遺言の「相続させる」と「遺贈する」の使い分け
公開日2021年8月12日
遺言では、妻や子どもなどの法定相続人の他にも、友人や団体などの法定相続人ではない人たちにも財産を受け継がせることができます。
このように、相続人またはそれ以外の人たちに財産を残したいときは、「相続させる」と「遺贈する」の2つの表現を使用して遺言を書くことになります。例えば、「長男にA土地を相続させる」「孫に自動車を遺贈する」のような形です。
一見、この2つの表現は同じ意味のように思いますが、実は、法律上では全く意味や効果の異なる表現になってしまうのです。では、具体的に誰にどちらの表現を使えば良いのでしょうか?
今回は、「相続させる」と「遺贈する」の使い分けについて、詳しく解説していきます。
「相続させる」と「遺贈する」の違い
遺言に「相続させる」または「遺贈する」を書いた場合、その効果の違いは相続手続きをするときに現れます。また、「相続させる」は特定の人にのみ使用できる表現ですので、注意が必要です。
以下では、「相続させる」と「遺贈する」の違いをいくつかご紹介します。
①対象となる人が違う
遺言で「相続させる」という表現を使えるのは、対象となる人が法定相続人の場合のみです。
法定相続人とは民法で決められた相続人のことで、多くの場合は妻・夫や子どもが法定相続人となります。法定相続人以外の人に対して「相続させる」と書いたとしても、効果がありませんのでご注意ください。
一方で、「遺贈する」という表現は、法定相続人であるかそれ以外の第三者であるかに問わず使うことができます。
つまり、法定相続人である妻に対しては「相続させる」「遺贈する」のどちらでも使用できますが、法定相続人ではない友人に対しては「遺贈する」という表現しか使うことができません。ただし、法定相続人に財産を残す場合は、「相続させる」という表現をお勧めします。理由については後述のとおりです。
②不動産の名義変更手続きが違う
「相続させる」という遺言があると、不動産の名義変更(相続登記)の手続きを、相続人が1人で行うことができます。
例えば、「妻にA土地を相続させる」という遺言であれば、妻は単独で名義変更の手続きをすることができるのです。
一方で、「遺贈する」という表現の遺言であった場合、不動産の名義変更は他の相続人全員と共同で行わなければなりません。そのため、「相続する」と書かれていた場合に比べて、時間がかかってしまうデメリットがあります。
「遺贈をする」という表現は相続人にとってデメリットとなってしまうことが多いですので、法定相続人以外の人に不動産を残さないような工夫が必要になります。
しかし、遺産分割を1人で考えるのは非常に難しいことです。遺言の作成は相続に詳しい「相続専門の税理士」への相談をご検討ください。
③財産を受け取りたくない場合の手続きが違う
遺言によって財産を受け取ることになったとしても、遺言者に借金が多い場合や相続に関わりたくない場合には、財産を受け取らないという選択をすることができます。これを「相続放棄」といいます。
「相続させる」と書かれていた財産を放棄する場合は、3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすることで、放棄をすることができます。
一方で、「遺贈する」と書かれていた財産を放棄したい場合は、その遺贈が包括遺贈か特定遺贈かによって放棄の手続きが異なってきます。
包括遺贈とは「財産の2分の1を遺贈する」というように、財産の割合で遺贈する方法です。この場合は、「相続する」場合と同じように3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。
これに対して「A土地を遺贈する」のように特定の財産を指定して遺贈する特定遺贈の場合は、遺贈を放棄することを他の相続人に伝えるだけで放棄をすることができます。
「遺言執行者」の指定などの配慮を
相続が始まると、相続人は亡くなった人の財産調査や、相続税の計算などを行わなければなりません。それに加えて、不動産を「遺贈する」遺言が残っていると、名義変更の手続きを相続人全員で行うことになりますので、非常に面倒な手続きが増えることになります。そのため、法定相続人への遺産分割には「相続させる」という表現を使用しましょう。
また、遺言を残す場合は「遺言執行者」を指定しておくと、相続手続きが簡単になります。残された家族にとって優しい遺言となるように、遺言の内容にも工夫を施しましょう。
ソレイユ財産管理では「遺言書作成サポート」と「遺言執行者業務」を行っております。遺言の作成を検討している方は、ぜひ一度ご相談ください。
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