作成日/2021年10月15日

1、債務の相続と相続税

①債務の相続

相続が発生して債務(借金)を亡くなった人が遺している場合には、原則として各相続人が法定相続分に応じてその債務を引き継ぐことになります。遺言や遺産分割協議がない場合でも自動的に分割されてしまいます。

さらに、遺言や遺産分割協議で、法定相続分とは異なる内容で債務の負担割合を決めてあっても、その取り決めは相続人の間の取り決めとしては有効ですが、債権者に対しては、その遺言や遺産分割協議を見せても支払いを拒絶できないのです。

債権者は、遺言や遺産分割協議の内容に従う義務はなく、債権者が承認しない限り、各相続人に法定相続分に応じた金額を請求することができます。

また、亡くなった人の財産より債務の方が多ければ、相続人は三か月以内に「相続放棄」をすれば債務を支払わなくて済みますし、債務より財産の方が多ければ遺言や遺産分割協議で分割して相続することもできます。

ただし、この場合も債務については前述の原則となってしまいます。

相続税はおおまかにいうと下記の計算式で、課税される金額が決まってきます。

プラスの財産等-マイナスの財産等-相続税の基礎控除=課税財産

つまり、相続財産に債務がある場合、プラスの財産から債務を引くことができるのです。

これを債務控除と言います。

ただし、この債務控除は「亡くなった人の債務で、亡くなった時に存在し、確実と認められるもの」しか対象となりません。

従って、亡くなった人が借金の保証人や連帯債務を負っていた場合、保証債務や連帯債務は債務控除の対象となるとは限らないのです。

2、保証債務の相続と相続税

①保証債務と相続

保証債務とは、他人の借入金に保証人として契約(押印)して、債務者が借入金を返済できない場合に、その借金を肩代わりして支払う事をいいます。

例えば、Aさんが債務者として銀行からお金を借りる時に、銀行から保証人をつけることを借入の条件とされて、AさんがBさんに借入の保証人を依頼し、Bさんが借入の契約書に自署押印して承諾する場合です。

この場合に、Aさんが約束通りに借入金を返済できない状況になると、銀行は保証人であるBさんに債務の返済を要求します。この際にBさんが支払わなければならない債務が保証債務になるのです。

ただし、Bさんはその債務を支払ったあとで、Aさんに自分が支払った債務の返済を求めることができます。

これを求償権といいます。

このように、保証債務は、主たる債務者が返済をしない場合に、保証人に返済を請求できるし、保証人は債務者に求償権があるのです。

この保証債務は債務者と保証人の間の契約とされ、原則として相続の対象となるのです。

②保証債務と相続税

保証債務は債務者が返済している間は請求されることがないので、いつ債権者から請求されるかはわかりません。さらに債務者が返済できずに、保証人として支払いを請求されたとしても、その後で主たる債務者に求償権に基づいて請求できるのです。

そのために、相続税の計算では確実な債務に該当すると認められないため、原則として、債務控除の対象とはならないのです。

ただし、主たる債務者が、次の2つの状況に共に該当する場合には、債務控除ができます。

A 主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証人がその債務を履行しなければならない場合

B 主たる債務者に求償権を行使しても弁済を受ける見込みのない場合

3、連帯債務の相続と相続税

①連帯債務と相続

連帯債務とは、住宅ローンでよく使われる形で、複数の債務者が同一の債務について、各自独立に全部の支払いを負担する形の債務の事をいいます。

例えば、夫と妻の二人を連帯債務者として3,000万円の住宅ローンを組んだとします。

夫と妻は共同で3,000万円のローンを銀行に返済していくことになります。銀行は連帯債務者になっている夫からでも妻からでも返済を受けることができます。

銀行は夫がローン払わなければ妻から、妻がローンを払わなければ夫から返済を受ける事ができるのです。

連帯債務は、複数の債務者それぞれが均等に債務を負担します。

従って、相続が発生すると連帯債務も負債として相続することになります。

②連帯債務と相続税

連帯債務は、相続の時の状況に応じて債務控除ができる金額が異なります。

A 連帯債務者のうち債務控除を受けようとする者の負担すべき金額が明らかとなっている場合

→その明らかとなっている金額が債務控除できます。

B 負担すべき金額が明らかになっていない場合で、連帯債務者のうちに弁済不能の状態にある者があり、かつ、求償しても弁済を受ける見込みがなく、その弁済不能者の負担部分も負担しなければならないと認められる場合

→その負担しなければならないと認められる部分の金額も債務控除可能となります。

4、まとめ

亡くなった人に債務がある場合には、相続放棄、遺産分割、相続税の債務控除等複雑な課題があります。

保証債務や連帯債務がある場合にはさらに複雑な検討が必要になります。

このような場合には、相続専門の税理士に相談して、遺産額を3ケ月以内に計算して、相続をどうするか検討することが必要になります。

この記事の監修者

糸山 優子

糸山 優子(税理士)

埼玉県出身。家庭と仕事を両立させながら日々資産税業務に携わる中で、持っていた税理士資格をお客様のために活かそうと、令和2年に税理士登録しました。
一般企業での勤務経験、家族を大切にする家庭人としての経験を、相続で悩むお客様に寄り添った、丁寧で安心できる対応に活かして相続専門の税理士として活躍中です。