契約者(保険料支払者) = 被保険者のケース ⇒ 相続税が課されます。

 

父が契約者となり、自分(父自身)に生命保険をかけ、母や子どもが保険金受取人となっている場合などが該当します。死亡を原因とした相続税の課税対象の保険となります。

保険金受取人が被保険者の法定相続人である時は、生命保険金等の相続税の非課税枠が適用できます。詳細は下記「生命保険の非課税枠について」をご参照ください。なお保険金受取人が法定相続人でないときは、生命保険金等の非課税枠は適用されません。

 

2.契約者(保険料支払者) = 保険金受取人のケース ⇒ 所得税が課されます。

 

母が契約者となり、父に生命保険をかけ母が支払いをし、保険金の受取人を母とした場合がこれに該当します。

保険料を支払った本人が受け取る保険金については、原則として所得税の対象となります。自分で支払ったお金が自分に戻ってきたから自分の所得だと考えるのです。

 

○所得税の計算方法○

受け取った保険料 - 払い込んだ保険料 = 所得(もうけ) になります。

 

所得税では、所得を種類ごとに分けて計算方法を定めています。

種類分け⇒給与所得・退職所得・事業所得・不動産所得・一時所得等

契約者=死亡保険金受取人の所得は、一時所得に分類されて、所得は次のように一時所得の計算式で計算されます。二分の一課税です。

 

*課税対象額=(受け取った保険金額-支払った保険料-特別控除50万円)×1/2

例 受取保険料1000万円、支払保険料100万円

(1000万円-100万円-50万円)×1/2=425万円⇒所得の金額になります。

 実際に払う税金は、他の所得(給与所得)があれば合計して、所得控除(基礎控除や医療費控除)を差し引いて計算します。

 

3.契約者(保険料支払者)、被保険者、保険金受取人が別のケース ⇒ 贈与税が課されます。

 

母が契約者で父に生命保険をかけ、死亡保険金の受取人が子どもであった場合などが該当します。

死亡保険金の受取人が保険料を負担していない場合で、亡くなった人が保険料を負担していないので、相続税の対象にはならずに、保険料を負担している人から贈与でもらったことになるのです。

 

○贈与税の計算方法○

贈与税額=(受け取った保険金-110万円・贈与税の基礎控除額 )× 贈与税率-贈与税率に基づく控除額

たとえば上記のケース(保険金受取人である子どもは未成年者と仮定)で、1000万円の保険金を受け取った場合にかかる贈与税額を計算してみましょう。

この場合、贈与税の計算には一般税率(もらった人によって税率が変わる場合があります)を使用します。

(1000万円-110万円)×40%-125万円=231万円

 上記の計算より、1000万円の保険金を受け取った場合は231万円の贈与税となります。

 

 

3 解約返戻金・満期保険金

1.保険料の支払者 = 保険金受取人のケース ⇒ 所得税が課されます。

死亡保険金のケースと同様に、契約者(保険料支払者)と保険金受取人が同一人物であれば所得税の課税対象となります。

 

2.保険料の支払者以外が保険金受取人のケース ⇒ 贈与税が課されます。

父に生命保険をかけて、満期返戻金の受け取りを母としている場合などが該当します。この場合の贈与税の計算方法は前述のとおりです。

 

 

4 相続発生時における生命保険金と生命保険に対する課税について

1.死亡保険金を受け取る場合

被相続人(亡くなった人)が、契約者(保険料支払者)で被保険者である場合には受取人に相続税がかかります。つまり、亡くなった人の遺産に生命保険が加えられて相続税が計算されるということです。 ただし、相続税の対象となる死亡保険金には下記の非課税枠が設けられています。

 

【死亡保険金の非課税枠】

死亡保険金を受け取り相続税が課される場合、原則として受け取った法定相続人一人について500万円の非課税枠が適用できます。

 

生命保険金等の非課税金額の計算

生命保険金等の非課税枠=500万円×法定相続人の数

このときの「法定相続人」とは、実際に相続する人数ではなく、民法で定められた相続人を指します。法定相続人以外の人が生命保険をもらってもこの非課税枠の適用はなされません。また、この計算式の合計金額は、死亡保険金をもらった相続人が複数の相続人の中の一人でもこの合計金額を一人に使うことができます。

 

例 法定相続人A、B、Cの三人 死亡保険金の受取人はAで金額は1500万円

生命保険の非課税枠 500万円×3人=1500万円

Aの課税対象額 死亡保険金受取額1500万円-非課税枠1500万円=課税対象0円

 

【法定相続人とは】

法定相続人は相続の放棄が無かったとした場合の民法で定める相続人です。

相続人になれる人の順位

配偶者はどのような場合でも相続人となります。

配偶者以外の法定相続人の順位は以下のとおりです。

第1順位:子ども(子どもが先に亡くなっている場合は孫)

第2順位:親(親が先に亡くなっている場合は祖父母)

第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は甥や姪)

 

例 亡くなった人(被相続人)に妻と子どもがいる場合、法定相続人は妻と子ども。

被相続人に妻がおり子どもがいない場合は妻と親や祖父母。

妻がおり子も親もいない場合は妻と兄弟姉妹。

このように相続順位が移ります。

 

【死亡保険金はみなし相続財産】

相続が発生した後に受取る生命保険金は、相続税は課税されるけれど、民法上は相続財産とはなりません。生命保険 契約によって死亡を原因として契約した受取人に保険金が入りますが、この保険金は相続人が遺産分割するテーブルに乗せる遺産にはならないのです。従って他の相続人の同意がなくても死亡保険金を受け取れますし、死亡保険金をもらったから遺産の分配を減らす・・・という計算にはならないのです。

また、民法上の相続財産にならないということは、相続人が相続放棄をしたとしても死亡保険金は受け取れるのです。 しかし、相続税を計算する際には受け取る生命保険金も「みなし相続財産」として相続財産に加えて相続税の計算をするのが税法の決まりなのです。

 

原則として死亡保険金は「みなし相続財産」で遺産分割の対象となる相続財産にはなりませんが、生命保険を使って極端に遺産を減らすような行為があった場合に「相続財産」とされてしまう場合もあるので注意が必要です。

 

2.生命保険契約を相続する場合

 

まだ保険事故(死亡等)が起こっていない保険契約で、被相続人(亡くなった人)が保険料を支払っていた生命保険契約があ る場合には、その契約に貯まっている保険料は預金と同じように被相続人の財産として相続財産になります。なぜなら、解約すれば解約返戻金を、満期が来れば満期保険金を受け取る権利が発生するからです。解約返戻金や満期保険金のない掛け捨ての生命保険契約は除かれます。

この権利は「生命保険契約に関する権利」と呼ばれており、相続税の課税対象になります。

 

①契約者・保険料支払者が被相続人(亡くなった人)のケース

被相続人(亡くなった人)が保険の契約者かつ保険料支払者で、被保険者が相続人のとき、その保険契約の解約返戻金や満期保険料を受け取る権利は被相続人(亡くなった人)にあります。そのため通常の相続財産として扱われます。たとえば保険契約者・保険料支払者が亡くなった父で、被保険者が子どもだった場合などが該当します。

 

②契約者と保険金支払者が別人の場合(名義保険)

生命保険の契約者が子どもで、本来なら子どもが支払うべき保険料を、父が支払っているケースなどが該当します。 相続税では名義よりも実質の保険料支払い者を重視しますので、契約者が相続人であっても、被相続人(亡くなった人 )が保険料を負担していた場合には相続税の対象となります。この契約の保険料が親の通帳から引き落とされているケースが相続税の調査で問題になります。

 

【名義保険の整理】

契約者が子どもで実質の保険料の支払者が父などの名義保険について、保険料支払者(父)が生存中に、自分を契約者として変更する場合。この場合は子から父に名義が変更されるので、贈与のように見えますが、実質の保険料支払者は父なので贈与税の対象となりません。

 

【相続税の計算について】

生命保険契約に関する権利を引き継ぐ場合、死亡保険金を受け取るわけではありませんので、その権利は相続税評価額によって表されます。生命保険契約に関する相続税評価額は、亡くなった日を保険解約日とした場合の解約返戻金の額となります。

 

 

5 相続税における生命保険金の利用方法

1.非課税枠の利用で相続税を減らす

死亡保険金には前述のとおり固有の非課税枠が設けられています。この非課税枠を最大限利用して相続税を抑える方法です。 死亡保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数ですから、たとえば妻と子どもが3人いる場合の非課税限度額は2000万円になります。つまり2000万円までの死亡保険金には、相続税が1円もかからないということです。相続を目的として生命保険に加入するのなら、まずは法定相続人の数を確認して非課税枠を最大限利用しましょう。

 

2.代償分割としての活用

たとえば父名義の自宅不動産(2000万円)と預貯金1000万円の合計3000万円の財産を子ども2人で相続する場合を考えます。

平等に分けようとすると1500万円ずつになりますが、不動産が2000万円のため分割に問題が生じます。不動産を共有名義にすれば解決しますが、不動産に対する権利所有者が複数人となるため、複数の人が同じ不動産に同じ権利を持つことになってしまいます・・・誰が使うのか、誰が管理するか等の問題も生じますし、将来売却などを検討するときには困難が生じてしまいます。このような場合に有効なのが代償分割です。

代償分割とは、相続人のうちの1人または数人が遺産を現物で取得し、その現物を取得した人が遺産を取得する代わりに、他の相続人に対し遺産からではなく自分のお金で代償金を支払う遺産分割の方法です。 たとえばこの例で考えると、子どもAが自宅不動産2000万円を相続する代わりに自分のお金500万円を子どもBに渡します。すると書類上の相続合計が1500万円ずつになる、というものです。

 

子どもA:不動産2000万円-500万円=1500万円

子どもB:預貯金1000万円+500万円=1500万円

計 3000万円

このように代償分割を行うためには、子どもAに500万円の現預金が必要です。しかし不動産は高額となることがら、代償金の準備ができないケースが多くあります。そこで生前に自宅不動産を受け継ぐ予定である子どもAを受取人とした生命保険に加入しておくのです。死亡保険金は受け取った子どもAの遺産とは関係ない財産となることから、代償分割のための代償金として利用できます。相続争いを未然に防ぐ手段として、生命保険が活用できるのです。

 

3.相続開始時の預金凍結対策

人が亡くなると、遺産分割協議が終わるまで亡くなった人の預金口座は凍結されてしまいます。これは亡くなった人の預金は相続財産ですから、遺産分割が行われるまで誰が使うか決まらない財産だからです。口座が凍結されると、家族の生活費が引き出せなくなるとともに、口座振替に設定している電話代や光熱費の支払いなども一緒に止まってしまうため色々な不便が生じます。。

そんな時に生命保険に加入してくと便利です。死亡保険金はその受取人が手続きを行えば1週間程度で受け取ることもできるので急な支払いに充てられます。

 

4.相続放棄をしても受け取れる

生命保険による死亡保険金は原則として相続財産に含まれません。そのため相続人が相続放棄をしても死亡保険金だけは受け取れます。

たとえば、被相続人(亡くなった人)に借金があり遺産総額がマイナスだったとき、相続人は相続放棄をすることで借金を引き継がずに済みます。しかし、預金や株などの財産もまた相続できません。しかし相続人を受取人とした生命保険に加入していた場合、相続放棄をして債務の引継ぎをしなくても死亡保険金は受け取れるのです。

ただし、注意点として、相続放棄をした場合は4で説明した死亡保険金の非課税枠を適用できません。

また、相続人以外の人が相続財産を取得した場合は相続税額は2割加算されますが、死亡保険金を受け取った人が配偶者や一親等の血族(代襲相続人を除く)であれば、2割加算の対象にはなりません。

 

 

6 まとめ

 

生命保険と税金に関する知識をご紹介しました。生命保険に対する税金は契約内容によって違ってきますので、ご自身の契約内容を確認しておきましょう。また、名義保険となっている契約の場合に、契約者と保険料の支払者の関係を途中で見直す場合には税理士に相談した方が安全です。

相続税がご心配な方にとって生命保険は相続対策にも活用できる強い味方です。ただし、何事もやりすぎは色々な問題が出てきます。生命保険をかけすぎて老後の生活資金に困ることになってしまったり、急なお金が必要になった時に解約して元が取れなかったり・・・・。

何のために生命保険をかけて、相続や相続税の何に使うのかを明らかにするためにも、相続財産の把握と相続税のシミュレーションを行っておくことが重要です。

相続税のシミュレーションや円満な遺産分割の方法については、相続専門に相談をお受けしているソレイユ相続相談室の無料相談会場やオンライン相談をご活用ください。

 

 

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この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。