更新日/2022年11月28日
相続には知っておきたいさまざまな手続きがありますが、その中の1つに「相続時精算課税制度」と呼ばれる制度があります。この制度は贈与を受けた受贈者が2,500万までは贈与税を納めなくてもよく、贈与者が亡くなって相続が開始された際に贈与された財産の価額と相続財産の価額を合わせて相続税額を算出して、相続税納める制度です。つまり、贈与税を納めない代わりに先送りし、相続時にまとめて税金を計算するしくみです。
今回の記事では相続時精算課税制度のしくみや債務控除について解説します。平成15年に創設された制度ですが、使いにくいという声も多い制度です。活用時のメリット・デメリットもわかりやすくトコトン解説しますので、ぜひご一読ください。
目次
相続時精算課税制度とは|制度のメリット・デメリット
平成15年の税制改正によって作られた「相続時精算課税制度」は運用開始から月日が経過しているものの、制度の活用は注意点も多く慎重に検討する必要があります。では、制度の概要およびメリット・デメリットを詳しく解説します。
相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度の特徴は以下4つです。
1.対象範囲が決められている
・贈与者は「原則として60歳以上の直系尊属」
・受贈者は「成人している孫や子」
制度利用は対象者が定められており、祖父母から孫や高齢化した父母から子、等が想定されています。令和4年4月1日以降は成人年齢の変更により、18歳以上の子や孫が対象となりました。暦年贈与と比較すると、対象者の範囲が限られるため使いにくいと感じる方もいます。
2.贈与税がかからない額が定められている
相続時精算課税制度の最大の特徴は「贈与税がかからない」点です。2,500万円まで特別控除額とされており、暦年贈与の110万枠より大幅に上回る額が控除されます。なお、2,500万円を超える場合贈与税は一律20%の額が課税されます。
3.贈与税は生じなくても相続税時に精算が必要
「相続時精算課税制度」という名称にあるように、この制度は贈与税を支払わない代わりに、相続時には贈与を受けた財産を被相続人(生前は贈与者だった方)の相続税を計算するときには相続財産と合算する必要があります。贈与税を納めている場合は合算不要です。
4.相続時精算課税制度を使うと、暦年課税制度は使えない
贈与をする時には暦年課税制度という方法もあります。毎年110万円までは贈与ができる、広く知られる制度です。一度相続時精算課税制度を使うと、暦年課税制度は使えなくなります。併用もできません。
相続時精算課税制度のメリット・デメリット
■メリットとは
・相続税精算課税制度はそのしくみを捉えると、「高齢者世代→次世代」へ財産を継承できるという大きなメリットがあります。
・一律20%の税率のため、金額によっては暦年課税制度よりも税金が安くなる
・贈与時の時価額が相続時に加算されるため、価値が高くなりそうな財産なら相続財産評価よりもお得になる
下記は相続時精算課税制度をお得に活用できた一例です。
例 大学生の孫に贈与税を納める資金力はない。そのため相続時精算課税制度を使って祖父母から賃貸の収益があり、今後価値が上がりそうな不動産を贈与した。収益は孫が学費に使っている。孫への相続税の2割加算を見越しても、収益を見据えればお得である。
■デメリットとは
相続時精算課税制度は適用するためにはいくつかの書類を揃える必要があります。贈与税の申告書や相続時精算課税選択届出書、対象となる贈与者・受贈者の戸籍謄本なども揃える必要があります。一方で暦年課税制度なら110万以下であれば申告不要です。
相続時精算課税制度を使うには面倒な届け出手続きが必要なのです。制度利用の開始後は、わずかな額の贈与でも発生したら贈与税申告を怠ってはいけません。申告漏れが起きると20%が課税されてしまいます。さらに、相続人ではない孫は相続税で2割加算される、相続税の物納ができないというデメリット等もあります。特に物納ができない点は注意が必要です。大きな額の財産を贈与で受け取ったとしても、将来は物納ができない相続が待ち受けていると考えると、迂闊に費消はできません。相続税を見据えた財産運用が必要になるのです。
相続時精算課税制度はデメリットも大きいため、慎重な判断が必要
相続時精算課税制度は、運用開始後も広く制度活用されているとは言いにくい制度です。
また、暦年贈与と比較するとデメリットも多く、祖父母から孫への結婚資金や育児費用の提供のための贈与なら110万円の枠内の中で贈与をする方が相続税時の2割加算の心配もありません。高額贈与を予定している場合なら、暦年贈与をある程度行った後に、相続時精算課税制度に移行する、という方法も考えられます。相続時精算課税制度は2,500万円の枠内だけで判断するのではなく、慎重な判断をするためにも税の専門家と相談しながら決めることがおすすめです。
相続時精算課税制度で相続税を算出する際、債務があったらどうする?
生前贈与を行っていた方が亡くなり、相続財産を計算しようとしたら、「債務」が発覚する場合もあります。たとえ生前にたくさんの資産をお持ちだったとしても、債務が無いとは限りません。特に事業を営んでいた方は会社に関連する債務が発覚するケースもあります。相続時には「プラスの財産ばかりだろう」と思っていると、突然借入先から通知が届くこともあるので、しっかりと相続財産の調査はマイナスの財産も含めて調査しましょう。
本来被相続人に借金などの債務があった場合には、相続人が返済義務を負います。相続開始とともに相続人へ債務が分割されると考えるため、遺産分割協議の開始や内容に関わらず承継されるものです。これは被相続人にお金を貸していた債権者を保護する意図もあります。
では、相続時精算課税制度を利用して贈与を行っていたケースで、贈与者(被相続人)に債務が発覚したらどのように対応すれば良いでしょうか。
贈与者に債務が発覚!こんな時はどうする?
もし、相続時の段階で相続時精算課税制度の贈与者だった被相続人に借入金等の債務が発覚したら、以下のような方法が考えられます。
1.債務控除をする
たとえ相続財産が無くても、相続時精算課税制度で生前贈与を受けている場合には相続財産として計算する必要があります。もしも、被相続人に債務が見つかったら、「債務控除」をした上で相続財産の計算を行うことができます。また、下記例にあるように、贈与税を支払っている場合は相続税計算時に控除できます。
例
相続人1名で相続財産500万、相続時精算課税制度の贈与6,000万、発覚した債務1,000万の場合
相続財産500万円+相続時精算課税制度を使った贈与6000万円-債務1000万=
相続税財産は5,500万、債務は債務控除する。
相続時精算課税制度で支払っている贈与税は6000万-2,500万(非課税枠)×20%=700万
相続税の基礎控除は3,000万+600万(1名分)で3,600万
相続税の対象額は5,500万-3,600万-700万=1,200万円
相続税率は3,000万以下で15%のため、納付予定額は1,200万円×15%=180万円
参考記事はコチラ→国税庁 No.4155 相続税の税率
2.相続放棄をする(注意点あり)
相続時精算課税制度を使っていても、相続放棄はすることができます。あまりに高額の債務が発覚したら、落ち着いて相続放棄を選択することも視野に入れましょう。しかし、注意点があります。
・相続放棄をしても、相続税精算課税制度時の贈与は相続税が課算される
・相続放棄をしたら、相続財産計算時に債務控除ができない
相続放棄は民法で定められている権利です。相続の開始を知った時から3か月以内に手続きをする必要があります(915条第1項)しかし、相続税精算課税制度を使って贈与を得ていた方が債務に驚き相続放棄をしたら、債権者からすると財産隠しに感じ、訴訟に発展する可能性もあります。トラブルを防ぐためには、以下を押さえておきましょう。
贈与の際には、債務の有無についても話し合いを
相続時精算課税制度を決める場合には、おそらくほとんどの方が暦年贈与とどちらの方がメリットは大きいのか熟慮されるでしょう。贈与を開始する際には個人・会社関係の債務について、受贈者にもお話をしておくことが望ましいでしょう。相続放棄をしても相続税の負担は残されてしまう上、相続放棄は次の順位の親族に相続がバトンタッチされていくため、親族内に大きな火種を生み出す可能性があります。相続人全員が放棄した後には、相続財産管理人の選任などの手続きも必要です。贈与の決定には家族間の情報共有が必須であり、専門家のアドバイスを受けながら決めることがおすすめです。
相続時精算課税制度のゆくえとは
当記事でも触れましたが、相続時精算課税制度は今後のゆくえについて議論が重ねられています。令和4年11月8日、政府が運営する税制調査会では相続税はもちろんのこと、相続時精算課税制度についても見直しをするべきという議論が交わされました。
悪評も多い相続時精算課税制度は負担を軽減するなどの方法で、使いやすくなる見込みです。暦年贈与も見直しが進む予想であり、今後注視が必要でしょう。増税や負担増となる可能性も踏まえると、現段階からさまざまな方法を使って適切な贈与を開始することが望ましいと考えられます。贈与、相続に関しては一人一人のご事情に向き合い、適切なご提案を行うソレイユ相続相談室におまかせください。